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賢明な立ち回り

「あえて紹介を省くことで格下と誤認させる。殿下が好む手のひとつですね」


 とシリル嬢はにこりと微笑む。

 普通に腹黒だなというのが第一印象だった。

 

 地面に転がっている男子生徒たちが悔しそうにうめく。


 まあ抗議したところで、引っかかるほうが悪いってばっさり切り捨てられそうだしな。


 相手が王女殿下とそれに仕える侯爵令嬢じゃ、抗議するのも抵抗があるだろう。


「てっきり王女殿下のお茶会の準備をしていらっしゃるものかと」


 と疑問を投げてみる。

 

「それは他の者が。殿下はあなたがきっとくだらない目に遭うからと、わたしをこうしてつけたのです」


 そしてことが起こるまで放置していたわけか。

 

「自分を囮にして問題児をあぶり出しましたか。お役に立てたなら幸いです」


 と言って頭を下げておく。

 王女殿下や侯爵令嬢相手だと、利用されたと怒るほうが間違っている。


 忠臣的発言をして恩を売っておくのが賢明な立ち回りというものだ。


「ふふ、殿下のご期待どおり聡明な方ですね」


 シリル嬢は楽しそうに笑う。

 どうやら気に入られたようだ、と彼女の雰囲気から推測する。


「殿下のご期待、ですか?」


 ここはとぼけておこう。


「ふふふ、社交スキルも備えていらっしゃるのですね」


 シリルの笑みが深くなって、何かよくわからないところで評価があがったようだ。


 腹芸とか腹黒さと俺は個人的に呼んでいるが、さすがにこれは貴族社会で一般的な表現じゃない。


「まだ修行中の身ではありますが、お引き立てのほどを」


 へりくだると感心したような瞳が向けられる。


「よくできた方ですね。アガット侯爵の目はさすがと言うべきでしょうか」


 褒められるのはうれしいが、地面に転がってうめいている男たちの近くでのやりとりって考えると、けっこうシュールだよな。


 本人たちは自業自得だから同情するつもりもないが。


「ではあなたもお茶会に参加なさってください」


「よろしいのですか?」


 シリル嬢の言葉に目を丸くする。

 女同士の話だと王女殿下に言われた以上、俺は遠慮するしかない。


 お茶会が終わったので迎えに来いというなら、理解はできたんだが。


「ええ。あれもプラフですよ。この状況を想定した」


 レーナ・フィリス殿下って相当性格悪そうだな。

 それとも頭がよくて計算高いのか。


 シリル嬢の答えを聞いて思う。

 失礼だけど率直な感想を心の中で抱くだけならいいだろう。


「戦略家なのですね、殿下は」


 表面上は感心しておく。


「どうでしょうか」


 シリルは意味ありげに微笑んで、


「どうぞこちらへ」


 と俺を誘導したのでついていく。

 お茶会ってどこでやっているのだろうと思ったが、普通に学園内の食堂だった。


 もっともいまは王女殿下とアデル、メイドさんたちしかいなくて他は空白になっているが。


「ほら、無傷で戻ってきましたわ」


 とアデルは言うと立ち上がって笑顔で俺を迎える。

 レーナ・フィリス殿下だけは立ち上がらなかったが、身分差的に当然だ。


「おかえりなさい。死人は出さなかったわよね?」


「骨折はさせたけどね。五対一になったし」


 加減できないわけじゃなかったが、そこまで優しくする気になれない相手だったんだよなあ。


「いいんじゃない? 別に。それくらい」


 アデルはけっこう過激なところがあるので驚きもせず受け入れる。


「お疲れ様です、ユーグ様」


 ユーリはぺこっと頭を下げた。

 

「無傷で勝ってきて、全員大ケガをさせなかったなら大したものね。相当な力の差がないとできないことだわ」


 レーナ・フィリス殿下は拍手をしてくれたが、褒められたという解釈でいいんだろうか。

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