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「我は今、この時をもってスカーレットとの婚約を破棄する!」
ジェラルド・バーランダー王子の威勢のいい声が、宮殿に響き渡る。
仕方ない。誰もが予想していたことだ。
なるべくしてなった婚約破棄だといえよう。
しかしながらそれでも、婚約の破棄を宣告された当の本人であるスカーレット・ヴィーラは、慌てふためいているようすだった。
「そ、そんなの、おかしいではありませんか!
私は、私はこの国、バーランダー王国、そして民衆のために一生懸命働いてきました!
なぜ、なぜですか!」
「やかましいッ!!!」
渋い声でスカーレットを遮ったのは、バーランダー国王だった。国王がスカーレットを自分の息子、すなわち王子の婚約者として迎えいれるということをいささか快く思っていなかったのは宮殿内においても周知の事実だったが、ついに直接的に彼女を非難し始めた。
「スカーレット。お前がこの国の聖女だった間、一体どれほどの民衆を災難から救えたというのだ。8割?っは!先代は100%だったわ!
不完全な聖女などいらん!さっさとこの国から出て行くがよい!」
国王の雄叫びが響き渡ると、豪華な部屋の端に佇んでいた護衛の者たちの出てによって、スカーレットは王宮から引きずり出されたのだった。
数人のガーディアンに連行され、うなだれながら王宮の外に出たスカーレットは、はあっ、と深い溜息をつく。するとガーディアンのひとりが、意外にも彼女に声をかけた。
「スカーレット様。この度は心中お察しいたします」
そういってひとりが深々と頭を下げると、残りの者も皆、お辞儀をした。
スカーレットにとってはこれが衝撃だった。
自分の頑張りを認めてくれる者がまだこの国にいたなんて。驚くと同時に、なんだか少しだけ報われた気がした。
「ありがとうございます。でももう私はこの国を去らなければなりません。残された民衆たちを、お願いします」
「スカーレット様……」
するとスカーレットの健気な姿勢に感銘を受けてか、他のガーディアンたちも次々と口を開く。
「こんなの、おかしいですよ!」
「そうです!バーランダー国王と王子は、きっと隣国のリナレス帝国から金を貰ってるんです!だから、スカーレット様の魔法がバーランダー王国の国民にしか効かないのを逆手にとって、この国をリナレス帝国からのスパイだらけの国にしたんだ!」
「た、たしかにそうだ!そうすれば確かに、実質的にはスカーレット様の魔法が完全に行き届いていないことになるもんな!」
「そんなの、インチキだ!」
実を言うとガーディアンによるこのような噂は、根も葉もないとは言いきれないものだった。
というのも、バーランダー王国の聖女には規定があり、民衆を100%魔物から守らないと、失格の烙印を押されることになっているのだ。
バーランダー王国は地理上、凶暴な魔物が良く出没する。聖女はそのような魔物から民衆を守らなくてはならないのだ。
スカーレットは今まで、この国の民衆を守り続けてきた。しかし、スカーレットの魔力は、スパイには効かないのである。
当たり前な話ではあるが、何故か国王と王子の2人は、それを認めないのだ。
さらにもっというと、スパイの存在すらも認めようとしない。スカーレットの力不足だと、言い張るのである。
「みなさん、根拠のない噂話はおやめなさい!
貴方たちがそんなことでは、民衆はもっと不安になります。どうか、この国を危険から守ることに専念なさってください」
スカーレットは頭を下げた。ガーディアンたちは彼女のあまりの利他的な姿勢に心を打たれているようだった。
「スカーレット様。承知致しました。この国は、我々が全力でお守りいたします。ですが、スカーレット様はこれからどちらにお住まいになられるのですか?」
「えっと……そ、それは……」
無理もない。ついさっき婚約を破棄されたばかりの身で、住むあてなどある方がおかしいのである。
吃るスカーレットに、ガーディアンのひとりが意外なことを言うのだった。