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地獄中敵だ

「……随分遅かったな」


「あ…えっと、ちょっと与太造と話してて、」



百鬼のいる民家に戻る時に、シャワーに向かうと言って出てきたことを思い出し全速力でシャワーを済ませた。部屋の戻れば百鬼とまた気まずい空気になるんじゃないかと足が竦んだが、扉を開けるなり百鬼は遅かった、と私に告げた。



「…………でかぶつ?」


「ぐ、偶然にも外で会って」


「………………………」



百鬼は一瞬複雑そうな顔をしたがそれ以上突っ込まず、そうか。とだけ言ってシャワー室へ向かっていった。ほっと胸を撫で下ろすも、百鬼の調子は変わらなかった。戻ってきてからも特に何も話すこともなく、体を休めるため寝床に入る百鬼を横目に、私は寂しさを感じる。


昨日の夜は、抱き合って一緒に寝た、けど…。


思い出すと、恥ずかしくなる一方今日の距離感にやはり心細さが拭えなかった。そして私にはこの少しの溝を埋める勇気はない。自分の寝床に体を滑らせて、丸まるようにして眠った。百鬼の存在を、背中に感じながら。





どのくらい眠っただろうか、私は自然と目を覚ました。横を見れば、百鬼の姿はない。もしかしてまたシャワーを浴びて上半身裸で出て来るお決まりの展開…?と思った矢先、後ろから声がした。



「ぎゃははは!風篠さくらの寝起きの顔ぶっさいくだっての!あだぁっ!!」


「…………」



まだ頭が稼働していないそれこそ寝起きの顔で声の主の方を見ると、蛇の目。つまり久須郎がなぜか私の後ろにいる。そしていつものように与太造に殴られた。



「朝からうっせぇぞ久須郎このやろう!おい風篠さくら!お前もいつまで寝てんだ早く顔洗ってこい!」



与太造までもが何故かこの部屋にいる状況を無理矢理納得して、私はフラフラとする足取りで水場へ向かう。それにしてもさっきの与太造の台詞、まるでお母さんか?とツッコミを入れたくなったものだ。


寝ぼけたままの眼で百鬼の存在を探す。見付けた。今日は既に服を上半身も着て、外にいる。昨日あんなことがあったけれど…私がおどおどとしていたら駄目だ、普通にしないと、普通に…。


百鬼、おはよう_______。


そう声を掛けようと手を伸ばした時、耳をつんざくようなノイズがまたもや響き渡った。



≪________こちらは地獄放送…≫



「「「「!!!!」」」」



私達四人ともが、注意を上へと向ける。あの時と動揺、閻魔様の声だ。



「さくら、こっちへ来い」


「あ、う、うん、!」



振り返った百鬼に呼ばれると、あの時のように百鬼の近くに呼び寄せられる。放送は続いた。



≪閻魔選定まで残り7日…いよいよ大詰めとなってきた。皆気分はどうじゃ?≫



緊迫感のない放送に、百鬼は眉を顰めた。



≪黄緑が閻魔候補だと伝えたからか、手を組む番人たちも出てきたようじゃな。そこで考えた。残り1週間は自分の主たる番人を閻魔に押し上げるためにも看守達にも参戦をしてもらおうと≫


