番人様は恋敵に厳しい
「……俺の島に無断で入るな」
「んほほ…島で久々に会ったと思ったら相変わらずの目付きですねぇ百鬼クン。別に私達は打ち合わせしてあなたの島に来たわけではありませんよ…輪廻転生の気配を辿ってきたらここだっただけです。きっと黄緑クンも同じはずですよ」
「僕はさくらちゃんに会いに来たのもあるけどね?ねぇ、百鬼」
「わ、私!?」
「…寄れば斬る」
「あはは、本当に騎士気取りだねぇ」
黄緑は笑って見せた。しかし百鬼は引く気はないらしい。白衣を着た番人が、細い眼で私を捕える。体の奥がぞくっと奮えた。
「ほう…あなたが冷酷無慈悲の百鬼を揺らがせている原因の重罪人、風篠さくらサンですか…。んほほ…思ったよりも随分とキュートだ…。ん、いや私は男は消滅すればいいと思っていますが…若い女性は大好物ですよ。さくらサン、今すぐに百鬼から私に乗り換えてはどうです?恥辱的に虐げてあげますよ…んほほ」
にやけ声で変態発言をした白衣の男の発言に、百鬼からビキッと音がしたのを聞き逃さなかった。
「…………気色悪い。殺す」
「ちょ、ちょっと待ってって百鬼!」
危うく二刀を抜きかけた百鬼を何とか止めて変態男にもう一度視線を移すと、絶句した。
いない。
「いやぁ、しなやかな肌…艶やかな髪。やっぱり女性はいいですよねぇ…んほほ。さくらサンの身体、私の実験台にさせてもらえません?」
「なっ…!?」
速すぎて見えなかった。いつの間にか私の後ろに来て、髪を掬われたことに全く気が付かなかった。身を捩って離れると、変態男の手が何かによって勢いよく振り払われた。
「気安く触るな。変態科学者」
「…おやぁ、本当に人が変わってしまったようですねぇ百鬼クン。……と、もう一つ意味が分からないのが……」
変態男は百鬼の横の人物に視線を移して目の下をピクピクと動かした。
「……黄緑クン。何故あなたまで私の手を振り払う必要があるのですかねぇ」
「え?だって僕は百鬼とさくらちゃんを取り合う恋敵だからさぁ」
「……はぁ?意味わかりませんね…」
黄緑さんだ。にこにこと楽しそうにしながら、いつもの剽軽な態度でそう言いのけた。恋敵…!?そんなことも初耳だが、この人はどこまで本気なのか全くわからない。それにその言い方だと、まるで百鬼が私を……ううん、思考の深読みは良くない。そんな黄緑さんに呆れたようにため息をついた変態男は少し先でまだ倒れている与太造の方に視線を向けた。
「んほほ…与太造クンをも倒しましたか、やはり流石ですねぇ百鬼クン。さっきの輪廻転生は百鬼クンと与太造クン…どちらが起こしたものですか?」
「……でかぶつだが?」
「あぁ…そうでしたか。安心しましたよ。閻魔筆頭候補の百鬼クンだったら残り11日というところでまた差をつけられてしまうところでした。では、与太造クンに輪廻転生のコツを聞くとしましょうか」
そう言うと変態男はまた一瞬で私達の前からいなくなり、倒れている与太造、手当てしている団寿やおばあちゃん、英雄の場所へ移動していた。ひぃっ、と、団寿の声が漏れる。
「与太造クン…残念でしたね。打倒百鬼クンならず…のようですが、妙に清々しい顔をしていますねぇ」
「…ふん…お前には、わかんねぇ世界さ…このやろう」
「んほほ、言ってくれますねぇ。まぁそんなことは何でもいいのですが…どうやって二人もの魂を輪廻転生したんです?あなたは番人として一度も輪廻転生に成功したことはないはず」
「…………知るかよ、このやろう」
与太造の言葉に、変態男の空気が変わった。
「あぁ…そうですか。シラをきるつもりなんですね。でしたら、口を割る選択肢しか残さないであげましょう。んほほ」
変態男は胸ポケットから蓋のしてあった小瓶を取り出し、その蓋を親指で外す。与太造に向けて中身のピンク色をした得体の知れない液体を一滴垂らした。
「うっ、ぐぁああああああ!」
「っ、よ、与太造様!?」
突然、与太造が苦しみの声を上げる。一滴落ちた左肩を手で押さえて、手当てをしていた団寿達が吹き飛ばされるほど悶え苦しみ始めた。
「っ、な、何をしたの!?」
突然の事態に、私は声を張り上げる。変態男は冷え切った目で与太造を見たまま話し続けた。
「この薬は私の開発した拷問薬…。一滴で1億の細胞を壊死させ、激痛が走りますよ。どうします?次答えなかったら3滴垂らします」
変態男は怪しい小瓶を左右に振り、みんなの恐怖を煽った。




