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侯爵家はホワイトな職場

 郎党の宿舎で寝泊まりした翌朝、一階の食堂でご飯を食べる。


 たまたまファシュがいたので話せる位置に腰を下ろし、彼のトレーに乗っているものを見てびっくりした。


「白パンなんて初めて見ましたよ」


 正確には前世でもあったけど、貴族の食べ物というイメージが強い。


 デュノ家では一回も出たことがないし、父さんだって俺の前じゃ食べたことがなかった。


 いわば高級品である。


「侯爵家では郎党でも白パンと肉が食べられるんだよ。一日三食出してもらえるし、すごくいいよね」


 ファシュの笑顔の発言に心から賛同した。

 一日三食つきって時点ですごいのに、白パンや肉も出るなんて。


 寝室もひとり部屋でベッドもよかったし、ここが天国ってやつか。


「自分で取りに行けばいいのかな?」


「うん、あっちのコーナーに行けば出してもらえるよ」


 ファシュが指さした方角には、中年の男女が忙しそうに動き回っている。


「ありがとう」


 教えてもらった礼を言って男性のところに寄って行くと、向こうから声がかかった。


「新入りのユーグだね」


 ひと目で言い当てられ、パンとスープ、肉、果物が乗った皿を渡される。


「あいてる席で食べな。食べ終わったら食器は持ってくるんだよ」


 と説明された。


「はい」


 空いてる席はけっこう多いけど、ファシュの前があいてるのでそこにしよう。


「果物もついてるって、すごいですね」


 果物もデュノ家じゃなかなか手に入らないものだ。


「果物のほうは単純に領都の近くに産地があるからだと思う。まあ、遠くても調達されるだろうけど」


 へえ、侯爵領産の果物だったのか。

 それを言ったら肉とかもそうかもしれないな。


 アガット侯爵家くらい領土が広いなら、動物が生息している地域くらいあるだろうし。


「これで二〇万ゼンの俸給も出るんですね」


 すごすぎだろと何度でも感心してしまう。


「大きな声じゃ言えないけど、王国軍正規兵より待遇はいいみたいだよ」


 とファシュが小声で言った。


「そうなんですね」


 驚いて見せたものの、内心じゃそうだろうなとしか思えない。


 前世だったら食事は出るけどお粗末だったし、俸給も今の時代になおせば十二万ゼンくらいだったからね。


「そう言えばユーグって、どこの配属になったの?」


「まだ何も聞いてないですね」


 と質問に答える。

 

「えっ?」


 ファシュは怪訝そうに首をかしげた。


「採用された日に配属が決まって伝わると思うんだけど……」


 普通はそうなのか。


 即日採用が決まるスピード組織なら、配属先もすぐに決まる仕組みになっていてもそんなに変じゃない、のか?


「食べてから考えるよ。配属先を聞きに行ってもいいし」


 聞くとしたら軍官殿だろうな。


「そうだね、そうするといいよ」


 ファシュもうなずいたところで、腹の虫が大きく鳴る。

 

「食べざかりだもんね」


 微笑ましい目で見られた俺ことユーグは十二歳だ。

 身体的欲求はどうしようもないので、首を縦にふってさっそく肉から行く。


「これは何の肉?」


 あいにくと食べただけでわかるほど、俺の舌は肥えていないのだ。


「鹿肉のはずだけど」

 

 なぜか回答は正面のファシュじゃなくて、背後から聞こえた。


「アデル様!?」


 ファシュは目をむいて、あわてて立ち上がったし俺も続く。

 貴族が立っているのにその郎党が座ってるなんて、ありえないことだ。


「ごきげんよう、ユーグ。あなたはわたし付きの護衛として、いろいろとやってもらうことになったわ」


 とアデル様が言う。


 貴族令嬢が郎党へのメッセンジャーをやるなんて、前世でも今の時代でもありえない。


 おそらく本来のメッセンジャーから彼女が仕事を奪ったのだろう。


「まずはわたしの護衛たちと一緒に行動して、いろいろと学ぶのよ」


「わ、わかりました」


 困惑しながらも引き受ける。

 断るという選択肢なんてあるはずがないからな。

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