「…看守達にも?」



久須郎が呟いた。



≪つまり__看守も番人の支持なくしても敵対する島の番人、看守たちに手を下しても良い、というルールを追加しようと思う。そして_______≫



閻魔の次の言葉で、私は耳を疑うことになる。



≪今回の閻魔選定で鍵となっている重罪人風篠さくらを捕まえた看守は__空きとなる一つの番人枠に迎え、晴れて看守から番人に昇格することを約束しよう≫


「「「「!?」」」」


≪番人諸君__どのように受け取るかは自由じゃ≫



放送は、ここでプツンと切れた。暫しの沈黙が走る。放送の内容が目まぐるしく頭の中を回った。混乱したまま百鬼を見れば、百鬼は憎しみの籠った顔をしていた。



「百鬼…今のって」


「……どうやら、俺達がいくら争ったところで、大元を潰さなければ駄目なようだな」


「おい百鬼、風篠さくら!閻魔様は何考えてらっしゃるんだっての!?」



私達のいるところに、久須郎と与太造が走ってくる。慌ただしい様子に百鬼は舌打ちし、煩い。と言った。当然のように久須郎は憤慨するが百鬼は言葉を続ける。



「閻魔が…縁峰がいる限り、この閻魔選定は黄緑の勝ちだろうな」


「おいおい…それはつまり閻魔様と黄緑の野郎が組んでるってことかよ、このやろう」


「そんなことは恐らく何百年も前からだ」


「そっ…そうだったのかよ!?」



どうやら百鬼がずっと疑っていたこのことを与太造と久須郎が知るのは初めてだったようだ。隠しきれない動揺と、じゃぁどうするんだよという疑問が二人に生まれる。



「…縁峰を殺す」


「!?しょっ…正気かよこのやろう、」



与太造は百鬼の言葉の威力に戦いた。私も、百鬼の方を見る。だって百鬼に聞いた話じゃ、閻魔殺しをした黄緑さんは、長年地獄牢に入っていたって…。確かにそう言っていたはずだから。



「この閻魔選定、そうぬるい話じゃなかったというだけの話。縁峰がやることだ、不思議でもない」


「でも…閻魔を殺しちゃったら、牢に入るんでしょ…?そんなの、駄目だよ…」


「…前にも言ったはずだ。閻魔となれば法度を定める立場だ。その時は俺が法だと」



私は…単純に悲しくなった。百鬼は自分が法度を作る立場なら大丈夫、そう言いたいのだろうけど。もしも百鬼がまた長い間暗い地獄で牢に入ることになったら。それこそもう、光なんて届かない____。



「黄緑は10日動けなくしたぜ…!?黄緑の首を跳ねちまえばいいんだっての!そしたら自動的にお前が…」



久須郎は明暗を思い付いたように言う。自分も閻魔を諦めていないと言いながらもやはり、百鬼を援護する気持ちが強いことが言葉から分かった。



「…どんな手であれ、俺が閻魔にならなければ、意味がない…。例え牢に入ることになっても」



百鬼は、ちらりと私の姿を捉えた気がする。その時に見えた悲しみに暮れた眼。ズキンと胸を打たれた。心にあった思いが蘇る。百鬼に、やはり閻魔になってなんか欲しくないと____。



「私はっ…やっぱりそこまでして百鬼に閻魔になんてなってほしくないよ」


「……あのな、」


「囚人桃太郎は輪廻転生したんでしょ?なら私は百鬼がそうなれる方法を探したい!」



偽りはない、本心だ。百鬼が牢に入ったとしても、というように、私だって例え自分が人間界に帰れなかったとしたって…やっぱりこれが私の答えだ。


百鬼はむっとした顔をした。そして何かを言おうと口を開いた時、遠くから男たちの雄叫び声が聞こえてきた。



「なっ…何!?」



同時に鳴り響いているのは激しい金属音だ。幾つもぶつかりあっているように絶え間なく鳴っている。



「…看守達が、争い始めたか」



百鬼が言った。恐らく閻魔の放送を聞いて腰を上げた看守達が、自分の島の番人を閻魔にしようと争いを繰り広げている。そうすれば自分たちは位の高い閻魔の使い手だ。周りよりも頭一つ、いや二つも三つも抜ける。そして、そうなったということは…、



「おい風篠さくら…こんなところで油売ってる場合じゃねぇぞ。お前…今から地獄中の看守から狙われるんだ、このやろう」



“重罪人風篠さくらを捕まえた看守は__空きとなる一つの番人枠に迎え、晴れて看守から番人に昇格することを約束しよう”


…そうだ。今からはこの雄叫びも、重なる金属音も全て自分に降りかかる。そう思うと、私は息を飲まずにはいられなかった。


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