第5話
「ちょっとまて、そんな危ないのか、ここ」
冗談じゃない。ただのパソコンのトラブルがとんだ大事になってきた。
「大丈夫、大丈夫、死んだらもとに戻れないだけだから」
「やべえぇじゃないか。俺は帰るぞ」
「いいのかい」
彼女はにやりと笑う。
「《《どう帰るかもわからないのに》》」
「なっ。てめぇ」
「ははは、君は僕とこの世界を楽しむしかないのさ」
駄菓子屋にあがり、家の二階にあがる。畳のしかれた一部屋。10畳ぐらいだろうか。二人で座るとすこし手狭だ。
「君はたしか地獄の業火《ヘル・フレイム》と名乗っていたね。プフ」
「いいじゃないか。かっこいいだろ」
しぶしぶと、ちゃぶ台の周りに座る。片恋は、反対側に座り、こちらに向かってニマニマといやらしく笑っている。こんなに生き生きとした表情をうかべる奴なのだろうか。
「円上から炎上とは、ぶふ、短絡的すぎるんじゃないかい」
「うっさいわ」
「はは、さて、君の腕はご覧の通り、カックカクだからね。魔法をつかってもらおうか。やったことがあるだろう」
「まぁな。武器を決めかねているときにな。いまはヘル・ソード一択だ」
「へ、へるそーど、ふふ!ぶふ!」
やめて、かっこいいとおもっているんだから。
「ふふ、君のセンスはおいておいて、近距離の戦いがわかっているなら、ありがたい。僕はライフルにかなりポイントを割いているからね。ぼくの前衛として活躍してくれたら、さぞ蜂退治がはかどるだろう」
「『女王針』は?あの毒のナイフがあれば、問題ないだろ?」
『女王針』とは、彼女の使う毒ナイフの通称だ。
「いや、ただ、ここの敵を倒すには、威力につぎ込まないといけないからね。毒ナイフの分のポイントを上乗せしているんだよ」
武器は新規参入者が入り込みやすいように、1000ポイントを上限にされている。プレイヤーは決められた範囲内で自由に武器の性能を設定できる。例えば、ハンドガン自体が200ポイントだとすると弾数や威力、装填速度などをオプションで、ポイントをくわえることで、リデザインすることができる。また、現実ではありえない属性や効果の付与などもポイントで行われている。例えば俺のヘル・ソ、いや日本刀は、300ptの本体に、切れ味向上100ポイント、属性に炎200ポイントといった形だ。残りの400ポイントはけん制用にハンドガンを装備している。こちらは弾速と装填数にポイントを割いている。
「そのハチ柄のライフルのポイント配分はどうなってるんだ」
「『女王蜂』様の手の内を見ようとはフレイム君はスケベだな」
「ちょ、なんてこと言うんだよ」
「はは、冗談だよ、君のそういった強くなるためのハングリー精神は認めいているよ。特別に教えてあげるよ。このライフルは本体300ポイント」
「結構普通のコストだな」
たいていの武器は100ポイントから200ポイントで交換できる。
「まぁ、頑丈さがいるからね。少し防御力に振っている」
「で、内訳は」
『女王蜂』の代名詞は毒ナイフとライフルの二つを合わせたバランス型の戦闘だ。だが、今のいいようだと、どうやら勝手が違うらしい。
「威力700」
「な、ななひゃく!?」
おそらく対人戦だと一発で相手はおろかステージも吹き飛ばす威力だ。
「ほかの武器は、装填数は」
だが、あまりそういったことをしないのは、バトルロイヤルにおいて手数の少なさは戦略の少なさにつながるからだ。1発撃って、はい、おしまいじゃ、生き残れない。たいていはポイントを二つ~三つに分けて、武器を複数もつのが普通だ。
「一発限りのライフルだ。スリルがあっていいだろう。リロードの間は、逃げの一手さ」
「そんなの戦略とは言わないぞ」
「あくまで、回避の練習と、確実に相手に当てるための緊張感が目的さ。僕のモットーは『蜂のように舞い、蜂のように刺す』さ。今回は相棒がいるから普段のトレーニングよりだいぶ楽だろう」
にっこりと俺に笑いかけた。え、笑顔がまぶしい。普段女王様と呼んでいる連中が見たらどう思うだろうか。冷たい視線にぶひぶひ言っているあの連中は、この別人みたいなかわいい笑顔に対してもやっぱりブヒブヒいうのだろうか。
「はは、勘弁してくれよ。」
「いやいや何をいっているんだい。ここからでるためにはあそこにカチコミをかけないといけないのに悠長なことはいってられないよ。相棒君」
いつのまにか相棒に格上げされている。ん?あそこ?
彼女が窓の外を指さすと町の反対側に巨大な丸いドームがあるのが見えた。
「なんだあのドーム」
自分の記憶にあるこの懐かしい町にあんなドームはなかった。
「ああ、あれは、蜂の巣だよ。」
「は?」
明らかにデカすぎる手前の家よりでかいって、頭おかしいだろ
「あそこをぶっ壊せば、君のパソコンも回復するだろうさ。楽しい楽しい蜂退治といこうじゃないか」




