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今度は一緒に酒でも酌み交わしたいものさ

「最期って…何、言ってるの…冗談でしょ、」



抑えられない動悸がする中、団寿は私の言葉を否定してはくれなかった。



「体のどこも、動かないん、です…今話していられることが奇跡に思える、くらい…」


「だ、誰か手当てを…手当てをしてもらえばっ…!」


「…いいえ、。医者だからこそ…わかる、ん、です。この体はもう…例え最新の医療を施したとしても、駄目だって…」


「そんなっ…そんな弱気な事!やってみないとわかんないじゃない!それに首が斬られなければこの地獄で死ぬってことはないんでしょ!?だから大丈夫だよ…!」


「待ってな、今私達が手当てしてやるから…!!」



訳も分からない状態で、とりあえず止血をするために自分の着物の布をちぎって出血部分に当てる。しかしそれも虚しく、オレンジ色の布はいくら当ててもすぐに赤く染まってしまう…。おばあちゃんも必死に血を止めようとしてくれるも、体のあちらこちらから血が溢れてくる。



「止まって……お願い、止まってよ…」



見る見るうちに私やおばあちゃん、手当てに協力している英雄や他の囚人たちの手は真っ赤に染まった。出血量が多すぎる…。どうしよう、どうすればいいんだろう…。頭が混乱して、最悪の事態ばかり考えてしまう。団寿の上にポタポタと涙を落とす私とおばあちゃんに、団寿が話しかける。



「さくら、さん…紫太夫さん…もう、大丈夫…」



私達は涙で溢れて見ずらい眼で、団寿の顔を見る。



「体が…軽い。首を斬られていないのに…魂が浮いていく感じが、します…。やっぱり僕はもう…。でも、不思議と、怖くなんて、ないんです…」



団寿は優しい顔で、にっこりと笑って見せた。



「あなた達に、初めてあった時…僕は、臆病な自分を心から変えたいと思った…。もう一度医者として誰かのために戦いたいと思えた…。僕を人間に戻してくれて、ありが、とう…ございました」



きらり。団寿の瞳の中のきらりと光る何かから、一筋の涙が零れ落ちていった。そして次の瞬間、団寿から発せられた眩いほどの神々しい光が、辺りを包み込み始める。その光に誰もが目を奪われた。



「だっ……団寿!?」


「さくらっ…これって、あの時に見た……!」



おばあちゃんの言葉に、ふと映像が蘇る。そうだ…あの時、与太造のお父さんとお母さんが包まれていた光と同じ…!ということは…!



「輪廻、転生だとっ……!?輪廻転生の権利を奪われたはずの看守が何故!?」



目ざとく一番に反応したのは黄緑さんだった。対峙していた百鬼から視線を逸らし、団寿の方を見る。この光には閻魔も与太造も久須郎も眼を見開いた。



「隙ができたぞ」



ブシュッ



「っぐ…!百鬼っ…!邪魔しないでもらえるかな…!輪廻転生の秘密を今なら探れるんだから…!」


「お前は俺と殺し合いの最中だろ」



しかしこの光の中でも、真っ直ぐに敵を見据えている百鬼は黄緑さんの隙を的確についた。黄緑さんの腹部からは血が飛び散る。



「あ…れ…僕は、輪廻転生、するんですか…?看守なのに…?」



団寿がそう呟く。そしてあの巻物に書いてあった、囚人桃太郎の話の内容を思い出した。


“僕は地獄の底からあるものを手に入れて舞い戻ってきました。僕は地獄で太陽を手に入れたんです。その太陽とは……”


そういうことか……。つながった。しっかりと。私は光に包まれている団寿の手を握る。



「団寿……看守でも番人でもね…輪廻転生はできるんだよ…。団寿のように、心に太陽をもてば…また生まれ変われる」



私の涙が団寿の手の甲に落ちる。団寿は目を見開いて、そして嬉しそうに、安心したように笑った。



「…そうなんですね。じゃぁ、またどこかでさくらさんや紫太夫さんに会えるってことだ…よかった」



私と団寿のやり取りに、おばあちゃんも何かを悟ったようだった。ゆっくりと正座をして、団寿のもう片方の手を握った。



「…団寿…あんたは自分を臆病だなんて言ってたけどね…勇敢な男だったよ…。来世では…穏やかにお酒でも注がせておくれ…」



止まらない私達の涙。それでも最期は笑顔で……。






「…医者」






団寿がにこりと笑って目を閉じようとした時、黄緑と刀を交わらせている百鬼の声がした。それに団寿は、驚いたような顔をする。百鬼は決してこちらを向いてはいない。しかし、こちらがどのような状況であるかなど、肌で感じているようだった。



「…体を張って護り通した姿勢…敬服する。次は…地獄に来ることなどないように生きろ」



百鬼の背中はいつもよりも大きく、男らしく見えた。予想外の百鬼からの言葉に、団寿はしばらく固まったものの、嬉しそうに涙を流して、はい、とだけ返事をした。


ふわり。


私の手中から、肉感が消える。団寿の体はあの時と同じように、一番綺麗な光となって天へ昇っていった。



「あ……!」



無くなった感覚を取り戻すように手を握ってみても、掴めたのは空気だけ。私の涙は、今度は地面へと直接落ちて行った。



「団寿……ありがとうよ」



おばあちゃんが泣きながら呟いた。囚人たちもみな、涙を零した。英雄はそんなおばあちゃんの肩をそっと抱く。



「俺もお前に恥じねえような強い男になるさ…」



そして自分への願掛けのように、天を仰いでそう言った。



団寿が輪廻転生をする最中も攻撃を止ませることのなかった百鬼に、黄緑は苛立ちを覚える。団寿の光が消えた時、顔を歪ませた。



「くっ…終わったか…。だけど何となく分かったよ、巻物に書いてあった、輪廻転生条件の“太陽”の意味が!やっぱりさくらちゃんの存在が鍵になるようだね…尚更あの子を手に入れたくなったよ」


「…さくらを輪廻転生させることよりも、お前自身の輪廻転生が狙いだろう…黄緑。閻魔選定で閻魔になることなど、そのための手段に過ぎない。だがしかし、あの医者が今輪廻転生したことで…閻魔になることの重要性よりもさくらを使うことの方に比重がよった。違うか」


「ふっ…相変わらず可愛くない後輩だよ百鬼、君は」


「お前は輪廻転生をし、人間界での恨みを晴らすつもりだろうが……いくら望もうと、俺達には関係のない話だ」



百鬼の言葉に、黄緑さんは顔をしかめた。



「…俺達?百鬼…冷酷無慈悲な君と一緒にしないでくれよ。僕は君とは違って善良な生き物だ」


「…眼を見れば分かる。お前はその薄っぺらい皮の奥底に深い闇と憎悪を抱えている」


「……」


「……人間界にいた、あの時からな」



黄緑さんの顔から笑顔が消えた。暫く二人の睨み合いが続く。ヒリヒリと肌を突き刺すような圧が私達をも支配した。



「人間界にいた、あの時…」



百鬼が人間界で人間として生きていた時代…一体この二人に何があったのか。私は百鬼の話を聞くのが、少し怖かった。


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