黒王子のお迎え
限られた選択肢の中から私達が導き出した行動の答えは、直接閻魔の元へ行き閻魔を討つ、だった。
「…お前は狙われてる身だ。絶対に目立つようなことをするなよ」
今まで久須郎や与太造、歳ノ成と対峙した時に私が黙っていられなくなって相手の気を引くようなことが何度もあったからだろう…百鬼は私に敢えてそれを忠告した。怖い顔で。わ、わかったよ…と渋々了承しつつも、百鬼を苦しめてきた張本人である閻魔を前にした時に自分の心がどう反応するかは分からないが。
百鬼、久須郎、与太造について行くと、ある一つの禍々しい門が開いた。どうやらここからが、番人のみが立ち入りを許された閻魔の居場所へ繋がる土地らしい。大きな音を鳴らして開く門。それが開ききる前に、与太造が百鬼に向かってどれだけ振りだ、このやろう。と声を掛けた。
「…………さぁな。俺は番人になったその日以来、ここには足を踏み入れていない」
閻魔に首を跳ねられたと言っていた…自分の両親の首を、自分を操って跳ねさせた閻魔の元になど来たくはないだろう、当然だ。どうやら時々行われていた召集はこの場所で行われていたらしい。百鬼は全欠席しているようだが。
「いたぞ!重罪人の囚人だ!」
しかし私達の予想を遥かに越える光景が目の前には広がっていた。番人と閻魔しか踏み入ることを許されていないこの門内に、数えきれないほどの看守がいる。あらゆる色の看守服を着た看守達、つまり色々な番人の島の看守達が皆それぞれ武器を持ち私達に注目した。
「ど、どうなってるの!?ここに看守はいないんじゃっ…!?」
「そのはずだっての!閻魔様が入れたのか!?」
「ものすごい数だぜ…俺んとこの看守もいりゃぁ…久須郎や百鬼…歳ノ成に黄緑んとこの看守もいるじゃねぇか、このやろう」
「闘志が見えるなら斬る。それだけだ」
既に百鬼は二刀を抜き、私の前に立ち塞がって戦闘態勢をとった。百鬼の向ける圧に、看守達がひぃ、と声を漏らした。だが次の瞬間、全員が雷に打たれたかのように体をビクッと震わせる。そしてゆらりと揺れるような動きで、私達に武器を向け、一斉に襲い掛かってきた。
「…!(これは…!)」
「はっ、てめぇら番人様に逆らうなんて命知らずもいいとこだっての!反逆者はこの久須郎様が始末してやるっての!」
久須郎が何十人といる看守の群れに突っ込んでいく。血の流れる戦い…まるで戦争が始まった。
「百鬼!」
「さくら、ここから動くな。奴らは閻魔に操られている」
「え!?」
百鬼は斬りかかってくる看守達の群れに飛び込んで、看守の間を縫うように進み、看守達を切り裂いていく。久須郎も与太造も次々と看守達を倒していく。流石は番人の3人だ。圧倒的な数の敵を前に引け目すらとらない。私の近くにも何人か倒れている看守達の姿がある。閻魔に操られているらしいが、勿論操り糸のようなものは付いていないし、正直言われなければ分からない。
「っ…え、?」
足元に倒れていた内の一人が、突然また体に電流が走ったかのように体をびくつかせ、立ち上がった。
「うぁああああ!」
「っ!?」
「さくら!!」
そして手に持っていた槍を私に振り降ろす。百鬼の叫び声が聞こえた。看守は立ち上がっただけでも血が噴き出ているのに、その体を無理に動かして私に襲い掛かる。しかし体は正直だ。骨のきしみ、筋肉の疲労が災いして槍を降ろす軌道は見切れる。
「っ、こんなもんじゃ私は捕まえられないからね!」
看守の動きを見切り、腹部に回し蹴りを入れると、看守は横たわって今度こそ起き上がってくる気配はない。今の動きは確かに、自分の意志と言うよりも何か別のものに突き動かされている、そんな感じがした。
そうなると、やっぱり閻魔がこいつらを操ってる…!さっきの看守、本当だったらもう動けないほどの傷だった。無理矢理体を動かされたから余計に血が噴き出していた。惨い。所詮は操り人形、どうなってもいいということか…。
「…閻魔」
私は拳を握りしめた。
「さくら、大丈夫か!」
「百鬼…」
百鬼がすぐさま私の方へ駆け寄ってくる。辺りを見れば、看守達は皆百鬼と久須郎、与太造によって倒され、立っている敵はいなくなっていた。
「怪我はないか?」
「う、うん…大丈夫。…………だけど、」
「?」
「その、百鬼……手、どうしたの?」
百鬼は大丈夫か、という言葉と同時に私の手を包み込むようにぎゅっと握った。突然の行動に私が戸惑いを見せるも、百鬼はその手を離さない。百鬼の行動に違和感を覚えつつも、私もその手を振り払うことはしなかった。
「ここは危ない。敵は倒したから早く行くぞ」
「あ、待って久須郎と与太造がまだ来てない、」
「あぁ…あいつらここで少し体力を回復させてから来るそうだ。さぁ、先に行こう…」
そう言って百鬼は私の腰に手を回し、誘うようにして前に進みだす。
…………何かが引っ掛かる。百鬼の慣れない行動…こんなこと、今の私にするなんてどういう風の吹き回しだろうか。それに、あの久須郎と与太造が体を休めてから行く…?先陣切って進んでいきそうな二人が?いきなりどうして?
