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3匹の獣達から逃げましょう

「あはは、相変わらず汚い真似が大好きみたいだねぇ歳ノ成は」



ピンク色の危険な液体が入った小瓶を揺らすこの番人の名前は歳ノ成というようだ。歳ノ成は黄緑さんの言葉に、あなたほどではありませんけどね、と言及した。



「さぁ、どのような条件下で輪廻転生が起こりましたか?んほほ…3億の細胞がかかっていますよ」


「っ、ぐ…お…俺が、それを言ったら…お前は開発中の薬を完成させ…実験台として結局俺達番人や看守を使うんだろうが…。だったらお前に甘い蜜なんか吸わせてやるかよ…このやろう」


「…………交渉決裂ですね、んほほ」



歳ノ成が手首を傾けた。ピンク色の液体が、小瓶から零れ落ちそうになる。



ガッ…!



歳ノ成の手に小石が当たり、軌道がずれて小瓶が与太造の横の地面に落ちて割れた。液体が零れた地面の土は見る見るうちに変色し溶けていく。歳ノ成は赤くなった手を確認して、こちらに視線を移した。



「……おや。さくらサン、あなたの仕業ですか。難儀ですねぇ…あなた百鬼クンと一緒に敵の与太造クンを倒したんでしょう?与太造クンを庇う必要がどこにあるんでしょうか」



ジロリと私を見た歳ノ成。私は石を当てておきながら逆らえばまずいという本能が働いて、緊張から息が上がる。



「て、敵とか、今はそういうのは関係ない…!無抵抗の相手に拷問なんてあまりにも惨すぎるでしょ…!」



切れる息を整えようとしながらも言い切れた。でも、とりあえず与太造にあのやばい化学薬品を垂らすことは防げた。大きく息を吸って胸を撫で下ろす。横から黄緑さんの笑い声が聞こえた。



「あはは、さっすがさくらちゃん。肝が据わってるなぁ。歳ノ成に攻撃を仕掛けるなんてなかなかできない芸当だよ。百鬼が気に入るのも分かるねぇ」


「…おい黄緑。不可解な事を言うなら斬るぞ」


「僕も気に入ってるけどね。歳ノ成、ここはさくらちゃんの勇気に免じて引いてあげなよ。自分の命を顧みずに猛獣に噛みつくことなんてなかなかできないよ」


「…黄、緑さん…」



同じ番人でありながらも…黄緑さんは地獄に来たばかりのころからまるで私の味方をしてくれているかのような発言をする。信じていいものなのか分からないが、こう言われればいい人なのかもしれないと思わざるを得ない。



「それにこの感じ…分かるよね?」


「…。おい、黄緑」


「おー怖い。そう睨まないでよ百鬼。さくらちゃんのこの魂は輪廻転生すれば相当大きな光を放つはずだよ。きっと輪廻転生できた番人が、閻魔になると言っても過言じゃないほどに…活力が溢れてる」



黄緑さんは私ににっこりと笑いかけた。やっぱり、この人は信頼していいのか分からない。この言葉と笑顔の裏に何があるのか…見えない。黄緑さんの言葉に、歳ノ成はあの独特の笑い声を発した。



「勝負というわけですねぇ…残り10日で誰がさくらサンを輪廻転生させられるか」


「!!」



勝負…私を輪廻転生させる…!?歳ノ成と黄緑さん、そして百鬼3人の視線が、トライアングルの角度から突き刺さる。ちょっと待って…輪廻転生したら…私は人間界に行けても、また風篠さくらとして人間界で生きていくことはできない。そんな…私は…私は人間界に帰って…両親の仇を…あの男に復讐を果たしたいのに…!



