俺達は、一人で戦ってなどいないからな
誰も、いない。
百鬼、
与太造、
久須郎、
英雄、
おばあちゃん…
みんな。
「さ、行こうかさくらちゃん…」
この男と閻魔、そして私だけ。
黄緑さん…いや、黄緑の手が私の首を掴んだ。
「輪廻転生には太陽が必要なんだよね…。生憎僕は光を消すのが専門なんだけどね、灯すのは苦手なんだ。だからさくらちゃん…僕に太陽を頂戴よ」
太陽を、頂戴……。何を、言っているんだろう。確かにみんなは私の中に太陽があると言った…でも。そもそも私はそれを自覚したことなんてない。あげる、なんて到底できないし、この人に心を許すつもりも預けるつもりも一切ない。
「ふざけたこと抜かしてんじゃないわよ…人を貶めてまで自分の承認欲求満たそうとするような餓鬼に売る心なんて寸分たりとも持ち合わせてないんだから…!あんたは人から好かれない理由を他責にしていじけてるだけじゃん!そんな奴しかいない世界なんてっ…みんながいない世界なんて、生きてたって何にも楽しくなんかないんだよ!!そんな寂しい思いして生き返ったって何にも嬉しくなんかないんだよ!!」
悔し涙か、悲しい涙か、それとも恐怖か。ごちゃごちゃになる感情を全部吐き出す。黄緑は私の首を掴んだまま固まっている。でも次第に、私の首は締まっていく。息もできないほどに。黄緑がものすごい剣幕で私の首を締め始めたのだ。
「小娘が…!知ったような口を利くなよ…!僕はお前らみたいな馬鹿とは違う!くだらない情やつながりなど等に断ち切った。僕は選ばれし人間なんだよ!生き返る権利がある!さっさと太陽をよこせ!!」
「っあっ…か、はっ…」
苦しい。意識が遠退きそうだ。このまま、黄緑に殺されるのか…。そうなったら、私は一生この地獄で生きていくのか…。
“さくら”
……!
何故だろう。百鬼が私の名前を呼ぶ姿が思い浮かぶ。
そうだ。ちょっと待って…。私、まだ百鬼にきちんと気持ち伝えられてないの。あの時…百鬼がいないなら人間界には帰りたくないって言おうとしたのは…紛れもない本心だよ。初めは地獄なんていう場所に来て苦しくて、人間界に帰りたくて…必死に抗って。その内に信頼できる仲間が地獄の果てでできた。
“あんたの諦めない強い心が…思い出させてくれたんだよ、自分を”
……おばあちゃん。
“俺は…今度こそ大事なもんを護る英雄になる、それが俺の、償いだ…!”
……英雄。
“もう一度医者として誰かのために戦いたいと思えた…。僕を人間に戻してくれて、ありが、とう…ございました”
……団寿。
“負けねぇっての…。俺はもう、ちゃんと知ったから”
……久須郎。
“お前があの時俺の前に現れてなかったら…多分俺は母さんや親父にここで会うこともなく、今も闇の中を…過ごしてたぜ、このやろう”
……与太造。
“…お前を傷つけるようなことはしない。だが…離したくない”
…………………………百鬼。
……………………そうだよ、こんなところで簡単に死ねない。今ここで私が諦めたら、みんなの気持ちが、無駄になってしまう…。生きる、戦う…。私は……、
「諦め、ないっ……!」
「…な、!?」
首を締めている黄緑の手を掴む。精一杯の…本当に精一杯の力を振り絞って、黄緑の身体を投げ飛ばした。
「っ、はぁ、はぁ…!」
やっと空気を取り入れることができる。大きく息を吸って、肩を上げ下げさせた。その間に黄緑は立ち上がって私に襲い掛かってくる。
「成程…!やはり一筋縄ではいかない子だね…!じゃぁ刀で身体を斬ってあげるよ!」
振り回される刀をしゃがんで躱す。ハラハラと私のピンク色の髪の毛が舞っていくのが見えた。先程英雄が私を庇ってくれた時に使った鉄パイプを拾って、黄緑に上から振りかざした。
ガンッ!
「甘いよさくらちゃん…!いくら頑張ったところで僕に勝てないことくらいわかってるでしょ…!いい加減諦めたらどうだい!?」
勿論私の攻撃なんて黄緑さんに簡単に止められる。それでも。
「絶対に諦めない…!みんなが繋いでくれた想い…!私はたくさんの太陽に護られてるんだから!!」
その瞬間、私と黄緑の上に影ができる。私と黄緑ははっと目を丸くさせて、天井を仰いだ。
「よくやった、さくら」
____________あぁ、。
________________百鬼___________。
飛び上がった百鬼は、そのまま黄緑に二刀を振り降ろす。私の鉄パイプを掴んでいる反対の手で刀を持ち、百鬼の上からの攻撃を止めた。
「っ…百鬼…!まだ食らいつくか…!しつこい奴め…!だけど残念…両手が塞がっていようとも、今の君ら二人くらい簡単に倒せる」
黄緑の言葉に、百鬼は鼻で小さく笑った。
「_______誰が二人だけだと言った?」
「________________何、?」
「「おおおおおおおおお!!」」
雄叫びが聞こえる。黄緑のすぐ後ろから。黄緑はすぐさま後ろを振り向く。金棒をもった与太造、蛇を伸ばしてきた久須郎の姿が目に入る__。
「っ何だとっ……!」
「気ぃ抜き過ぎだぜこのやろう!」
「もう一回猛毒に犯してやるっての!」
黄緑は私と百鬼を力づくで突き放して攻撃に備えようとするも、私達が黄緑に食らいつく。
「くそっ…離せ!!」
「…俺達は、一人で戦ってなどいないからな」
「くっ……!ぐあぁああああ!」
爆風が起こる。二人の攻撃が、とうとう黄緑を直撃した。攻撃が当たる直前に百鬼が私を抱きかかえて遠くへ避難させてくれる。爆風が吹き砂煙のみが残る中…私は確かに百鬼の温もりを肌で感じていた。
「百、鬼…」
「…遅くなって済まない」
「ううん……信じてた」
私は百鬼の首に腕を回す。百鬼も私を抱きしめる力を強くさせた。
「けっ!こ、こんな公衆の面前で何やってるんだっての!くそがっ!」
「…っつーわりに顔真っ赤にさせてやがんじゃねぇかこのやろう…久須郎、お前意外とウブなんだな」
「う、ううううるせーっての与太造!んなわけあるか!」
二人の声に私も顔が少し火照って、百鬼の腕から降りる。諦めずに戦ってよかった…。そう思うと、自然と伝えたいことをきちんと伝える、という脳が働く。百鬼の答えがどうであっても。
「百鬼…私ね、「さくら」
私の言葉を遮るように百鬼が私の名前を呼んだ。
「……この戦いが終わったら、お前に伝えたいことがある…。聞いてくれるか」
予想外の言葉に、私の口は働き口をなくした。百鬼の真っ直ぐな眼。確かに感じる太陽のような明るい光に、私は頷く。
「…勿論。私も話したいことがあるんだ」
私の言葉を聞いて、百鬼も小さく笑った。




