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私、番人様が好きよ

「あの時…歳ノ成は何を言いたかったんだろう」


「はぁ?ンな事考えたって何にも意味ねぇっての」



私の素朴な疑問を、久須郎が頭から突っぱねた。言われれば確かにその通り。自分たちを狙う敵の歳ノ成を討った。ただそれだけでよくて、それ以上に必要な事はもうないはずだった。私が気になってしまったのは、最後…歳ノ成が瓦礫に埋まる前、私達に彼とは思えない懐柔した目線を向けていたことだ。そして微かに口が動いていたところを見ると、きっと何かを言っていたのだと思う。そう、久須郎の言う通り今更言っても何も変わらないことなのだけれど。



「…久須郎お前女心っつーもんが何も分かっちゃいねぇな、このやろう。風篠さくらだってそんなこと百も承知のはずだ、ただ安心する言葉をかけてほしいだけなんだろ」


「はぁ!?女心ぉ?お前ハゲのくせに何女心だとかほざいてんだっての!」


「ハゲは余計なんだよ!これはスキンヘッドだこのやろう!」


「よ、与太造…あんたやっぱりいい人じゃんかぁ…」


「うわっ何だ風篠さくら!よ、よよ寄るなこのやろう!」


「とか言って顔赤くしてんじゃねぇかハゲ!ムッツリハゲ!」


「久須郎ぉぉおおお」


「…………。お前らいつまでここにいるつもりだ」



何に苛立ったかはわからないが、百鬼が額にむかつきマークを浮かべて空気を冷ややかにさせた。



「お前折角助けてやったのに相変わらず嫌味な奴だっての!んなもんまだまだいるっての」


「閻魔選定まであと7日だからな。黄緑は毒で封じ込めたとはいえ…油断は禁物だぜこのやろう」



つまり、二人は私達とまだまだ行動を共にしてくれるということらしい。ん、でも待って。閻魔選定まであと7日、黄緑さんは二人が封じ込めてくれた。歳ノ成はさっきやっつけた…となると、黄緑さんが復活しない限りこの三人で閻魔の椅子争いになるの?



「…お前ら、まだ閻魔の座を狙っているのか」



私が疑問視したことを百鬼が二人に聞いてくれた。百鬼のその質問を、与太造は鼻で笑って吹き飛ばす。



「生憎、形だけの力にゃ興味が失せた。俺は…あの時母さんと父さんが輪廻転生したのは、決して俺の力だとは思ってねぇ、このやろう」



与太造はそう言うと私の姿をそのつぶらな瞳に捉えた。その視線に、私は首を傾げる。



「……俺の元にもまだ太陽の光が届くことが分かったんでな。それを消させるわけにはいかねぇぜ、このやろう」


「待てっての!俺は閻魔を諦めたわけじゃねぇぜ!隙があればいつでも百鬼ごとき討ってやるっての!」


「…………そのわりには、ずっと攻撃しないし殺気も全然感じないね……久須郎」


「っうっ……ううううるせーっての風篠さくらぁあ!お、おお俺はひゃ、百鬼が寝てる時を襲うつもりなんだってのぉお!」


「…寝込みを襲うんだ」


「てめぇ言い方に誤解が生まれんだろ風篠さくらぁ!」



取り乱す久須郎に、思わず私も笑いが零れた。口ばかりの敵意で自分を囲っているつもりのようだが、与太造と同じように私達に手を貸してくれる心意気が分かりやすく伝わってきた。あと7日間、二人は私達と共に居てくれるようだ。



「邪魔すぎるな」


「ちょ、百鬼!」


「黄緑を陰ながら毒で封じ込めたことにはかろうじて礼を言おう。だが、お前らと7日も行動を共にするのは…吐き気がする」


「いや失礼すぎるっての百鬼!このハゲだけならともかく!」


「お前の方が失礼なんだよ久須郎このやろう!」



またもや騒ぎ出す久須郎と与太造に、自分で油を注いだ百鬼がため息をついた。



「……とにかく。残り7日間黄緑からの敵襲に備えるのは尽力してもらおう。だが寝食の時間は俺達に寄るな話しかけるな関わるな」


「そこまで!?どんだけ俺らの嫌なんだよこのやろう!」


「変態科学者との戦いで俺達の寝泊りしていた民家もこの有様だ。ここから少し離れたところにある別の民家へと移動するぞ、さくら」


「ま、まだあったの?」


「拠点が一つでは、敵襲を受けた時に備えられないからな」



辺りは既に薄暗くなってきた。スタスタと歩いて行く百鬼に待ってよと声を掛けて必死に付いていく。後ろから久須郎と与太造のぶつくさ言う声が聞こえてきたものの、二人も仕方なく私達の後を付いてくる。ここで見捨てないあたり二人はとても優しいのだと思う。



