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そして王都での暮らしがはじまる

 アデル様の婚約者候補になった俺は、礼儀作法や教養を叩きこまれ、まだ面識がない郎党たちと面会する日々だった。


 前者は本当に侯爵家関係者になるなら必要なことだし、後者は首実検みたいなものだろうと割り切る。


 気づいたら約三年近い歳月が過ぎていた。


「時間がたつのが早すぎるだろ」


 と俺は王都についた時ぼやいた。

 

「どうしたの、ダーリン?」


 同じ馬車に乗っていたアデルが不思議そうに聞いてきたが、答えずに手を差し出して降りるのを助ける。


「ありがとう、ダーリン」


 天使のような美少女という表現にふさわしく成長したアデルは、にこりと微笑んで俺の手をとった。


 彼女をエスコートするのにも多少は慣れたように思う。

 もっとも、ノエミさんに咳ばらいされることもあるのでまだまだ慢心はできない。


 そのノエミさんも当然という顔で降りてくるし、他にもひとりアデルと同年代の女子ユーリが続いて降りてくる。


 本来は紳士としてふたりのエスコートをしたほうがいいのだろう。


 だが、俺はアデルの婚約者候補という立場なので、彼女に仕える女性に対して彼女と同じあつかいはできない。


 アデルの格を下げる行為になってしまうから、けっしてやってはいけないのだ。

 本人たちも気にしてなさそうだ。


「ノエミ、案内をお願いね」


「御意」


 アデルの指示でノエミが俺たちを逗留先に連れていく。

 と言っても行き先は侯爵家が王都に持っている屋敷だった。


 他の人間に先導させるのが貴族としての格になるらしい。

 いちいち面倒くさい生き物だよねと思うときは正直ある。


「さあ、ダーリン、行きましょう」


 アデルは俺にくっついてきて、バニラのように甘い香りが鼻をくすぐる。

 貧乏騎士出身の男爵、それも侯爵家任命だとまだまだ彼女に不釣り合いだ。


 あまりべたべたするのは好ましくないと言ったんだけど、結局説得はできなかった。


 きらわれるよりはよっぽどいいと思うし、世界最強を目指すなら気にしないほうがいい気もする。


「俺は王都初めてなんだよな」


 貧乏騎士に生まれ故郷から離れるだけの経費を捻出できるはずがなく、侯爵家に雇われてからも領地の外を出ていない。


「わたしだって実は来たことないのよ」


 とアデルが笑う。


「そうなのか? アデルなら社交パーティーに呼ばれるんじゃないか?」


 不思議に思ったので聞く。


「地元では呼ぶ側なのよね。ずっと」


 彼女に言われてなるほどなぁと思う。


 地方では侯爵家は間違いなくトップであり、周辺の貴族のリーダーだったり保護者的存在だったりする。


 だからこそ「もてなす」側になるわけだ。

 それでも一回や二回くらいは招かれるんじゃないかと思っていたんだけどな。


「王都のパーティーに関しては今年デビューよ。地方に基盤を持つ家の子はみんなそうなの」


 アデルは微笑みながら教えてくれる。


「ということは他の大貴族や王家のみなさまとは初対面なんだ」


「ええ。同い年の王女殿下がいらっしゃるみたいだから、ちょっと楽しみね」

 

 なんて彼女は言う。

 同い年に王女様がいるのかあ……まあ彼女なら上手く立ち回れるだろう。


 アデルは頭がいいし気がつくほうだし、王家に敬意を持っているし。


 王女様だってアガット侯爵家のご令嬢と角を突き合わせる理由なんて、あるはずもないんだから。


「アデルが王女殿下と仲良くなる際、君に恥をかかせないようにするのが俺の義務かな」


 責任とも言うだろうか。


 アデルの婚約者候補に元貧乏騎士の子がおさまったというのは、とっくに国内の貴族社会には広まってるはずだからね。


「そんなに気負わなくて平気よ、ダーリン。わたし以外の乙女の心を射止めなくていいんだからね?」


 冗談なのか本気なのか、判別しづらい表情で彼女はウィンクした。

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