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リナレス帝国の重臣会議において、バーランダー王国の議題があがっていた。
「というわけで、バーランダー国王はジェラルドの婚約者である聖女を国外に追放し、代わりに我々リナレス帝国からの使者を新たな聖女もとい婚約者に迎えいれたようです」
重臣の1人がそう報告すると、会議の上座に座っている大柄の男は高笑いをあげた。
リナレス13世だ。
「はっはっははっはっ!どこまで愚かなのだ。バーランダーのやつめ!金さえやれば何でも言うことを聞きよる」
そう言うと、会議室からはたちまち笑い声が飛び交う。
「ええ、我々が送り込んだ聖女は、我々のスパイを助け、バーランダーの民衆は助けません。
これを続ければ、いずれあの国を乗っ取ることが可能になりましょう。あのバカ国王、王子には金を渡しとけば我々の言いなりです」
再び、リナレス13世は下品で、大きな笑い声をあげた。
ガーディアンとしての任務を終え帰宅したドッジは、市場で調達した出来るだけ高級な食材をスカーレットと共に食しながら、この日に起こった出来事を語っていた。
「新しい聖女様は、バーランダー国民を救いきれてません。スカーレット様の時の方が良かった……!くそ……!」
「そうなのですね……心が痛いです」
「さきほど僕の仲間のひとりが申し上げた、リナレス帝国による国王買収の噂、強ち間違いではないのかもしれません」
「そんな……おやめなさい。国王様のことをガーディアンの貴方が信じられないなんて……」
「しかしスカーレット様!民衆や国がいま、危険に晒されています!この国はあの愚かな国王や王子だけのものではないのです」
たしかにそれはそうだ。スカーレットも心の中ではドッジの言うことに納得していた。
スカーレットとて、この国を思う気持ちは極めて強いのだ。しかしながら、スカーレットは聖女や婚約者として失格になっただけでなく、国外追放をされた身なのだ。もちろん、当たり前に出歩くわけにはいかないし、何もアクションを取ることは許されない。
どうしようもないのである。
スカーレットとドッジの2人は、うーん、と考えこんでしまった。