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ふたりだけの世界

 王立英俊学園に入学試験はなかったが、これはアガット侯爵家の推薦状がものを言ったからだ。


 学園は貴族たちの推薦枠に加えて一般受験枠が別にあるという。


 一般枠に貴族という生き物を認知させ、貴族たちに一般人について触れる機会を与えるというのが狙いらしい。


 お互いの実情を知ればいい関係を築ける未来があるんじゃないかという狙いはわかるんだけど、果たして上手くいっているのだろうか?


 アガット侯爵家のような人たちばかりだと大丈夫だと思うが。


 アデルだけじゃなくて俺もまたこの学園で、国内の実態を学ぶことになるんだろう。


 当然学ぶだけじゃなくて、可愛い婚約者候補様のことも守ろう。

 決意を新たに俺はお屋敷の外に出て、すでにいたアデルたちと合流する。


「早いんだね、アデル」


「ふふふ、あなたを待っているのもデートのうちだと思えば、準備をがんばる気になれたわ」


 驚いて声をかけた俺に対して、アデルは極上の笑みを向けてきた。


「そうか。毎日一緒なんだから、デートとは別と考えてもいいんだよ」


 思わずそう答える。

 何年も暮らしてわかっていることだが、アデルはけっして朝に強くない。


 俺の先回りをするなんて、自分でも言ったようにかなりがんばって起きたのだろう。


「もう、ノエミみたいなことをあなたまで言わなくてもいいじゃない」


 ノエミにも同じ忠告をされたのか、アデルは可愛らしく頬をふくらませてすねる。


「ごめんね。でもそれだけ君のことが大切だからだよ。守りたい一心でついつい言ってしまうんだ」


 そっと彼女に近寄って、甘く聞こえるようにささやく。

 我ながら歯が浮きそうなセリフだと思うが、アデルはこういったことを喜ぶ。

 

 大事なお姫様のためだからと思っていたら、とりあえず出てくるようにはなった。


「それならいいわ。わたしだってあなたのことがとても大切だもの」


 アデルはうれしそうにヒマワリのような笑みになる。

 そしてその瞳は何かを期待するような色を帯びた。


 そこで俺は今日まだやっていないことを思い出す。


「その制服似合っていて可愛いね。チェックスカートも」


 アデルの制服姿、ブレザーとスカートが似合ってると褒める。


「ふふ、ありがとう。今日のダーリンもとてもすてきよ。いつもすてきだけど」


 アデルは微笑み、お返しとばかりに褒めてくれた。


「ありがとう。アデルが可愛いのはいつものことすぎて、ついうっかり言うのを忘れそうになったよ」


 とさらに返すと、彼女の笑顔が満開になる。

 やっぱり彼女ほどの女の子だって褒められるのはうれしいんだなと思う。


 ふたりだけの世界は長くは続かない。


 いままで黙って背景と化していたノエミが、遠慮がちに咳ばらいをして俺たちを現実に引き戻す。


「おふたかた、仲睦まじいときを過ごしていらっしゃるなか大変恐縮ですが、そろそろ出発するお時間が迫っているかと」


「ええ、そうね」


 アデルは残念そうにすこし俺から距離をとる。


 婚約者候補ならこんなべたべたしていていいのかと言うと、別にそんなことはないようだ。


 つまり彼女が情熱的なだけで、一般的な貴族女性はまた別らしい。

 学園に行けば他にも婚約者を持つ生徒はいるだろうから、参考になるだろう。


「行ってくるわね」


「行ってくる」


「行ってきます」


 アデル、俺、ユーリの順でノエミに声をかける。

 ノエミは二十歳になっているので学園には通えない。


 ユーリがつけられたのはそういう事情があるのと、おそらく屋敷で待機する専属メイドを置くのも貴族の格だからだろう。


 地元ほどではないにせよ、それなりの規模がある王都のアガット侯爵邸を管理するには何人もの使用人が必要だ。


 つまりノエミひとりくらいいなくても回るはずなのである。


「ダーリン、同じクラスだといいわね」


 日本のラブコメだとまさかと笑うところなのだろうが、貴族の家の権力や威光が存在する世界なら普通にありえそうだ。

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