「…させない」


「…はい?」



突如、百鬼が私の前に立ちはだかり、させない、と、そう言った。歳ノ成はそれに眉を潜める。



「…4771番は…輪廻転生させない。こいつは俺が閻魔となって人間界に帰す」


「……………………百鬼、」



ふと、地獄に来たばかりの時のことを思い出した。



“賭けだ。あと1ヶ月、俺がお前のその眼を殺すのが先か、お前がその生きた眼のまま俺の試練に打ち勝つか…。もしお前が勝ったならば、お前を人間界へ還してやろう”



…そう言ってたのに。体から温かいものが込み上げてくる。百鬼の言葉を挑戦状とでも受け取ったかのように、歳ノ成と黄緑さんは口元を吊り上げた。



「あー…成程。さくらちゃんはそっちを望んでたんだね。なら僕も恋敵としてさくらちゃんを人間界に帰すよ。勿論僕が閻魔になって、だけど」


「んほほ。私は輪廻転生以外興味ありませんよ…これだけの魂を輪廻転生できれば閻魔の座が手に入り、私の輪廻転生がまた近付く…百鬼クン、容赦はしません」



空気中を散っている火花が目視できそうなほど空気がぴりつく。今、3人の新たな勝負が始まってしまった。残り10日、きっと私もただでは済まない。今後起こってくる未知な展開に、心臓が嫌な音を立てた。3人の番人の睨み合いが暫く続く。誰もが押し黙る中、初めに視線を逸らしたのは黄緑さんだった。



「…ふう、百鬼と歳ノ成を相手にするとなると一筋縄ではいかないだろうねぇ。僕も心してかからせてもらうよ。ちょっと野暮用があるから僕はこれにて失礼するね」



この場から去るのかと思いきや、黄緑さんは私の方を向いて、歳ノ成の時のように見えない速さで私の横まで来る。それに反応した百鬼が全く速さについていけない私と黄緑さんの間に入った。


「もう、注意深いなぁ百鬼は。別に僕はさくらちゃんに別れの挨拶をしようと思っただけで、獲って食おうと何てしてないよ」


「……俺がお前の言うことを信用するとでも?」


「先輩後輩の仲じゃないか。それとも嫉妬かい?」


「……黄緑」


「おっとまずいまずい。百鬼を怒らせると大惨事になるからちゃんとここで止めておくよ。じゃぁさくらちゃん、またすぐに。あ、百鬼に苛められたら僕のところに来るんだよ」



いつもの笑顔で私にそう言うと、黄緑さんは瞬時に姿を消していった。前から百鬼の只ならぬ怒りオーラが感じ取れる…。話しかけない方がよさそうだ。



「本番は明日から…と言ったところでしょうか。さくらサン、覚悟しておいてください。恥辱的に虐げて必ず輪廻転生させてみせますから…んほほ。では失礼」



最期に変態発言を残して歳ノ成りも姿を消した。空気の圧が、どっと変わる。囚人たちの腰が砕けた。



「与太造様…ここもできるだけ手当てするので、こちらへ…!」



先程歳ノ成にやられた傷口を団寿が応急処置し始める。それに伴って、おばあちゃんや英雄も手伝いを再開させた。私もそこに駆け付けて液体の落とされた患部を見ると、見事に皮膚が黒色化し、壊死している。見るに堪えないその光景に、拳に力が入った。



「さくら…あんた、大変なことに…」



番人たちから一斉に狙われるなんて。おばあちゃんは心配そうに私の両肩を正面から掴んだ。



「……4771番」



そんな私達の後ろから、百鬼の低い声がした。私とおばあちゃんはそちらに視線を移す。



「お前は明日から10日間、俺から離れることを禁止する」



百鬼は至極真面目な表情でそう言った。



え、でも。私は頭の中で百鬼の言葉を復唱して考える。離れることを禁止…つまり、10日間、百鬼とずっと一緒にいる……と?



「え、えぇえええええええ!?はいぃいいい!?」


「煩い黙れ。それ以上騒いだら斬るぞ」


「GOMENNASAI…!!」



首にひんやりとしたものが一瞬で当たり、即座に英語風で謝ることに成功。いやいやそんなことを言っている場合じゃない。10日間百鬼と一緒だと?それって色々な問題が発生するんじゃ…。いくら百鬼が以前とは打って変わったとはいえ、百鬼だ。私の命は本当に保障されるのだろうか。今も早速殺されそうになったし…。



「異論は認めない。明日10時に集合の放送がかかる。その時に宿舎入り口に立っていろ」



…ぽかん。いや、あんぐり、か。私だけじゃない。おばあちゃんも英雄も団寿も、与太造も、囚人のみんなも。百鬼の発言に口を大きく開けたまま固まった。


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