辿り着いた民家は、私達が使っていたものと同じくらい古く年季の入った建物だった。同じような民家が縦並びに5つほどある。百鬼は迷わず一番奥の扉を開けた。そして私にここにする、と言い放つと中へ入っていく。



「…百鬼の野郎、こんなところに隠れ家をもってやがったのか…このやろう」


「あいつ昔から居所が掴めなかったっての。こういうことか」



呆然としている二人はどうするの?と百鬼に聞けば、勝手にさせろ、と返ってきた。百鬼は慣れた手つきで暖炉の火をつけ、戦闘によってできた傷の手当てを始める。百鬼の勝手にしろは、私は許容だと捉えてる。悪態付きながらも久須郎と与太造に後は好きなように使わせる、ということだろう。



「久須郎、与太造…百鬼が好きなところ使っていいって」



私は民家の中からひょい、と顔を外に覗かせて二人にそう言った。二人は暫く黙った後、百鬼から一番遠い民家へ移動するも選択肢が被りまたもや喧嘩していた。結果あっちむいてほいという何とも幼稚な決め方で久須郎が勝利し、与太造はど真ん中の民家を使うことになっていた。



「…騒がしい連中だ」



火に当たりながら、百鬼がそう呟いた。私も扉を閉めて百鬼の方へ近寄る。



「でも、何だかんだ優しいね」


「…………。よく、褒めるな。あいつらのことを」


「そう?でも二人変わったよ。私達を殺そうとしてた人達がここまで協力してくれるようになったなんて」



そう言うと、百鬼は静かに何かを考えて炎を見つめていた。



「……どこの誰がそうさせたのか」


「ん?」


「いや。確かに重罪人なだけあって、心を揺さぶる罪な奴だと思っただけだ」



う…ん。曖昧さを含む百鬼の言葉に、私も曖昧に返事をした。私達の間に暫しの沈黙が流れる。慌ただしすぎた後の二人だけの空間が、何故か私の心を唆した。歳ノ成に見させられた悪夢…本当にあれが現実じゃなくてよかったと、今隣にいる百鬼を見て思う。きっと私はもう、潜在意識的に百鬼に冷たくされるのも離れてしまうのも耐えられないことを間接的に理解させられた瞬間だった。そう思うと、こうして命を狙われている時でありながらも百鬼と一緒にいられることを…幸せに思った。そして無意識のうちに、百鬼の肩に自分の頭を預けていた。



「…………」



百鬼もそれを拒まないでいてくれている。この微妙な距離感。関係性。はっきりさせてしまいたい焦燥感と、それを恐れる恐怖感。どちらも入り混じる複雑な感情に胸中が支配された。




このまま、私が人間界に戻らなければ、一緒にいられる……。



…はっと、した。


あれだけ人間界へ帰ることを望んでいた自分が、そんなことを考えていたことに。はっとして、百鬼の肩からぱっと頭を離した。



「……どうした」


「あ……いや、その、」



……これは言っても、いいのだろうか。ここまで人間界に帰るために必死に戦ってきた思い、誰かを護るためにあらゆるものに立ち向かってきた。百鬼の心を…優しさを知った。いつしか地獄にいても尚私の優先事項は、百鬼になっていた。そしてそれが自分の願望をも超えるまでになったことを歳ノ成に見せられた悪夢によって気付かされた。百鬼を好きだという気持ちがここまで大きくなるなんて。



「……百鬼…ずっと言いたくても言えなかったこと…」



“あ、のね、百鬼……私、百鬼に伝えたいことが……、”



今までも伝えようとした。あの時はタイミングもあってちゃんと言えなかったけど…今ちゃんと、伝えたい。地獄だとか、囚人だとか番人だとかそんなの関係ないほど、




私は、





「私、百鬼のことが好き」



百鬼の眼の中に、私が映った。


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