やりようはある
「モンスターの数は……500!?」
探知係の兵士が改めてチェックして、驚愕の叫びをあげる。
「危なくなったら逃げていい。大事なのは数を減らすことと、時間を稼ぐことだ。そのうち他の郎党が駆けつける」
とボネが俺に言った。
他の郎党が救援に来るのは、来れる余裕があったらの話だろう。
ボネが急いで戻ろうとしているあたり、お屋敷のほうでも何かあった可能性が高い気がする。
「わかっています。無理はしませんよ」
使える魔法の回数はあと四十回ほどだろうか。
数時間ほど休めればある程度は回復する。
モンスターの大群を倒したあと休ませてもらわなきゃ。
「任せたぞ」
と言ってボネたちは去っていく。
残ったのはファシュともうひとり、探知係の人だった。
「ファシュ?」
びっくりして彼を見ると、柔らかい微笑が返ってくる。
「防御役は必要だろう?」
「それはそうだけど」
彼に気負いはなかった。
「心配はいらないよ。いつかこういう日が来るって覚悟していたから」
「同感だな。それに探知役も必要だろ?」
彼に続いて探知役の人が言った。
「あいさつはまだだったと思うが、いまは他にやらなきゃいけないことがある。500ものモンスターを放置できない」
青髪を短く切った彼はそう言うと、左斜め前を指さす。
「モンスターの集団がいるのはあっちの方角だ。いまからなら充分追いつける」
と言うので俺は首をかしげる。
「それって変じゃないですか? 森林の外に逃げ出しているのに、移動速度は遅いんですか?」
逃げるなら普通ダッシュだろう?
「そこなんだよな」
青髪の彼は腕組みをし、ファシュも顔をしかめる。
「何か変だよね……何がどうとは言えないんだけど」
みんな同じような感じか。
逃げ出しているというわりには必死な感じはあまりない。
どちらかと言うと別の場所へ大移動しているようにも見える。
これはいったい何を意味するんだろう。
先入観を持たないほうがいいんだろうけど。
「とりあえず敵を倒してから考えましょうか」
「500ものモンスターとこれから戦うのに頼もしいね」
とファシュが言う。
「敵の詳細をまだ教えてもらってないってことは、もしかして数が多いだけでオーガのような強敵はいないのかなと思いまして」
予想していたことを口にする。
強敵がいるなら注意喚起をうながすため、名前を言っていただろう。
何ならボネにもっと戦力を残すように提案したかもしれない。
「いい勘をしているね。その通りだよ」
と探知係の人は言う。
「僕の魔法が正確なら、この先にいるのはコボルトが100、オークが200、スクワールが200だろうね」
どれも数がとりえの弱小モンスターだった。
「一体一体は弱いと言ってもこの数は脅威だな」
ファシュが緊張で顔をこわばらせる。
「まあ何とかなるでしょう」
俺はあっけらかんと言った。
「余裕だけど、何かいいプランでもあるのかい?」
当然の問いをファシュはしてくる。
「ええ、まあ」
魔法に対する抵抗力が高いとか、オーガみたいに単純にタフなモンスターがいないなら、あのやり方で何とかできるだろう。
「追いついた」
と探知係が言うと、前方にはスクワールの大群が歩いていた。
「やっぱり逃げているというより、移動してるだけって感じですね」
「うん。とは言えあれだけの数となると普通に脅威だ。戦えない人たちにとってはなおさらね」
俺の感想に同意しながらも、戦う理由をファシュが告げる。
「ええ」
戦えない人たちはコボルトやオークに蹂躙されるだろう。
殺され、家を破壊され、農作物を食いつくされる。
そんな光景は見たくない以上、戦って止めるしかない。




