神童ユーグ
「な、何だ今の動きは!?」
「付与魔法を二度も発動させただと!?」
「敵と接触する瞬間に切り替えることができるなんて」
「しかもどっちも上級魔法だろう!?」
見ている郎党たちからは驚愕の声が次々にあがっている。
ふり返らなくても強烈すぎるインパクトを与えられたのは確実だ。
あとは誰かが止めに入るまで、戦うだけだが。
なんて考えているうちにボネは立て直し、打撃をくり出してくる。
属性を切り替えないということは、水に有利な土の付与魔法は使えないのか。
出力に差がないなら相性の差が大きく影響する。
有利をつけば二割か三割くらい威力が変わると、前世で学んだものだ。
つまりボネの攻撃威力は軽減され、俺の攻撃威力は増幅される。
三割くらいなら大人と子どもの身体能力差でひっくり返されるんじゃないかと思ったが、それはないようだ。
ボネの攻撃は対応できる速さだし、威力も弱くはないけどすごくもない。
ささやきと息吹、この時代だと俺が思っていた以上に大きな差があるんだな。
また考察材料が増えてしまった感が強い。
殴り合いが進んで一進一退の攻防になった。
ボネの打撃は速くて重いけど、前世で戦士たちの動きを見ていた俺なら何とかついていける。
息吹と祝福の差も大きいのだろう。
政治的な事情を考えるなら、ここで相手を倒さずに引き分けに持ち込むのも一つの手である。
だが、さんざんみんなを驚かせることをやったのに、引き分けで終わったら疑問を持たれないだろうか。
花を持たせたことを生意気に思われたり、屈辱に思われたりしないだろうか。
そう迷いながら戦っていると、俺の左拳がボネの顎をとらえて吹き飛ばす。
「あ……」
勢いよく飛んでいったのを見ると、前回のは衝撃を受け流してたけど、今回はそれができなかったのかな?
手ごたえ的にわざと自分から後ろに飛んだってこともなさそうだ。
「そこまで!」
アガット侯爵様の大きな声が響く。
何人かがボネのほうへ駆け寄っていくが、彼はふらつきながらも立ち上がる。
やっぱり成人男性と子どもの筋力の差はあるんだろうな。
それが今回の場合、いい方向に働いたと思うけど。
「すごいじゃない!」
アデル様が興奮して駆け寄ってきて、俺の両肩をつかむ。
「ボネはね、王都の大会で優勝した経験もあるのよ! 王国で間違いなく上位の強さなのよ!!」
「え、本当ですか?」
思わず俺は彼女の天使のように整った顔を見てしまう。
王都で大会があることは驚きじゃない。
民衆の娯楽の一環として人気イベントの一つだったのは、前世と同じだからだ。
むしろ時間たってるはずなのに、他の娯楽が発達してないほうが変っていうか。
「そのボネに十二歳にして勝てるおまえは、神童というやつだな」
歩いてくるアガット侯爵様は、機嫌よさそうに見える。
だが、貴族は顔と内面の感情が別物というのは珍しくない。
むしろそれができてこそ貴族として一人前という身分のはずだ。
「デュノの言葉にいつわりがないことは判明した。それどころか、過小評価だったようだな」
「お、恐れ入ります。私には息子がこれほどの才能だとは見抜けませんでした」
アガット侯爵様の言葉に、父さんは冷や汗をかいている。
まあボネ相手にやったことと同じことをしたら、父さんにケガさせちゃっただろうからね。
「仕方あるまい。これほどの才能、容易には気づけまい」
とアガット侯爵様は言って、視線を俺に向ける。
「ユーグだったな。おまえの父と私の娘はおまえが私の郎党になることを望んでいるが、おまえはどうする?」
ここで俺自身の意思を聞いてくれるあたり、悪い人じゃない。
許されるかどうかわからないけど、自分の考えを伝えてみよう。
「ありがたいお言葉なのですが、僕は学園に通ってもっといろいろなことを学んでみたいのです。郎党に加えていただくと、難しいのではないでしょうか?」
と問いかける。