ある酒場で・・・
まだ日は高い。そんな中、60も半ばであろう老人が、酒場に入っていく。
「まだやってないよ」
明らかにいらいらした声が客のいない酒場に響く。確かに扉に「CLOSE」の札がかかっている。
だがそんなことはお構いなしでその客は店内に入ってくる。
「まっ昼間っから酒があおりたきゃ、よその店へ行きな」
主人はイライラを隠そうともせずそういうが、老人はお構いなしだった。
「おい、あんたいい加減に・・・」
「久しいな、ヴァイザス。引退して、こんなことをやっているのか」
「・・・お?なんだお前か、見ない間にすっかり老け込んだな、グレン」
老人の顔を確認した主人は、顔を崩す。彼らは、旧知の仲だ。
「そういうあんたも、見る影もないぞ、昔は孔雀のような派手な服を着ておったではないか」
「はっ、お前こそあのときの鎧はどうした。赤と銀色の、似合ってたのになあ」
「たわけ、あんな重いもの、腰に悪いわ」
互いの悪口を言い合っているものの、彼らの顔はにこやかだった。
お互い、悪意はないらしい。
「で、どうした、何か用か、手土産のひとつもなきゃ、帰ってもらうぜ」
「クク、昔の友人と語らうのも、高くつくものじゃな」
そういいながらも、懐から高そうなビンを取り出した。
どうやら、酒のようだ。
「おお、こりゃ名酒《轟》じゃねえか、ありがてえ、この地方じゃめったにお目にかかれねえんだよ。まあ座れや、いっぱいやろう」
「・・・急に上機嫌になりおって、現金な奴め」
グラスを取り出しながら、主人が尋ねた。
「そういやぁ、俺の息子今どうしてる。こうも辺境だと噂も伝わってこねえ」
「ああ、うまくやっておる。あんたよりよっぽどな」
「へっ、そうかいそうかい。そりゃああんたの孫も苦労するだろうぜ、あと1年で16だったか」
「いや、あと半年じゃ。また、歴史が繰り返される」
「何しんみりしてんだよ。あんた、本当老け込んだな」
「そうじゃな・・・年を取らんあんたが羨ましいよ」
「けっ、くだらねえ。あんたが持ち出してきた何とやらの剣のとかのせいであらかた魔力もっていかれたからな、今じゃ酒場の主人くらいしかできねえ抜けがらさ」
「ああ、あのときか。スマンかったな、あのときは」
「やめてくれよいまさら、あれも必要な犠牲、だろ。勇者様」
「元勇者じゃ。元をつけろ、元魔王」
「ああ、懐かしいなその呼び方」
やがて持ってきた酒もつき、日も傾き始めた。
「そろそろ失礼するよヴァイザス。まだ役割が残っておる。優しいおじいちゃんとして、孫に死に際に勇者の証を渡さねばならん」
「ああ、必要な犠牲、か」
「そのとおりじゃ。まったく、この世は平和じゃのう、ヴァイザス。わかりやすい正義と、わかりやすい悪のおかげで均衡が保たれておる。必要な犠牲。よう言った物じゃ」
そういうと、元勇者は店を出た。
「平和、か」
そうつぶやくと元魔王は扉の札を「OPEN]とし、グラスを磨き始めた。
さて、長かった彼の物語も終わりを告げる。
ある少年の住む町に魔王軍が攻め入り、少年の家族を皆殺しにする。
ちょうど隣町から帰ってきた少年は、虫の息の祖父から「勇者の証」なるアイテムを授かる。
困惑したままに、少年は魔王軍を殲滅する。
家族を奪われ、絶望する少年に私が語りかけ、新たな物語が始まる・・・
ここは魔法大陸アルバトビュウス。
世界には魔族と人間の2種類が存在し、
同族が決して争わない世界。
その世界には、神が存在している・・・
勇者ものが書きたい!そう思って書いたのに、
妙に重たい話になってしまいました・・・