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姿形は同じでも違いすぎるのよ

ママの姿をした何かが、にぃ、と口を吊り上げた途端、体がゾク、と寒気を感じた。やっぱりあれはママじゃない…誰かが私を欺こうと両親の姿をしているだけだ。



「誰だ…!どうしてパパとママの姿をして……!今すぐにそれをやめろ!」


「誰かって…こちらも正体を明かす気は毛頭ありません。そんなに知りたければ力づくで吐かせてください…あなたの得意なムエタイ技で」



そう言った途端、ママの姿をしたそいつは、私に銃口を向けて発砲した。間一髪のところでその銃弾を百鬼が二刀で斬ってくれて、何とか防ぐことができる。しかし、そいつはまだ銃口を下げない。やばい、来る。



ドンドンッ…



更なる発砲がくるも、百鬼が私を庇って全て斬り落とす。しかし、そんな時もう一人の人物が動いた。



「…貴様の相手はこの俺だ、百鬼」



パパの姿をしたそいつは、目にも見えぬ速さで百鬼に襲い掛かった。百鬼の二刀とそいつのクナイが派手にぶつかりひしめき合う音がする。二刀とクナイを挟んでの睨み合いが続いて、百鬼が口を開いた。



「このクナイの精度…お前変態科学者のところの参謀だろう……名は確か空参(くうざん)といったか。さっさと仮面を剥いだらどうだ」


「歳ノ成様を愚弄するような言い草をするな…。だが、伊達に何百年と番人を務めてきていないようだな」



クナイを百鬼に向けている人物の姿が、歪んでいく。パパの姿をしていたそれは、見る見るうちに別の男性の姿へとなっていった。目にかかりそうなサラサラの蒼い髪、まるで戦国時代の武士のような服装、それにものすごく整った顔立ちをしている。百鬼に空参と言われた男は、百鬼に高圧的な眼を向け、一度間合いを取って離れる。



「歳ノ成様の邪魔はさせない。百鬼、貴様はここで俺が排除する。そしてその女は歳ノ成様の元へ連れて行く」


「変態科学者の忠犬が…邪魔をしてるのはお前らだ。俺に歯向かうのなら…手加減はしない」



二人の間で凄まじい圧がぶつかり合う。それに緊張感を高まらせているのは、どうやら私だけではないようだ。何故かママの姿をした人物も、この二人の圧に怯えている。そしてそいつに、空参は厳しい目を向けた。



「……おい、貴様。先程銃を使いあの女を危うく殺めるところだったな…」


「っ、ひっ…す、すみません空参様…!」


「貴様のせいで歳ノ成様の計画に狂いが生じたらただでは済まさない。殺さない程度に、再起不能にしろ。手足がもげる程度は構わない。分かったな」


「は、はいぃ!分かりました…!」



そいつは肩を強張らせて、銃を懐にしまった。どうやらこの二人、完全に仲間、というわけでもないらしいが同じく歳ノ成の部下だ。私を殺さない程度にいたぶり連れ帰ると…つまりそういう話をしているようだ。二人の会話が終わると、ママの姿をしたそいつは私をギロリと睨みつける。変な意味で、胸に不安を覚えた。



「よそ見していていいのか?百鬼」



空参が、百鬼に再び攻撃を仕掛ける。何て身軽な。まるで忍のような身のこなしだ。空参の周りだけ重力がなくなったかのように感じるほど、空参は素早い動きで百鬼に襲い掛かる。腰に差した刀での猛攻に、クナイを織り交ぜた攻撃。百鬼もそんな攻撃を全て防ぎ、その隙をついて二刀で空参に攻撃を仕掛けている。すごい…私では到底眼で追えない。



「風篠さくら!大人しく捕まってくださいねぇ!」


「っ、この、!」



ママの姿をしたそいつが、今度は刃物を振り回してくる。木の間をジグザグに走り抜けて、錯乱させる。大木の影に身を潜めて、奴が出てきた瞬間に顔に回し蹴りを叩き込む、そう意気込み、勢いよく地面を蹴り助走をつけた時だった。



「やめてさくら……」


「っ……!」


「隙ありです!!」



ザシュッ……



着物が切れて、私の肩から赤い血が噴き出る。


くそっ……こいつ…ママの姿をしてるのを利用してっ……!



「あなたに大好きなお母さんは倒せないですよねぇ…知っていますよさくらさん…」


「くっ…!お前っ…!」


「相変わらずあなたは利用のしがいがあります。あの時も……私の言うことをまんまと信じ込んで殺人を犯そうとするくらいですから」


「っ……は、……?」



…どうしよう、え、…嘘だ。嫌な想像が頭を占めてしまった。見れば見るほど…いや、聞けば聞くほど、あの憎たらしい姿と被さって仕方がない……。まさか、こいつ……、



「宮滝……!!」


「やっと気が付いたんですか…やれやれ、両親を殺した犯人を教えてくれた恩人に呼び捨てとは…やはり成っていませんね」



…こいつだ…こいつが、この地獄に…しかも大切なママの姿をして…!ふざけるな…!



「何が恩人だ…!全部仕組んだんでしょ…!私に嘘の情報を伝えて罪を被せて…!既に美南茂(みなも)社長夫妻は何者かによって殺されてた…!!それもお前がやったんだろ…!」


「…使えるものを使わないのって、勿体ないと思いませんか?私はあなたに利用価値があると思ったから使えるだけ使ったまで。お陰で社長夫妻の金銭が一挙に手に入った。ま、死んだ今では関係ないのが悔しいところですが…」


「この野郎…!私はもう一度人間界に帰ってお前に復讐するまでこの魂は終わらせられないって…ずっと思ってた。でも今ここにいるなら…お前を倒す」


「復讐に燃えているさくらさんにもう一つ朗報を分けてあげましょうか…。あなたの両親を殺した真犯人…知りたいでしょ?もうここまで来たら全て種明かしも面白い」


「お前の話なんて誰が信用するもんか…!」


「私ですよ?」


「…!?」


「私が殺したんです、あなたの両親。…あぁ、今まさにこの姿で言うと信憑性は薄いかもしれませんが」



宮滝は笑ってそう言った。信じるつもりなんてなかったのに、他の誰かの名前を出されるよりよっぽどリアルに感じてしまった。力が抜ける。



「さくらさんの両親にはお金を少々借りてまして。高校時代の同級生だと言うのに金は貸せないと言い張る美南茂夫妻とは大違いでしたよ。同級生の私に快く貸してくださいました。まぁ返せなくなって殺してしまったんですが…美南茂夫妻にも復讐できて一石二鳥でしたよ」


「……全部、お前がやったのか…全部、全部…」


「言ったでしょう、使えるものを使わないのは勿体ないと」


「宮滝!!」



理性も全部吹き飛んで、がむしゃらに宮滝に走って行っていた。宮滝は逃げるどころか立ちすくんで笑っているだけで刀を構えもしない。避ける気もない宮滝に、思いきり拳を振りかざした。



「学習の無い子だ…あなたにお母さんは殴れません」


「っ……!!」



悔しい…悔しい、悔しい…!仇を目の前にして、殴ることもできないなんて…!



“……お前を殺そうとクナイを投げるような奴が、本当にお前の両親なのか”



百鬼の言葉が突然蘇ってはっとした。…そうだ、見た目はママの姿をしていても、こいつはママじゃない…こんなに暗くて汚れた眼をした奴はママじゃない…!!これ以上その姿で好き勝手はさせない…!



「あぁああああ!」


「なっ!?」



ドゴォオンッ…



私の力いっぱいの拳が、宮滝の頬に炸裂した。


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