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いやみに聞こえることがあるらしい

「モンスターとの戦闘経験はほぼないので、お役に立てるかわからないのですが」


 と最初に申告しておく。

 

 勝手に期待値が高まった状況だと、失敗してなくても微妙な空気になるという地獄の展開に進みかねない。


 大したことないですよ、あまり期待できませんよと言っておくのは、その期待値を下げる働きがある。


「誰でも未経験からはじまるからね。すぐに慣れると思うよ」


 ファシュが優しく答えてくれた。

 正直、あんまり期待値を下げられなかった気がする。


 未経験者にも寛容なのはすばらしいことだから、不満もないけど。


「そうだぞ。お前はもう俺たちの仲間なんだ。遠慮なく相談してくれよな」


 ありがとう、名も知らない先輩。

 和気あいあいとしているのは正直意外だった。


 モンスターとの戦いにおもむくのでもっと殺気立ってるか、そうでなくても緊張感に満ちていると思っていた。


「なんだか意外そうだね」


「もうすこし緊張感を持ったり、使命感に燃えてる人が多いかと思いました」


 表情をファシュに読まれてしまい、隠せないと思ったので正直に言う。


「ああ」


 ファシュはくすっと笑った。


「領地を守る責任感はもちろんあるんだけど、敵がいないところで緊張していたらもたないからね。メリハリをつけるのが大事なんだよ」


「なるほど」


 その辺の感覚は俺はまだまだ甘いということかもしれないな。


「最初はみんなユーグくらい意気込むものだよ。だから気にしないで」


 とファシュは優しく言ってくれる。

 なんだか誤解されたような……いや、あながち間違いでもないのか。


「空回りにしないように気をつけます」


 とりあえず深呼吸をして、体から無駄な力を抜こう。


「うん、ユーグは呑み込みが早いね」


 ファシュに感心されるが、前世の記憶持ちだからだろうな。

 もちろん万能じゃないといまさっきわかったばかりだ。


 俺は平凡な人生しか経験していない。


 大貴族の郎党、それも期待の逸材という立ち位置だと何がどうなるのかわからないのだ。


 慢心しないよう、気を引き締めていこう。


「それでは出発するぞ。隊列を組め」


 とボネに言われる。

 もちろん組み方を知らないのでファシュに目をやった。


「前方にアタッカーと索敵役と防御役、中に回復役と索敵役、後衛にアタッカーと防御役という布陣がとられやすいよ」


 彼は微笑みながら言う。


「つまり俺とあなたでアタッカーと防御役ということでいいですか?」


「その通りさ」


 そういう狙いもあるんじゃないかと思ったが、予想は当たっていたらしく、ファシュはうなずく。


「ユーグはファシュと一緒に後列を頼む」


 後列って難しい気がするんだが、違うんだろうか?

 だって背後から襲撃されたらどうするんだ?


「後列って初心者向けの位置なんですか?」


 と隣にいるファシュに聞いてみる。


「君の疑問は正しいよ。背後から襲われたときの対応は難しいので、本来は初心者向きじゃないよね」

 

 よく気づいたとにこやかに言われた。


「君はそれだけ評価されているってことと、いまは八人チームだからね。対処はしやすいって判断だろうね」


 つまり新人に難しい後列を任せられる余裕があるってことか。


 この班の戦力が優れているのか、それとも領内のモンスターがあんまり強くないのか。


 まあモンスターが強いところに大貴族が領都を置くわけがないよね。


「みなさんを頼りにします」


「はは、ユーグは謙虚だね。でもちょっといやみだよ」


 ファシュに苦笑されてしまう。


 先輩たちを立てる意味があったのは事実だけど、敵を探知する魔法を使えない以上、頼りにするのは本当なのに。


「え、俺、探知は苦手なんですけど」


「はは、冗談だよ」


 心外だとひかえめに抗議したらにこやかに受け流される。

 この人のほうが一枚上手かも。


 対人スキルってやつは単に前世の知識や経験だけで埋まるもんじゃないのかな。

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