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それでも目に見えないものを信じたい

来た。番人だ。看守達と比べて桁違いの圧に、みんなたじろいだ。与太造は大きな体をゴリゴリと回して、戦闘態勢を整えているかのように体の節々の骨をボキボキと鳴らす。おまけに体を越えるほどの大きく刺々しい金棒が恐怖を煽る。あの金棒で殴られたら一溜まりもない。囚人たちはあまりの恐怖から腰を抜かしてしまう者もいた。



「おいお前…百鬼はどこだ?このやろう」


「ぁ、あぁ…え、と…っ」


「遅い。話になんねぇな」



ドゴォオッ



震えから答えられなかった囚人の身体が金棒で吹っ飛び、血の池の中に沈んだ。あまりの光景に、私もみんなも、頭を真っ白にさせた。



「っ、い、嫌だぁあああ!」



思わずに逃げ出す一人の男。それに気が付いた与太造が狂気に満ちた顔で金棒を振り上げた。



「っ、駄目!!」



私がそう叫んだ次の瞬間、金棒で男の頭が潰れた。横殴りな血の雨が私達囚人の身体を濡らす。



「はっ、俺から逃げようなんて甘いぜこのやろう。お前らを輪廻転生させるのは半ば諦めた。だったらお前らの首を飛ばして看守になろうが関係ねぇ。俺が殺りてぇのは百鬼だ。その肝心の百鬼はどこだって聞いてるんだよ囚人ども、このやろう」


「…っよ、与太造様…」



絶望の表情で何も答えられない私達の中から、か細い声で与太造の名前を呼んだ男がいた。さっき、私の胸倉を掴んで百鬼を討つと言った男だった。



「あ?お前知ってんのか?百鬼の居場所。このやろう」


「お、俺に…よ、与太造様の手伝いをさせてください…!百鬼様を……ひゃ、百鬼を討つ、手伝いを…」


「手伝いだぁ?」



男は震える手を挙げて躍り出た。与太造は男を暫く見た後、ふーん…と唸りを上げた。そして、大柄な体にぴったりなほどの豪快な笑い声を上げる。



「百鬼の野郎担当囚人にこっ酷く嫌われてんなぁ!傑作だぜこのやろう!俺ぁ自分の囚人には感情をもたれる前に首斬っちまうからなぁ…囚人の生の声ってのは面白い。いいだろう。お前らみたいな情弱に何ができるかは知らねぇが、手伝わせてやるよ、仇討戦」



与太造の予想外の反応に周りの囚人たちも顔を見合わせはじめる。そして次々と俺も、儂も、と挙手で与太造の下につく者たちで溢れ返った。与太造としては囚人たちに恨まれる百鬼という像が面白かったのだろう、尚愉快そうに笑った。



「そんで…お前らはしねぇのか?仇討。このやろう」



一段落ついたところで、まだ名乗りを上げていない私とおばあちゃん、英雄の方を与太造が捉える。ここで与太造の下についてしまった方が、痛い目を見ないのは分かってる。どうしようもない動物的な恐怖心からひれ伏したくなる気持ちをぐっと堪えて、私は血が出るほど唇を噛みしめた。



「…お前もしかして…重罪人の女囚人、風篠さくらか」


「!知ってたの…。重罪人じゃ、ないけどね…!」


「お?だははは!俺にため口を使うなんざ、確かに肝が据わってる。悪くねぇ。お前だろ、最近の百鬼をおかしくしてる要因ってのは。お前俺の下について百鬼を討てば俺が閻魔になった時に俺の直属の部下として使ってやるよ、このやろう」



与太造はまたもや大きな声で笑った。私は少しも笑えない。持ち出された条件は私がみんなみたいに与太造について百鬼を討てば今後部下として優遇するということだ。冗談じゃない。第一私は人間界に帰るし、こいつの下について百鬼を討つつもりなんて全くない。そんなのやらない、そう言おうと空気を吸い込むと、与太造の顔から笑顔が消えた。



「…お前、その反感的な眼…百鬼に似てイラつくなぁ、ご主人様は裏切れねぇってか。このやろう」



与太造を纏う圧がまた強くなった。怒りのオーラのようなものを纏った与太造に、囚人たちが怯える。与太造は不機嫌な顔で言葉を続ける。



「自分よりも力のある者を前にして屈服しない生意気極まりない奴が大嫌いなんだよ俺は…。力が全てだ。力があるものが強く、偉い。情弱は大人しく搾取されればいいんだよ、このやろう」


「そんな…ジャイアンみたいな理屈で人を動かそうとしないでもらえる…!」


「……重罪人、俺に従わなければ血を見るぞ。今すぐに百鬼のような生意気な眼をやめてひれ伏せ、このやろう」


「っ…」



島全体がただならぬ緊張感に包まれた。私もこの圧に、足を踏ん張っていないと崩れ落ちてしまいそうになる。



「…百鬼を擁護する理由が何処にある。お前を虐げてきた担当番人だ。やり方はこの俺よりも惨かったと思うぜ…。あのクズを殺れるチャンスをくれてやってるんだ、有り難く思え。このやろう」


