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いつの間にそんな関係になりましたか

二人のきらりと光った魂が、地獄の空に浮かび上がり消えた。囚人も看守も番人も…その場にいた誰もが、その美しい瞬間を静かに見つめていた。



「与太造のお母さんとお父さんは絶対素敵な人になる…絶対だよ」



大柄な体を震わせる与太造に、私はそう思った。そしてそれを言葉にせずにはいられなかった。百鬼にかけてもらった羽織をきゅ、と握る。それが聞こえたかは分からないが、与太造はゆっくりと天を仰ぎ、あの神秘的な現象があった赤い空をじっと見つめていた。その背中に何故か、私も涙が頬を伝った。



「重罪人女…確かにお前が言う通りなのかもな」



与太造は背中を向けたまま、私に続けた。



「本当に強いのは、力をもった奴じゃなく…大切なものを護り通そうと戦った奴なのかもしれない。お前らのように」



お前ら、与太造のその響きに、私は横にいる百鬼を見た。目が合って、百鬼も私を見ていたことに気が付いたけどすぐに逸らされてしまった。



「与太造のお母さんみたいに耐えられなくなって逃げてしまっても…お父さんのように人を傷つけてしまっても…誰かの優しさに触れて強くなれる。二人とも、与太造も立派な強い人だよ」



与太造は返事をしてくることはなかった。私も空を見上げる。どんなことがあろうとも、悔い改めてもう一度やり直せる。きっとそれが、輪廻転生に繋がるのだろう。この空の上に、私達がいた人間界はあるのだろうか。もしくは天国があるのだろうか。私は人間界に帰れるのだろうか、ここにいるみんなは、輪廻転生できるのだろうか…そんなことを考えていたら、与太造が百鬼の名前を呼んだ。



「悪かったよ。クズ呼ばわりして。お前は冷酷でも非情でもねぇ…。気高い強者だ」


「……」



百鬼は何も言わなかった。ただ真っ直ぐに与太造の背中を見据える。



「…百鬼?」



そんな百鬼に、私はそちらを見る。再び百鬼と目が合った。今度は私の眼をじっと見て暫く逸らさなかった。



「…俺が冷酷非情だというのは…嘘偽りない。それを変えた太陽が、隣りにあっただけだ」



百鬼の発言に、与太造はふ、と笑い地面に倒れた。



「よ、与太造!」


「充電切れだ。あの傷で無茶をするからこうなる。またあの医者の看守に診させればいい」



慌てふためく私に百鬼はツンケンとした態度でそう言い放ってどこかへ向かおうとした。私は急いで団寿を呼び、治療の続きを促す。団寿はびくつきながらも治療を再開してくれた。おばあちゃんや英雄も団寿を手伝ってくれる。そんな中、肩や首をぐるぐると回して地面に突き刺した二刀を取りに行く百鬼の後ろ姿を見て、私は心が温かくなる。



“…だから今度は…俺がお前を…必ず護る。人間界へ帰す”



さっきの言葉を思い出せば、温かい胸に心臓が妙に音を立てた。百鬼の羽織をぎゅっと握って、走ってその背中に近付く。



「百鬼……!ありがとうね」



百鬼に追いついたところで、後ろから着流しを摘まんでそう言うと、百鬼は少し驚いた顔で私の方を振り向いた。



「俺が護るって言ってくれた時…本当に嬉しかった。かっこよかった」



二刀をしまおうとしていたのだろう百鬼がそれを手に持ったまま、私に着流しの裾を掴まれたまま固まる。そしてその顔が、次第に赤くなっていくことに気が付いた。そうなっていくと、急に私も恥ずかしくなって顔に熱が集まっていく。



シャキン、



「えぇええええちょ、何で私が二刀向けられてるのぉおおお!?お許しだってば百鬼様ぁあああ!」


「お、俺はそんなことを言った覚えなどない!でたらめを言うなら斬るぞ」


「言ったじゃんかぁああさっき私に確かに言ってくれたじゃんか、…だから今度は…俺がお前を…必ず護る。人間界へ帰すってぇえ!」


「だ、だだ黙れ復唱をするな!」



わーぎゃーと騒ぎ出す私達に、少し遠くからおばあちゃんや英雄、団寿、与太造達の冷たい視線が降り注いだ。しかしそんな冷たさも感じないほど今の私と百鬼はヒートしている。やっぱり動物園だったのかな…と呟いた与太造の心知らず。私は百鬼に斬らないでポーズをすると百鬼は顔を真っ赤にして怒りながらも二刀を鞘に納めてくれた。よかった、二次災害は防げた。



「もう、ほんとに読めないなぁ百鬼は…。護るって言ったり斬るって言ったり…あの時だって私にちゅ……、」



自分で言いかけた言葉が、より自分を辱めた。あの時、その続きの言葉をつい言おうとした時に思い浮かんだのは、地獄墓石門出口でのあの瞬間。百鬼の唇が私の唇に触れそうになったあの時のこと____。即ち、私が今無意識に口走りそうになった言葉は、私にちゅーをしようとしたのか分からないし…である。しかしそれに気が付いて止めようとした時にはもう遅かった。周りの動物園入場者達が反応したのである。



「ちょっ…どういうことだいさくら!?ちゅ!?まさかちゅー!?番人といつの間にかそんな関係に…!?」


「ひ、ひぃいい紫太夫さん僕をつつ掴んでますぅうう!そ、そしてさくらさん本当に…!?」

「まじかよさくらぁ!?あっ…」



英雄は私の後ろにいる百鬼が真っ赤な顔をしてすこぶる殺気を放っているのに気が付き、顔を青ざめさせた。私も恐る恐る後ろを振り返ると、地獄の鬼の名が廃らないレベルで赤鬼に変化している百鬼がいた。



「俺は…そ、そのような不純な事をする前にしっかり止めた…!!」



…………あ。それって、しようとしたことは自分で認めたことになっちゃったんじゃ。ここにいる誰もがそれに気が付いただろうが、言えない。


あの百鬼には言えない…それって自分でばらしてんじゃん…!とは。そしてこの感じ、きっと百鬼本人も自ら自白した形になった事に気が付いていない。ここは自分たちが受け流そう…そういう空気が漂った時、私達の上方から二つの大きな圧が現れた。



「んほほ…近年稀に見ていない輪廻転生の光を感知して飛んできてみれば…とんだ痒い情報を聞かされたものですねぇ…」


「んー、百鬼に一歩リードされたっていうところかなぁ。恋敵も楽じゃないねぇ」



視線の先には、地獄門の上に立っている二人の男、一人は白衣を着、長い銀髪を後ろで一つに束ねていて、背丈が高い。もう一人はこの地獄で良い生地のスーツに身を包んだ栗色の髪をしている…確か、黄緑さんだ。二人の圧…オーラは凄まじい。


黄緑さんは確か番人と言っていた。そうなると横の白衣もきっと番人なのだろう。どうやら輪廻転生の眩しい光を見て、百鬼の島にやってきたようだった。二人の登場によって、囚人たちが震えはじめる。倒れている与太造を合わせればこの島に番人が四人…色濃すぎるこの空間の空気が、動物園からアマゾンへと変わる。どうやらさっきの会話を二人に聞かれたようで…一人で恥ずかしさを隠すように顔を叩いた。




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