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違和感への対応

 三日ほどの日程で何も起こらず、俺たちは領都を出て南方の森林へと来ていた。


「やっぱり森林なんですね」


 と俺は地面に座って休憩しながらファシュに言う。


 森林は魔力が集まりやすい性質があり、それがモンスターたちが発生しやすい要因となる。


 そんな説は前世でも提唱されていて、森林でモンスターを間引くのは大事だとされていた。


「まあね。森林を完全に切り拓くと魔王が出現するって伝承があるから、うかつに開拓はできないし」


 ファシュはすこし残念そうに言う。

 そんな伝承があるのは初耳だな。


 たしかに森から魔王が出現したという話を聞いたことはあるが、開拓と関係があったのか?


「森林を開拓できればいろいろとはかどるのでしょうか」


 と俺はたずねてみる。

 単に開拓すればいいってものじゃないって前世では言われてたんだよな。


 その森にしかはえない樹木、草花、生息していない動物の存在を考慮するべき、という考えだったはず。


「はかどるけどね。貴重な動植物が存在しているなら、そのままにしておいたほうがよいというのが、お屋形様のお考えなんだよね」


 とファシュは答えた。

 その考えには共感できるのですこし安心する。


 やっぱり雇い主の考え方が近いほうが仕えやすいもんな。


「個人的には俺も同意見なんですけど」


 希少な動植物ってあっさり滅んだりするし、そのあと回復できるかすらわからない。


 生態系に影響が出ない範囲で活用するくらいでちょうどいいと思う。

 

「はは、僕もだよ」


 俺の遠慮が伝わったのか、安心させようとする笑みでファシュが応じる。


「何か変だ」


 森林の近くで見張りをしていたふたり組が、けわしい顔をして戻ってきた。


「何かってなんだ?」


 ボネは立ち上がって鋭く問いかける。


「いつもなら森林の境目あたりはもっとのんびりした空気なのに、今日はやたらと殺気立った気配を感じる」


「中で何かが起こっているかもしれないぞ」


 ふたりはかわるがわる言って、ボネにたずねた。


「どうするよ、班長?」


「まずはお屋敷の軍官殿に一報を入れる」


 ボネは即座に決断し、懐からペンダントのような通信アイテムを取り出す。


 高額な品物だけにアガット侯爵家郎党といえど、班長や郎党の主要メンバーくらいしか支給されていない。


 ボネが連絡を終えると俺たち一同を見回す。


「俺たちはこれから森林の調査をおこなう。あくまでも調査で、情報を持ち帰ることが役目だ。そのつもりでいろ」


 情報を伝えられないのが最悪な展開だから、無理はするなってことか。

 

「班長だけは生き残らなきゃですね」


 とひとりが冗談っぽく言う。

 一気に緊迫感が増した場をなごませようとしたのだろう。


「バカを言うな。戦力は多いほどいい。情報収集が優先だが、戦力を減らさないことも大事だ」


「情報収集と戦力維持と、どっちが大事なんですか?」


 気になったので右手をあげて問いかける。


「戦力の維持だ」


 ボネは視線をこっちに合わせながら即答した。


「必要な戦力が揃っていれば何事も乗り切れる。ゆえに戦力の損耗に注意せよ、情報の入手が困難なら無理はするな。それが俺たちに出た指令だ」


「了解」


 全員が同時に唱和する。

 なるほど、お屋形様は郎党の戦力に自信があるんだろうな。


 それに「戦力を失っていなければ解決できた」という展開を避けたいのも理解はできる。


 というか「何かがおかしい」レベルで指示がちゃんと出ることに驚きだ。

 前世の職場ってもしかしてハズレの部類だったんだろうか……?


 ちょっとした疑問が浮かんだがすぐに気持ちを切り替える。


「ではいつもの陣形になって、森の中に入るぞ」


 とボネが言ったので、それに従って俺たちは動き出す。


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