「ひゃ、百鬼は…確かに罰のやり方が惨くて…泣いても叫んでも許してくれないような冷酷な番人に見えた…でも…クズなんかじゃない…!」



ピクリ。


私の言葉に与太像が目の下を動かす。どうやら気に入らなかったらしい。金棒を肩の上から地面に落として、威圧してくる。



「おい…俺は人間界にいた時からヤクザとして人間を苦しめて生きてきた番人のプロだ。盾突いたらどうなるかくらいさっき死んでいった奴らを見たら分かるよな…?このやろう」


「っ、きゃ!」



与太造が振り回した金棒をギリギリのところでしゃがんで躱す。図体の大きさからは考えられない速さで第二手を繰り出してくる。私は与太造の足をとって、ムエタイ技で動きを封じ込めようと力を込めた。しかし、硬い。思うようにこの体が動かない。それに味を占めた与太造は私の上に金棒を振り上げた。



____しまった。頭が潰される!



反射的にぎゅっと眼を瞑るも、痛みは襲ってこなかった。それどころか、与太造の痛みを訴える声が聞こえ、私は眼を開けた。



「…人の島で何をしている、でかぶつ」



_______百鬼だ。与太造の腕には百鬼の投げた短刀が刺さっていた。周りの囚人たちは百鬼の登場により汗を滴らせる。しかし、助けに入った百鬼に前代未聞の驚きを感じながら。


百鬼…百鬼の姿を見た途端、私は安心感を覚える。また助けてくれた。苦しむ与太造から素早く離れて百鬼に近寄ろうとするも、百鬼は私にも刃先を向けた。



「寄るな」


「え…百…鬼?」


「俺は自分の島で暴れるあいつを仕留めただけだ。俺は地獄の番人…邪魔をすればお前も殺す」


「…っ…!何で、」



私の問いかけに耳を貸そうともしない百鬼は、まるで昨日とは別人だ。



“…今日のことは、忘れろ”



百鬼の昨日の言葉が蘇る。私に忘れろと言ったけど…本当に何もなかったことになってしまったのだろうか。そんな、そんなはずはない。いや…そんなはずはないと思いつつも、自信のもてない自分がいた。心に百鬼の言葉が突き刺さる。お前も殺すと言われるのは初めてじゃない。なのに、今日はどうしようもなく、胸が痛い。まるで百鬼にとって私という存在が気にするに値しない無になったようだった。



「百鬼…見つけたぜこのやろう…!案の定この女がピンチになると現れやがったな…最強最悪の番人が聞いて呆れるぜ、俺の方がお前なんかよりも強い!」


「その女には何の価値もない…殺したいなら殺せばいい。だが、俺と殺り合う気なら容赦はしない」



キィン!


いつの間にか与太造の前まで移動していた百鬼は二刀を抜いており、与太造に斬りかかっていた。目で追えないほどのお互いの猛攻に、私達は目を見張る。二人のいる場所から起こる突風に囚人たちはみな身を護る。




その女に、何の価値もない。




百鬼の言葉の一つ一つが、私には槍のように突き刺さった。馬鹿みたいだ、一人で勝手に盛り上がって、希望をもって。百鬼は私を無価値なものとして見ていることに変わりはなかったのに…。




…本当に?



止まらぬ混戦の中、与太造はリミッターが切れたかのように饒舌になる。



「はっ…!やっぱりおかしくなっちまったみてぇだな百鬼…!さっきからあの女の方に攻撃を飛ばそうとするたびに僅かな動揺が見えるぜこのやろう…!だがな、教えてやるよ。お前みたいなクズが情をもったところでそれは弱みへと変わる!情弱は搾取される!」




でも。




「俺はなぁ…!ずっと一番強いはずの俺の先を行きやがってお前にイラついてたんだよ!対して力もねぇくせに最強の番人とか言われていい気になりやがって!苦労もねぇ餓鬼が調子に乗ってんじゃねぇよ…このやろう!」




それでも。




「諦めろ…お前は本来情も血も涙もない屍も同然のクズだ」



私がどうとか、関係ない。百鬼が馬鹿にされるのは嫌だ。



「こ、このでかぶつーーーー!百鬼はまだ私を…おばあちゃんや英雄や団寿を助けてくれる優しさの残った人間なんだよ!クズでも非情でもない!苦労しすぎてちょっと本当の自分を忘れちゃっただけなんだよ、お前なんかとは違うんだよっ…!百鬼を馬鹿にすんなバカヤローーーー!」



ざわっ!


島全体に戦慄が走った。


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