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言い方をかえて伝えよう

「シリル?」


 と殿下が呼び掛ける。


「はい。一対一で瞬殺。それを見た者たちが、デュノ様のことをあしざまに罵り、正義の掣肘を加えようとして返り討ち。以上にございます」


 シリルはにこやかに報告した。


「想定通りすぎてあきれるわ」


「父も懸念していました」


 ため息をついた王女殿下に、アデルがさらっと言う。

 たしかにお屋形様もちらっと言っていた記憶がある。


 そこで殿下の視線がこっちに飛んできた。


「デュノ殿には期待しているわ。よどみを吹き飛ばす風になってくれることを」


「恐れ入ります」


 王家があっさり俺とアデルの婚約を承認したのは、そんな狙いがあったからなんだな。

 

 不思議に思っていたけど納得できた。


「じゃあ座ってちょうだい」


 殿下の許可が出たので俺はアデルの隣に腰を下ろす。

 椅子をひいてくれたのはユーリだった。


「ふたり並ぶと絵になるわね」


 と殿下が言う。


「ふふふ、でしょう? ユーグはすてきなんです」


「ごちそうさま」


 アデルは俺を称賛するが、他の人にはノロケにしか聞こえないだろう。

 殿下の反応はもっともなものだ。


「ノロケはほどほどにな」


 と小声で婚約者候補殿に言う。

 本人はその気になってるけど、厳密に言えば俺たちはまだ正式な婚約者じゃない。

 

 何かがあれば取り消しになるし、アデルの経歴に傷がつくこともない。

 安心するにはあまりにも早すぎる。


「ユーグは照れ屋さんだものね」


 アデルはそう言って微笑む。

 わかっていないのか、気づいているけど無視しているのか。


 彼女のことを思えばたぶん後者だが、やいやい言う権利は俺にない。


「せっかくだからふたりのなれのそめを教えてもらおうかしら」


 と殿下はからかうような口調で言う。

 てっきりさっきまでのお茶会ですでに聞かれたと思っていたんだが、違っていたのか。

 

「なれのそめと言えば、彼が父に連れてこられた日が最初ですね」


 アデルがうれしそうに話し出したので、彼女に任せることにしてお茶を飲もう。

 メイドさんが淹れてくれたものはメチャクチャ美味しかった。


 茶葉もさることながら、淹れた人の知識とテクニックのおかげだろう。

 正直なところ茶葉以外は侯爵家、負けていそうだ。


 相手が王家だと考えれば当然だろう。


 ちなみにアデルは魔族にさらわれそうになったところを俺に助けられた、と殿下に話した。


 これは侯爵家の重要な秘密である。


 やっぱり令嬢が魔族にさらわれたというのは、複数の意味でイメージにかかわるとお屋形様は判断したのだ。


「魔族、戦ったことがある人は知っているけど、同い年というのは初めてね」


 と殿下はこっちを見ながら言う。

 さすがに王女ともなれば魔族と戦闘経験がある人を知っているか。


 ということはいまの時代にも魔族はいるわけか。

 結局あれから三年、魔族が現れた理由や目的はさっぱりわからない。


 あの夢魔はどう見ても計画的に動くタイプじゃなかったと報告したものの、そこから進展はなかった。


 アデルと夢魔のことをぼかすとなると、しっかり計画を練るタイプの黒幕が他にいるのでは? という情報を伝えられないのが問題だな。


 いや、待てよ? 言い方を変えればいいのか。


「陽動を使ってきたわりに、実際に戦った魔族はそんな頭よさそうじゃなかったのが引っかかっていますね」


 と俺は殿下に言う。

 これなら話しても問題にはならないだろう。


 予想通りアデルは何も言わなかった。


「陽動を使う程度の知恵はあった、という考え方もできるのだけど」


 と殿下は答える。

 ダメかと思いかけたところ、


「でもまあ、参考にさせてもらうわね。策謀型の魔族がいるとなると、かなり面倒なことになるから」


 殿下はにこりと笑って受け入れてくれた。

 この様子だと陛下や騎士団にも話が伝わるだろうと安心する。

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