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判断に困る

 まあ如才なく立ち回ったところで、今後もお相手させられるだけだと思うと、正直適当でもいいかなという気がする。


 一対一ならともかく今はメイドさんもいる。


 アデル様の無茶ぶりに応えられなかっただけなら、侯爵様の不興を買わないだろう、たぶん。


 と思って俺は実家のことを話してみる。


 貧乏騎士がどんな暮らしをしているかなんて、おそらくアデル様は知らないだろうから新鮮に聞こえるはずだ。


 隣で聞いているメイドさんが微妙な顔をしているのは、侯爵令嬢に聞かせることじゃないと思っているからだろう。


 それでもアデル様自身がいやがらないかぎりはさえぎられない。

 そのアデル様は、


「へえ、騎士の暮らしってそうなのね。デュノ家はお父様の郎党じゃないから、直接支援するのは難しいわね。あ、だから屋敷に呼んでお仕事を頼んでるのかしら」


 意外なことに真剣に聞いてくれたし、聡明そうな発言もする。


 そうか、父さんが呼ばれているのは、同じ派閥の寄り子に仕事を与えるという理由があるからか。


 貴族社会にうとい俺じゃそこまで気づいてなかった。


 もしかしたら上下関係が厳しかったりするのは、単なる序列の問題だけじゃないのかもしれない。


「そこまで考えてませんでした。アデル様はすごいですね」


 同じ年なのに、俺は前世の知識と経験があるのに、アデル様との差を感じる。

 それと同時に感心もした。

 

 生まれによる差だってあるんだろうが、けっしてそれだけじゃない。


「ふふん。上に立つものはそれなりの見識が必要だと、お父様とお母様、それにお兄様たちもおっしゃっているもの」


 アデル様は得意そうに胸を張る。

 どうだと言わんばかりの表情はかわいいし、年齢のわりにけっこう大きい。


「お見事です」


 と言うと、とたんに彼女の表情が冷たくなる。


「くだらないお世辞はいらないわ」


 サファイアの瞳にはっきりとした失望が宿っていた。

 好かれる必要はないと思ってはいたけど、あまりきらわれるのもこわいんだよな。


「ごめんなさい」


 とりあえず謝るが、彼女の機嫌はすぐになおりそうにない。

 

「何か埋め合わせをしてくれるなら、考えてもいいわよ」


 とアデル様は言う。

 これは彼女なりの妥協、もしくは救済の一手だろう。


 ここで癇癪を起さなかったのは、そこそこ好かれていたせいだろうか。


「埋め合わせ……」


 何とかピンチを切り抜けたいところだが、何も思いつかない。

 アデル様は催促することなく、悩む俺を見守りながらじっと待っている。


「えっと、他にも使える魔法を見せるというのはどうでしょうか?」


 結局他に何も思いつかなかったので、魔法を見せることを提案するしかなかった。


「わたしはかまわないけど、あなたは平気なの? 自分からそう言い出すと、わたしのワガママのせい、だけじゃすまないわよ?」


 無茶ぶりしてくるワガママお姫様なのか、それとも気遣いできる女の子なのか、判断に困ることをここで言われても。


「平気ですよ」


 今日はまだ数回しか魔法は使っていないから、五十回は撃てるはずだ。

 それに《風の息吹》などを使うだけで侯爵様へのアピールはできるだろう。


「十回くらいまでなら」


「十回も?」


 何気なく言ったつもりだったが、アデル様に聞き返されたあげく、メイドにまじまじと見つめられてしまったと思う。


 一日に何回魔法を使えるのが今の時代の平均なのか、父さんに聞き出すのを忘れていた。


「強がっているわけじゃなさそうね」


 俺の表情を観察していたアデル様が言う。


「もしも事実なら、わたしからお父様に推薦してあげる。デュノの子なら、郎党入りの資格はあるはずだしね」


 それはけっこう魅力的な提案だ。


 貧乏騎士の次男は、誰か有力な貴族の後ろ盾を得ないと生きていくのがつらいもんな。


「お願いしてもいいのですか?」


 おそるおそる聞くと、


「……急にやる気になったわね。わたしの相手は面倒そうだったのに」


 アデル様が不満そうに口をとがらせる。

 隠してたつもりなのに、ばればれだったらしい。

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