…そう、いきなり、なんだ。何もかもが。百鬼の違和感のある行動も、久須郎や与太造の言いそうにない言葉も…いきなりなことがありすぎて、脳が違和感を覚えてる。
「……………………さくら?」
足を止めた私に、百鬼が名前を呼んだ。私は不思議そうに首を傾げている百鬼の方を向く。
「百鬼…その左手の怪我、どうしたの?」
「……は?」
突然の私の質問に、百鬼は戸惑いの表情を見せた。そして包帯の巻かれている左手を確認する。
「あぁ…昨日の歳ノ成との戦いで斬ってな。心配ない。すぐに治る」
「……、」
そう言って再び歩き出そうとする百鬼。私はその答えに目力が入る。だってそれは、昨日の歳ノ成との戦いでついた傷…違う。その左手の包帯は、数日前に、空参との戦いでクナイが貫通した傷だ。痛々しい傷に包帯を巻くのをちゃんと見ていた。
バッ!
私は腰にあった百鬼の手を振り払った。百鬼は驚きから目を丸くしている。……百鬼……いや、こいつは…、
「あんた…百鬼じゃないでしょ…!一体誰!?」
百鬼の姿をした誰かは、悲しそうに眉を下げた。その表情に一瞬心がぐっと締まるも、正気を取り戻す。百鬼じゃない、間違ってない。
「いきなり何を言い出す…。そんなわけないだろう」
「その左手の傷は…空参との戦いのときについたもの…それに百鬼が歳ノ成のことを名前で呼んでいるところを聞いたことがない…」
「…………」
黙り込んだ。何か言いたげな顔をしながら。そしてその表情は、悲しそうなものからだんだんと形を変えて、笑い顔へと変わっていく。ゾクッと、背筋が凍るような感覚が私を襲った。
「……おかしいなぁ、僕の幻覚はばれたことがないのに…」
百鬼の姿が段々と歪んでいって、姿を変えていく。栗色の髪、高級そうなスーツ、目の下のクマ…………嘘だ。
「さくら!!」
その時、遠くからこちらへ走ってくる百鬼の声が聞こえる。
「そいつは俺じゃない…!今すぐに離れろ!」
「おっとさせないよ」
百鬼の声に反応した私は、すぐさまこの男から距離をはかろうと足を踏み出した時、体が宙にふわっと浮いた。そして同時に、すぐ近くから物凄い打撃音。私の身体は男によって抱えられ、この男を斬ろうとした百鬼の攻撃が地面へと直撃し、砂煙を巻いた。
「ふう、セーフ。相変わらず百鬼の攻撃は速くて敵わないなぁ」
「っ…!おっ…黄緑、さん…!」
嘘だと思いたかった。でもやはり、百鬼に扮していたこの男は……久須郎の毒で動けないはずだった黄緑さんだ。黄緑さんは私を抱きかかえて、岩山へと飛び乗った。
「こんにちはさくらちゃん。迎えに来たよ」
黄緑さんの笑顔に私は青ざめていった。




