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レーナ・フィリスの思いつき

 放課後、今日もレーナ・フィリス殿下にお茶会に誘われる。

 貴族の女性って本当にお茶会が好きだよなぁと思う。


 言葉に出しては言えない。

 男の人ってバトルが好きだよねって切り返されるだろうな。


「それにしても今日の授業には驚きました。ユーグ殿は近衛騎士に興味はないの?」


 とレーナ・フィリス殿下がいきなり爆弾発言を投下してきた。


「で、殿下!?」

 

 アデルが目を見開いて立ち上がる。

 そりゃ彼女からすれば聞き捨てならないだろう。


 だが、彼女はハッとしてすぐに座る。

 一瞬で冷静さを取り戻したらしく、落ち着きのある顔で聞いた。


「お気持ち次第ではかなりあやういお話になりますが」


 とは言え不穏な言い方はやめられなかったらしい。

 もっともアデルが怒ってこんな言い方をするのも、いまの俺にはわかる。


 貴族の人員を王家が引き抜くのは、王家と貴族の仲にヒビが入るリスクがあるのだ。


 アガット侯爵家との仲が悪くなるのは、王家といえどできれば避けたいはずである。


 一瞬でそのことに思い至ったから、アデルのさぐるような態度があるわけだ。


「ああ、そんな意味はないのよ。ただ、将来アデル様の伴侶になるにせよ、近衛で経験を積むという選択肢はあるはずでしょう?」


 とレーナ・フィリス殿下は言う。

 アガット侯爵家との仲にヒビを入れるつもりはないという意思表示だった。


「たしかに経験を積むという選択肢はありですね」


 アデルはおそらく素直に認められないだろうから、かわりに俺が答える。

 案の定、彼女は一瞬だけ不満そうにこっちを見た。


 目の前に殿下がいなかったら、きっと口をとがらせて抗議してきただろうな。


「そうでしょう? あなたほどの逸材なのだから、ぜひいろんな経験を積んでほしいのよ」


 レーナ・フィリス殿下がわが意を得たりと、花が咲き誇るような笑顔になった。


「ちょっとユーグ……」

 

 アデルがすこし不安そうな声を出す。

 甘えん坊で寂しがりやなところがあると知っているので、


「アデルが殿下にお仕えして、俺が近衛になるという道だってあるんじゃないかな?」


 と言ってみる。


 侯爵令嬢なんだから殿下に仕えるのに必要な、家格も教養もばっちり満たしているじゃないか。


「なるほど、名案ね!」


 アデルはたちまち目を輝かす。

 俺の思い付きに近い提案は、彼女にとって希望の光になったようだ。


「もちろん殿下のお許しが得たらの話ですけど」


 と俺は急いでつけ加える。

 当たり前だけど雇う側がいらないと言ったら実現しない。


 陛下がどう判断するかわからないので、殿下の反応だけを考える。


「アデル様と一緒に過ごすのは楽しそうね。ただ、わたしの護衛なら足りてるわよ?」


 とレーナ・フィリス殿下は微笑みながら、はっきりと言った。


 学友としてはシリル嬢ともうひとり、他にも王女なら近衛騎士がついたりするんだろうな。


「そうですね。家柄を除けばユーグほどの価値がわたしにあるとは思えないので、難しいでしょうね」


 アデルは冷静に自分を客観的に見た意見を言う。

 そこまでは言ってないと思えたけど、殿下はあえて訂正する気はないらしい。


「冷静な自己分析、お見事です」


 とシリルが後ろから口をはさむ。

 彼女が会話に入ったのは俺が知っているかぎりじゃ初めてだ。


「シリル」


 殿下がたしなめる。


「失礼しました」


 シリルは悪びれた様子を見せなかったものの、一礼して出過ぎた真似を詫びた。

 侯爵令嬢同士、何か思うことでもあったんだろうか。


「いずれにせよアガット侯の意見を聞いてみないと正式にお答えできませんが」


 俺は強引に微妙になった空気をかえようと言った。


「大丈夫よ。あくまでもわたしの思いつきで、父上はご存じじゃないから」


 殿下がにこりと笑う。

 殿下のたわむれで正式なオファーじゃなかったということか。


 心臓に悪いんだけどなあ。

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