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予告状

 アデル、ユーリと三人で学園に到着したら、なぜか校舎の入り口付近で人だかりができている。


「何か事件でもあったのでしょうか?」


 とユーリが不思議そうな声を出す。

 彼女の気持ちはよくわかる。


 学園の警備は一見ザルのようだが、実力者の教師が何人もいるのでめったなことはないと思う。


 もちろん筆頭はネフライト先生で、彼女がいたら強盗の一団くらいまとめて瞬殺コースだろう。


 貴族の関係者を狙うとしても、この学園は普通においしくない。


 目的にもよるけど、ふだん使われない貴族の別荘あたりのほうがまだ成功する見込みがあるんじゃないだろうか。


「とりあえず情報を仕入れてみよう」


 だが、俺には普通ならやらないことをやりそうな存在に、残念ながら心当たりがあった。


 だからふたりに声をかける。

 同じことを考えついたのか、アデルはハッとして小さくうなずく。


「何があったの?」


 とアデルが話しかける。

 ふり返った女子が一瞬驚いたものの、すぐに教えてくれた。


「あそこに怪盗を名乗る存在から予告状が貼られていたんだそうです」

 

 と言って校舎の壁を指さす。


「校舎の壁に貼ってあったの?」


 しかも犯人は怪盗を名乗ったのか。

 いくら何でも斜め上すぎるだろう。


 そりゃ騒動にもなるはずだ。


「ええ。何らかの魔法が使われていたらしく、警備員が外せなかったものをネフライト先生がはがしたのです」


 と女子生徒が説明する。

 ネフライト先生じゃないとはがせなかっただって?


「警備員って言っても、この学校で雇われてるくらいだからエリートのはずよね?」


 アデルも俺と同じような疑問を口にする。


「いざとなったら私たちの盾になる人たちですしね」


 と女子生徒がうなずく。

 さらりと黒い話題がはじまったが、これが貴族社会だ。


 アガット侯爵家の郎党がいざというとき侯爵家の人間を守るように、警備員たちはいざというとき学園の生徒たちを守る。

 

「とは言え、警備員が役に立たないのは困るでしょう」


 横から女子生徒が入ってきたが、リボンが紫なことから上級生だと判断した。


「そうですよね、アデル様」


「ええ」


 アデルは素直に肯定する。

 

「ネフライト先生が出張らないといけないレベルの賊がいるだなんて、にわかには信じられない」


 警備員を擁護しても無駄だろうからしないけど、かわりに敵のレベルの高さを俺は指摘した。


「それはそうよね」


 とアデルが同意する。

 彼女の表情がかげったのは、俺と同じく魔族の存在を想像したのかもしれない。


 魔族なら強固なはずの学園の守りをすり抜け、ネフライト先生でないとはがせない貼り紙をすることはできるだろう。


 だけど、何のために?

 そんな疑問が頭を駆け巡る。


「貼り紙は見たのですか?」


 と俺が女子に聞くと首を横に振った。


「私が来たときはネフライト先生がはがした直後でしたから」


「誰が何のために、ということがわからないこその現状だと言えますわね」


 上級生女子もそう言う。

 なるほど、そういうことだったのか。

 

 いまどき怪盗なんて時代錯誤もはなはだしいんだよなあ。

 

「とりあえず教室に行かないか」


 と俺はアデルに言う。

 俺たちの担任はネフライト先生だし、クラスには上流階級が多い。


 ある程度のことは教えてもらえるだろうという期待がある。


 アデル以外にもレーナ・フィリス殿下っていう、賊の標的にされそうな大物がいるんだし。


「そうね。ネフライト先生に直接聞けるものね」


 とアデルは納得する。

 それを聞いた女子たちはおそるおそる聞いてきた。


「できればでいいのですが、私たちにも情報を教えていただけませんか」


「かまわないわよ」


 アデルは笑顔で快諾する。


 作れるときに貸しを作っておくのも、貴族社会を渡っていくうえで大事なテクニックだもんな。

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