座学と税の話
「俺の勝手な予想だと断ったはずだぜ」
ボネはまた苦笑したあと、
「俺ら郎党の中で最強なのは軍官殿なんだ。あと三年くらいでお前さんが抜いている可能性は高そうけどな」
とつけ加える。
俺の評価が高いのはもう驚かないけど、この人よりも軍官のほうが強いのは実のところ意外だった。
「俺とお前さんと軍官殿で、アガット侯爵家三本槍ができそうだな」
ボネは楽しそうに言う。
「そうなれるように頑張ります」
当たり障りのない返事をすると、
「ああ。軍官殿になるなら強いだけじゃダメだ。座学もできないとな」
とボネはいたずらっぽくつけ加える。
座学に触れたのはこれが言いたかったからかな、と思うような表情だった。
座学をやっている班がいること自体は本当だろうけど。
「屋内のどこなんですか?」
「時間があいてるから案内しよう。紹介する人間もいたほうがやりやすいだろう」
俺が質問するとボネは笑って答えた。
「お心遣いありがとうございます」
豪快な人柄なようでいて気配りもできるんだと感心する。
そうだよな、単に強いだけじゃ限界があるよな。
アガット侯爵家は豊かで財力があるからか、いい人材を抱えているようだ。
案内されたのは宿舎の二階の一区画で、中には七人の男性がいる。
「おや、ボネ、どうしたんだ?」
と話しかけてきたのは七人の中央に位置した男性で、年齢はボネと同じくらいだろう。
「このユーグを参加させてやりたいと思ってね。途中からだけど、かまわないだろう?」
「そりゃな。やる気ある奴はいつでも歓迎だ」
男性はにこりと笑う。
「それにユーグほどの猛者なら、余計に座学はやってほしいしね」
まあ補給とか理解せず暴れまわられると、他の人間が苦労するもんな。
前世では苦労させられる側だったから、彼が言いたいことは何となくわかる。
「よろしくお願いします」
頭を下げるとおだやかな笑顔で迎え入れられた。
「ちょうど新しく話をするところだったんだ。悪いけど、君ひとりのために最初から話をやり直すことはできない。疑問点はあとで個別に聞いてくれ」
という言葉にもっともだとうなずく。
「じゃあ任せたぞ」
ボネが去ったところで話がはじまる。
「今からはじめるのは税制のことなんだ」
と男性は切り出した。
「現状、王国の税制度では『戸』が採用されている」
これはすでに知っている。
一戸あたりの人頭税収入は約四〇〇万ゼンだ。
土地持ち貴族はこれ以外に塩税や商税をかけて徴収する権限がある。
アガット侯爵家は交通の要衝にあるから強い。
ちなみにわがデュノ家が持っているのは二戸で、年収は八〇〇万ゼン。
入ってくる額だけ見ればよさそうなものだけど、騎士の家は出ていくものも多いので貧乏なのだ。
まあデュノ家は俺という扶養家族がひとり減ったので多少は楽になれるか?
「参考までにアガット侯爵家の領土は約五万戸だ」
五万戸だから、推定税収はなんと二〇〇〇億ゼン。
人頭税以外の税収もあるし、侯爵家としての事業もやっているから、実際の収入はもっと上だという。
具体的にどんな事業をやっているのかは、さすがに末端の武官は教えてもらえないようだ。
侯爵家ってこうして考えればやっぱりやばいな。
侯爵家の中で栄達を目指すってのは一つの選択肢としてありだと思う。
そのためにはいろいろとやることがある。
「税の計算方法も教えておこう」
と言われて改めて確認した。
基本は前世と大きく変わってはいないけど、細かい部分で差異があるな。
人頭税は一割を王家に納税する義務があるらしい。
この点は前世と違っているし、人頭税以外は王家に納める義務がないって部分も知らないことだ。




