第3話
「まずは、『デッドワン』にきてくれるかい。ルームの招待コードは先ほど言った通りだ。あ、時間がかかるから、トイレとかはきちんといっておくように。私も準備するものがあるから、今から1時間後に集会所に集合だ。君のパソコンからログインしてくれ」
「集会所って直でルームに行ったらダメなのか」
「仕込みが必要なのだよ」
「ログインったって、この状態じゃ」
「ヘッドギアから起動とログインをして、最後にパソコンにつないでくれ。ヘッドギアが必要なのは電源とインターネットの回線だから。影響はないはずだ」
彼女はじゃあ、また後でと通話を切った。
上位ランカーである彼女の秘密を知れるのか。片恋と出会ったゲームは「デッド・ワン」というオンラインゲーム。いわゆるバトルロイヤルゲームだ。ルールは単純。最後の一人になるまでHPを削り合う。
特徴はその幅広い武器種だ。ハンドガンからバズーカ、便所のスッポンから魔法の杖まで、ざっと数百種類の武器から選ぶことができる。これらの武器は常に公募されており、キャラクターデザインとともに日に日に数を増やしている。はじめはパソコンだけだったが、家庭用ゲーム機やヘッドギアなど次々にハードも広がっていて、総ダウンロード数は数千万にものぼる。
また、相手を倒すことで得られるポイントが、そのゲーム内だけではなく、現実世界の様々な商品と交換できる。たちまち、SNS上で話題になり、その後、その単純だが、ゲームの奥深さ、駆け引き、デザイン性、などが若者の心を掴み、モンスターコンテンツとなった。
スポンサーとのコラボや大会も多数あり、それがまた新規の参入者を増やしていた。賞金額もインフレ気味であり、結果、プロプレーヤーと呼ばれるプレイヤーがいる。片恋はそんなプロプレイヤーの一人だ。賞金は何に使っているのだろうか。
ちなみに、俺のヘッドギアはそんな片恋から譲ってもらったものだ。なんでもスポンサーから新しいヘッドギアが貸し与えられるかららしい。
「やぁ、炎上くん。ちゃんと尿は排出してきたかい」
「やめろそんな美少女が満面の笑みで尿とかいうのは。後、俺はそんなに燃えてない」
近年もはや主流になったVRMMOである。 その発展はめざましく、五感も本物のように感じる上、グラフィックも違和感なく受け入れることができる。
集会所で声をかけてきたのは小柄な少女だった。ゲームの中の片恋とこうして話すのは何度目になるだろうか。フワフワとした黄色と黒のゴシックロリータの服に、ポーチを下げている。長い黒髪をツインテールにして、柔らかに微笑む彼女はリアルではゴミ屋敷に住んでいるとは微塵にも感じられない。
「おい。円上くん。何か失礼なことを考えていないかい」
「いや、そんなんことはない。いや、ありません」
首筋に当てられたナイフからは紫の煙が立ち昇る。死角から現れたそれは、彼女の警告がなければ簡単に俺の命を刈り取っていただろう。『デッド・ワン』のランキング5位。『女王蜂』彼女の異名だ。毒ナイフとライフルの使い手で、近距離でも強いスナイパー。彼女超のつくほどの有名人でこの集会所でも
「女王蜂だ。おいみろって!『女王蜂』だ!」
「あの服はじめてみた!ちょっと今度私もあの服にしたい。一般販売あるかな」
「きゃあ!お姉さまぁ!今日は私を一番にしとめてぇ!!」
「じょ、女王様だ!ぶひい!!!踏んでくださいブヒィいい!!」
と、歓声がわき上がる。
「フフフフ。次回の試合では楽しみにしておきたまえ。僕のライフルで、体を粉々にされるか、ナイフでじわじわと苦しむか。」
うっとりと笑う。どうやらSっ気に拍車がかかるようだ。またその一声で、一段と歓声が大きくなった。
「さて、ここは騒がしい。ルームに移動しようか」
「あ、ああ」
「で、俺のこの体はどういうわけだ」
「ぶふ、ふふふ、我慢できない、フハハハッ」
ルームに入った後、耐えきれなくなったのか片恋は笑い出した。俺の体は明らかに時代錯誤のビット数の少ない、サイコロを組み合わせたかのようなカクカクボディ。
「ふふ、予想以上に、ふふ、コンピューターがやられているようだね。ぶはっ」
「笑うなよ片恋。お前の指示だろ」
「で、私の姿について何か一言ないかい」
くるりとその場で一回転する。
「は?う〜ん」
正直特に変わっている様子はない。
「あ、髪型変えた?」
「この髪型はずっと変わっていないよ、戦場くん」
彼女はむすっとして言った。
「それとここは『デッドワン』の中だぞ。本名を呼ぶのは、マナー違反だ」
「悪かったよ。なんて呼んだらいいんだよ」
「そうだな」
彼女は少し考える。その手を顔に当てて考える仕草はリアルでの彼女そのままだった。
「女王様ってのはどうだ」
「お前…」
「フフフ、いや、どうしてもって言うなら」
「わかった。女王様だな。なぁ、女王様」
「ん?ちょ、待って待ってくれ」
「どうしたんだよ、女王様。さっさと御命令を」
その場でかしづいてみたが、反応がない。ちらりと片眼を開けて、見上げると、そこには顔を赤らめて恥ずかしがる彼女がいた。
「ちょ、知人にそう言われるのは、その、照れるから、やめていただきたい」
「じゃあなんて呼べばいいんだ」
「あぁ。BEEでいい。呼びやすいだろ。仲間内ではそう呼ばれている。君には恥じらいはないのか」
「全裸で男子高校生と会話するお前には言われたくない」
とはいえ、この体。PCの処理能力が落ちているとはいえ、ここまでひどいとは。一応、黒ずくめのスーツ姿でカッコいいデザインにしていたんだがな。
「こんなんで武器なんか持てるのか?…ハンドガン!」
空中にでた愛銃のハンドガンをキャッチしようと腕を伸ばしたが、虚しく、かつんと当たって地面に落ちたのだ。
「…」
「ぶは!ふふふ!カツンって!カツンて!ふふふ!」
「やめてくれ、恥ずかしい。はぁ」
「君の方はそうだな、炎上=フレイムとでも呼ぼうか。キューブでもいいが、ぶふ」
いちおう操作はできるようだが、物を持つなどの操作と行動面に制限がかかっているようだった。
「で、BEE。俺は中古のパソコン直すためにどうしたらいいんだ」
「ん。あぁ、パソコン、そうだったな」
「…?」
「コホン。この『デッド・ワン』には一つ裏コードがあってだな」
「裏コード?」
「そうさ。あらゆるハードに逆にアクセスできるんだよ。本来はハードからコンテンツにアクセスするのを、逆にコンテンツからハードへアクセスするんだ。もともとは技術者がソフトを開発するために作ったコードらしいんだが。その技術者が遊び心があってな。まあ、見たまえ」
彼女は対戦ルームにログインするための画面を開く。本来は数字を入力する画面に英語をうちこむ。「Internet・hornet」と。
ステージにログインするドアとは反対側にドアが出現する。ドアには蜂の刻印がしてある。雀蜂だ。
「僕はここで、腕を磨いたんだ」
彼女はドアを開けながら、そういった。




