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一度殺したくらいじゃ切れない腐れ縁

「初めまして百鬼くん。僕は2年前に今の君と同じ役職になった黄緑だよ。指導、なんて堅苦しい事考えずに先輩みたいな感じで接してもらっていいからね」



_________そう。初めて出会ったあの時から、俺はお前に複雑な感情を抱いていた。



「流石だね百鬼。君の歳で二刀を使える剣士は初めて見たよ。将軍様も君には前線で戦ってほしいと言われていた。指導役としても鼻が高いよ」



慕っていなかったと言ったら嘘になる。自分と近い年でありながら、唯一無二の剣裁きを見せる黄緑に憧れすら抱いていた。だが不思議と、近くにいるはずなのにその背中はもの凄く遠かった。その笑顔の裏にある何かを、目の中にある深い何かを…どことなく感じ取っていながら、俺は自分で自分の目を誤魔化したのだ。覗いてしまったらもう、二度と返ってこられないような気がして。



「百鬼、聞いたかい?」


「何をでしょうか…黄緑さん」


「近頃将軍様の執政に対する反勢力組織がいるらしい。彼らは将軍様直属の僕たちを疎ましく思っている。既に罪のない武士が何人も暗殺されている。危険が及ぶかもしれない…何かあったらすぐに報告をしてね」


「そ、そんな罪のない人たちを…許せませんね。私はいつでも出陣できます。必要ならば御呼びください」


「ふふ…心強いな。期待しているよ、百鬼」



あの優しい笑顔の裏には抜けられない沼があると…少しでも自分の気持ちに向き合おうとしていれば、もう少し未来は違ったのかもしれないな。



「百鬼…!貴様何ということをやってくれたのだ…!!」



意味が分からなかった。ある朝突然、将軍様の側近から呼びつけられる。血相を変えて俺の部屋に飛び込んでくるや否や、その男は俺の胸倉を掴み怒鳴り散らした。



「まさかお前の両親が反勢力組織の頭だったとは…!!貴様私達を欺いて朝廷の情報を流していたな!?」



一体何のことだ。突然のことすぎて脳が理解をしなかった。俺はただされるがまま言葉を失った。母さんと父さんが反勢力の頭?俺がスパイ?どちらも全く身に覚えがない。混乱する頭を何とか使って、その男の手を掴んだ。



「そ、そんなことはありません…!父と母は武士でもないただの商人です!俺も…!」



ガッ…!



頬に強い衝撃が走る。



「この反逆者が…!お前の家族共ども将軍様の前で処してくれるわ…!」



_________危ない。


父さんと、母さんが危ない。



「っ、くそ!百鬼!」



俺は男の体を振り払い、無我夢中で走る。脳裏に二人の優しい笑顔が思い浮かんだ。お願いだから、無事でいてくれ…。間に合ってくれ。まだ何も、起こっていないでくれ_____。



朝廷から少し離れた場所にある家のドアを勢い良く開ける。





__百鬼、おかえり______。どうしたの?そんなに慌てて___________。





そんな声が聞こえた。





気がした。





「父さんっ、母さっ……」






でも、違った。



「…父さん、母さん…?」



目線が下に移る。真っ赤な地面。時が止まる。



「あれ、早かったねぇ、百鬼」



そして聞きなれた声。


ゆっくりと振り向けば、いつもの笑顔。手に握っている小刀についている鮮血。この時全てが繋がった。こいつの笑顔の裏にある顔も、目の中にある闇も全部、自分の違和感が正しかったのだと。でももう、遅い。遅すぎる____。



「流石は将軍様お気に入りの剣士__。ここで鉢合わせする予定はなかったんだけど。ま、いっか。君の眼の中の太陽が陰るところを見られたしね」



ドクン、ドクン。


こいつだ。全部こいつが仕組んだんだ。初めて会ったあの時に感じた違和感____。ずっとずっと、こいつは俺を騙していたんだ。



「っ……黄緑ぃいいいい!」



俺はいつの間にか二刀を抜いて黄緑に斬りかかる。



「ふふ…剣筋の良さは認めよう。でも、甘い。冷静さを欠いた人間に俺の首は取れない」



シュバッ……



…………あぁ。


俺が愚かだったばかりに。父さんや母さんを苦しい目に遭わせてしまった____。死んでも、死にきれない____。


自分の倒れた体に、既に感覚はなかった。





「何だ…あの時の事まだ根にもってるの?しつこい男は嫌われちゃうよ」


「俺の両親が反勢力だと虚偽の密告をして、俺達家族を殺すことでお前は“弟分を斬り殺さなければいけなかった悲劇の英雄”となった。初めからそれが狙いだった」


「鈍感さは罪だってね…いつの時代も、無知は自分で自分の首を絞めているのと一緒だよ」


「…だがそれでお前は何を得た?お前のその承認欲求は満たせたのか?」


「…………えぇ?」



黄緑さんの顔つきが変わる。



「お前は嘘で自分を塗り固めてまで、悲劇の英雄になろうとした。そして自分の周りに人を集めようとした…それで何か満たされたのかと聞いている」


「……百鬼。僕はお前のことが昔から大嫌いだ」



黄緑さんは続ける。自然と力が入っているのだろう拳を握りしめて。



「大した腕でもないくせに、けがれのない眼で僕の横に並ぼうとする。僕の方が実力は圧倒的に上なのにいつも君は……大勢の人間に囲まれている」



黄緑さんは刃のその先を、百鬼に向けた。



「目障りな太陽を一度消してやったのに…何故それを再び宿すんだい」



百鬼の目の中には、強い心を表す太陽が_________確かにあった。





「黄緑様…苦しゅうございましたね…実弟のように可愛がられておいでになった百鬼様を殺めなくてはいけなくなるなんて…」


「…これも僕の運命だったんだよ。百鬼の屍を越えて前に進んでいくしかない」


「そう……ですね、おいたわしや黄緑様…………」



ドスッ……



「……………ん?」



自分の腹の前に突き出る刀と激痛。黄緑は目を白くさせて側近の姿を見る。



「あなたの悪事はずっと知っていましたよ…あの太陽のような青年まで手にかけるとはとんだ悪党…!悪党の行先は地獄でしょう…!もう、これで終わりにしてください…二度と、生まれ変わらないでください…!!」



あなたのような悪党の生きる世界など、ここにはありません____。





最期に自分を刺した男の声が、何百年たっても未だ耳に残っている________。死して尚、誰かに思われる百鬼は…一体何なんだ?



「…お前には一生分からないだろう。今度は決して消えたりなどしない」



百鬼も黄緑さんに刃の先を向ける。



「……ふ、泣いても笑っても、これできっと最後になるだろうね…」



僕たちの、数百年に渡る戦いは。



「百鬼……」



私は小さく呟く。


黄緑さんと百鬼……拭っても拭いきれないほどの因縁を、今断ち切ろうと、二人が同時に動いた。


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