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スケジュール(予定)

 食事が終わってアデル様の部屋の前に行くと、軽鎧を着た若い女性がふたり立っている。


 顔立ちがそっくりなのは双子か、姉妹だからだろう。

 護衛なのはひと目でわかった。


「あのう、アデル様に呼ばれて来たのですが」


 と話しかけると、彼女たちはうなずく。


「ユーグ殿ですね。話は聞いています、どうぞ中へ」


 そしてドアが開けられる。


 案内された部屋はピンクを基調とした可愛らしい内装で、机と椅子、それに多くの本棚が印象的だ。


 寝室はおそらく右手側の室内ドアの向こうだろう。


 年頃の貴族令嬢の寝室に男が入るのは大変よくないので、このような構造になっていることにむしろ安心する。


「来たわね」


 アデル様は大きな窓を背にして椅子に座ったまま微笑む。

 彼女の右にはノエミさんがひかえている。


「ノエミ、任せるわ」


 とアデル様が言うがこれは想定通りだ。

 貴人が自分で説明することはあまりない。


「ええ。ユーグ殿は原則として日中の護衛をお願いしようと思います。やはり男性ですからね」


 同性なら寝室や浴室でも護衛するんだろうけど、異性だから外されるのが当たり前だ。


「それと軍官殿からの指示で、時々他の武官と一緒にモンスターの間引きなどをおこなうように、とのことです。モンスターと戦う経験を積む目的でしょう」


「わかりました」


 前世での記憶がどこまで活かせるかわからないもんな。

 できれば経験を積んでおきたい。


「ほんとはわたしの手元に置いておきたいのに」


 アデル様は頬杖をつきながら不満と一緒にため息をこぼす。


「ユーグ殿ほどの逸材、アデル様といえど独占は無理ですよ。アガット侯爵家全体のために活躍していただかなければ」


 とノエミが言う。

 うれしい評価だし、アデル様だって本当はわかっているのだろう。

 

 不満そうな顔をやめなかったものの、それ以上は言わなかった。


「あと、慣れてきたら夜番もお願いすることになるかと思います」

 

 ノエミさんが話を戻す。


「夜番って、どこにいればいいんですか?」


 男同士ならベッドの横に待機するとか、ドアの前で問題ないだろう。

 だが、令嬢相手に俺が同じことはできない。


「この部屋で他の者と待機していただくことになるでしょう。もちろん、寝室には他の者が詰めていますよ」


 ノエミさんの説明に納得する。

 寝室が直接襲われた場合、この部屋からだと駆けつけるのが数秒遅れてしまう。


 敵によってはその数秒差が決定的な差になるリスクがあるし、その数秒を稼げる護衛が配置されると考えれば理解できる。


「何か質問はありますか?」


 とノエミが問いかけた。


「モンスターとの戦い、どれくらいの頻度で参加する予定になるのでしょうか?」


 聞いておきたいのはこの点だった。


「おそらく週に一度か二度くらいでしょう。あくまでもあなたの本分はアデル様の護衛です」


 とノエミさんは答える。


「わかりました」


 他の仕事は俺に経験を積ませるのが狙いってことか。

 理解できたと思ったので大きくうなずく。


「じゃあさっそく、何かしてもらおうかしら。面白い話をしてよ」


 とアデル様がにんまりと、貴族令嬢らしからぬ笑みを浮かべる。


「アデル様、習い事のお時間です」


「そんなぁ!?」


 淡々とノエミさんが言うと、アデル様は一転して情けない表情になった。

 どうやら力関係的にはノエミさんのほうが強いらしい。


 ご令嬢とメイドと言っても、ノエミさんだっていいところのご令嬢だろうしな。

 どちらかと言えば姉妹のようにも見える。


「ユーグ殿、習い事の間もアデル様の護衛をよろしくお願いしますね」


 アデル様の反応を無視し、ノエミさんは俺に頼んできた。


「あ、はい」


「ちょっと、ユーグはわたしの護衛でしょう? わたしの味方をしてよ!」


 反射的にうなずいた俺に対して、アデル様が心外そうに抗議してくる。


「僕は護衛にすぎない身ですから」

 

 アデル様が習い事をするかどうかなんて、口を挟んじゃいけない。


「薄情者ぉ……」


 恨めしそうな声を残し、彼女はノエミさんに連れられて部屋を出ていく。

 護衛だからついていかなきゃか。

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