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心の奥から消えないものはきっと自分にとって大事な何かだ

「黄緑……何故…!」



立っているのが不思議なその傷で、黄緑は銃を地面に落とした。閻魔も地面に勢いよく倒れ、黄緑の方を睨み殺すような眼で振り返った。私と百鬼もこの状況に固まる。



「閻魔様…僕が本気であなたに協力していると思っていたんですか…?」



ふらふらと、よろめく足で閻魔の元へ近付く黄緑。地面に血を落としながらも閻魔の真横まで辿り着く。



「ふふ…さくらちゃん…まさか自分も死ぬ覚悟で刃を自らに突き立てるなんてね…。やっぱり人間の考えることは分かんないなぁ…。でもお陰で…閻魔をこうして討つことができた…お礼を言うよ」



こちらの方を向いた黄緑に警戒心をもって、百鬼が私の前に出る。



「百鬼…僕が復活して焦っているのかい?それとも、やっぱり恋敵から姫を護る騎士(ナイト)気分なのかな…。まぁどちらでも、いいさ。僕が必要としてるのはこれだから…」



そう言うと黄緑は倒れている閻魔の懐に手を入れて、赤く光る何かを取り出した。それを見た瞬間、百鬼や久須郎、久須郎に肩を担がれている与太造が血相を変える。



「それはっ…“閻魔の称号”!」



百鬼がそれを手にした黄緑に斬りかかるも、間一髪のところで黄緑はそれを躱し、遠くの岩山へと一気に移動する。



「くそっ…!」


「どうしたの…!?あの赤い水晶のついたネックレスみたいなのって…」


「あれは…次期閻魔に継承される閻魔の称号だ…黄緑にあれを着けられたら黄緑が閻魔に…!」


「っ…!」


「早く取り上げねぇと今までの努力が水の泡になるっての!」



百鬼の言葉に、私も久須郎も、体の痛む与太造も走り出す。勿論百鬼も。ここまで色々なものを犠牲にして戦ってきた…ここで終わるわけにはいかない…!



「ふふ…残念。間に合わない。これで僕が正式な閻魔だよ……!!」


「待て!!」


「……」


「!?」



百鬼が叫ぶ。その手はあと一歩のところで________。黄緑は高らかに称号をかざすと、それを首へと装着した。



黄緑から眩いほどの赤い光が発せられる。



「体の傷が見る見るうちに回復していく…!これが閻魔の力…!」



黄緑の負った傷が凄い修復力で治っていく。目の前にいる百鬼もあまりの光に近付くことができない。



「これで僕が閻魔だ…!地獄の覇者だ!君達は僕の輪廻転生のために…!」



黄緑が大きく息を飲んだ。そして言葉も止まり、赤い光も渦を巻いて収束していく。



「…………何、?」



明らかに異様な様子に、私はそう呟く。



次の瞬間。



「がっ……はっ!!」



黄緑が口や体全体から多量の血を吹き出した。



「「「「!!??」」」」



私達は目を見開く。しかし黄緑の出血は止まらない。まるで体の中が何かを拒否しているかのように血を吐き続ける。それを見た与太造が言った。



「称号が……黄緑を受け入れていないんだ」



まさか。そんなことが起こりうるのか。閻魔から奪った称号を身に付けた黄緑を…称号そのものが拒否するなんてことが。


私達が唖然とする中、百鬼が目の前に倒れている黄緑を見て言った。



「………お前……こうなることが分かっていたのか」



私と久須郎、与太造も百鬼と黄緑のいる岩山の上へ辿り着く。百鬼の言葉に、黄緑は僅かに口元を吊り上げた。



「はて……一体何を言い出すのかと思ったら…呆れたものだよ。まだ僕に、そんな幻想を抱いているの、かい…?」



僕が君にしてきたことを忘れたとでも?黄緑は続けた。黄緑の首にぶら下がっている称号は黄緑の血に塗れたからか鈍い赤色をして光を発さなくなった。



「…………何故だ、黄緑…。何故…あれほどまでに敵対視していた俺を…俺達を庇った」



百鬼は、力強く拳を握った。庇った…?黄緑が、百鬼を?私達を?そんなわけないと思いつつも、百鬼は黄緑が何と言おうとそれを確信しているかのようだ。



「お前が閻魔を撃ったあの時…俺達が閻魔に撃たれてからでもよかったはずだ。そしてこの称号を手にした時も……」





“「ふふ…残念。間に合わない。これで僕が正式な閻魔だよ……!!」”


“「待て!!」”


“「……」”


“「!?」”





「…………あの時一瞬俺の方を見て何かを悟っているかのように笑った…。お前はこの称号を手に入れたところで、正式に受け継いだものでなければこうして命を蝕むことを知っていた…。それは俺が手に入れても同じ。自分が身代わりになることでそれを防いだのか」



百鬼の言葉に、黄緑はかすれ声ではっ、と笑った。



「ふふ…御人好しにも程があるんじゃない、百鬼…。自意識過剰、とでも言った方が、いいのかな…。僕が大嫌いな君のためにそんなこと、するわけ……」



黄緑の言葉が止まる。そして驚いたように私を見た。紛れもない、私が指で掬ったからだ。黄緑の涙を。その様子を見届ける久須郎も与太造も静かに見届けている。



「何……これ。僕が、泣いてるの?それとも…さくらちゃんの涙、?」



顔を傾けた黄緑の頬にもう一度指を添わせる。



「…どっちでもいいよ」


「…………何だい、それ…。全く、さくらちゃんといい僕の恋敵といい…やっぱりそっちの人種は理解、できないなぁ…」



黄緑は呆れたように笑った。彼にはもう戦う力なんて残っていないことくらい誰でもわかる。それに、きっと百鬼の言っていたことも…事実なんだろう。この涙が何よりの証拠かもしれない。私を捕まえて輪廻転生させようとしたり…自分が輪廻転生するために目玉を抉りとろうとしたりしたのに。



「黄緑…さん。百鬼に恋敵と言いつつ…ずっと黄緑さんの眼の中にいるのは私じゃないでしょ」


「…………!」


「忘れられない…誰かのことをずっと想ってる…違う?」



私は黄緑の横に膝を付いた。どうやら図星だったようだ。大きく開かれた眼が揺れる。



「私達のことをそっちの人種、だなんて言ったけど、黄緑さんだって本当は…昔は、そうだったんじゃないの?だから私達を助けてくれたんじゃないの?」


「…………」



黄緑さんは押し黙った。暫くの沈黙が私達を包む。



「……相変わらず、僕の予想外のことばかり言ってのける…」


「……?」


「やっぱり君には敵わないな…さゆき」



黄緑さんは静かに私をそう呼んだ。誰かと私を重ねているようだった。心の奥にずっといた、忘れられない、誰かと。



「さゆき……?」



百鬼が考えるように呟いた。



「ふふ…思い出せなくても結構だよ…百鬼。君には縁遠い人物だ…」



黄緑がそう言うも、百鬼は何かを思い出したかのようにぴくりと体を動かした。



「将軍様の……正室」



正室…百鬼たちが生き抜いてきた人間界…戦国時代の将軍の正妻のことか。



「あぁ…覚えて、たんだ。正確には、正室と言う名の元…将軍に利用されてしまったんだけどね…」



黄緑は自嘲気味に言った。胸の奥にいつまでもつっかえるそれが、地獄に行っても続いている…そこには深い深い物語がありそうだった。

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