プロローグ
世界が灰色にしか見えなくなったのはいつからだろうか。
そんなこと頭の中ではわかっていても心の中ではまだあの出来事を信じたくない自分がいる。
「今日から俺も高校生か。」
俺は今日から日本に1つしかない魔法使いを育成する高校、日本魔法専門高校の生徒になる。
「ひたすら強くなるために頑張ってたらいつのまにか姉ちゃんと同い年にまでなっちまったよ。
なあ、姉ちゃんは天国から俺のことを見てくれているのか?」
そんな彼の独り言を聞いてる人など誰もいなく、周りの人達は入学ムードで男同士、女同士、あるいは男女同士はしゃぎあっていた。
*
俺は6歳の時交通事故で両親を亡くして以来父方の祖父母の家で姉の芽依と一緒に暮らしていた。
芽依はとても明るく、両親を失い泣き叫んでいた俺に
「大丈夫だよ強志。これからはお姉ちゃんが守ってあげるからね!」
と無理に笑って俺を励ましてくれる優しい自慢の姉だった。
姉ちゃんは両親を亡くした俺の唯一の救いだった。
しかしそんな唯一の救いさえもこの世界は奪ってしまった。
それが起きたのは今から5年前の春の日。
今でも鮮明に覚えている。忘れるはずがない。
俺と姉ちゃんは夜ご飯を作るために食材を買いに行っていた。
「強志ー、今日の晩ご飯は何がいい?」
「姉ちゃんが作るもんは何でも美味いから何でもいい!」
「何でもいいっていうのが一番困るんだけど、、、
じゃあカレーにしよっか!」
「うんっ!」
なんて話をしたのだって覚えている。
そうして食材を買い、祖父母の家に帰ろうと道を歩いていた時にそれは起こった。
急に後ろから女性の叫び声が聞こえたんだ。
どうしたんだろうと思って後ろを振り向いたら若い男性が血を流しながら倒れている。
その側には服を血で濡らした男が立っていた。
その男は若い男性から刺さっていた包丁を抜くと叫んでいた女の方に走っていき包丁を腹に刺した。
その男は通り魔だった。
男はそれで止まるはずもなく次々と人を刺そうと、走り出しては包丁を突き刺す。
抜いて走って刺す、抜いて走って刺す、抜いて走って刺す、抜いて走って刺す、抜いて走って刺す。
辺りはいつのまにか地獄と化していた。
姉も俺も恐怖のあまりそこから動けないでいた。
小学生の俺にはその光景はあまりにも過激すぎて、胃の中にあったものを残さず全て吐き出してしまった。
そんな俺を見た通り魔は顔を不気味な笑顔で歪めて、
こちらへ走ってきた。
距離はある程度離れていた。
100メートルは離れていたのではないだろうか。
けど俺は逃げることも出来ずその場で震えていた。
俺は死ぬのだろうか。
まだしたいことだってたくさんあるのに。
今日の宿題だってしていない。
明日また会おうねって友達と言い合うことももう出来ない。
姉ちゃんと一緒にいることも出来ない。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
そんなこと考えたって何かが変わるわけでもなく通り魔は近付く一方でもうすぐそこまで来ていた。
ああ死ぬのだなぁ、もっといっぱい楽しいことしたかったなあ。
友達ともあそびたかったなあ。
おいしいものたくさん食べたかったなあ。
、、、助けて姉ちゃん。
「大丈夫だよ、強志。姉ちゃんが守ってあげるって言ったでしょ。」
そんな声が聞こえた。
グサリ
痛みは感じなかった。
それもそのはずだ。
どうしてと目を開けると白いまだ新しい高校の制服を血で濡らした姉ちゃんが俺を庇うように立っていた。
そして、
「逃げて、強志、、、」
そんなことを言って姉ちゃんは、ばたりと倒れた。
俺は逃げた。
逃げて逃げて逃げ続けた。
小学生の俺がどれだけ速く走ろうと大人の男性に勝てるわけないとわかっていながらも。
通り魔から逃げた訳ではなかった。
姉ちゃんが俺を庇って死んだ、俺のせいで死んだという現実から逃げたかったから。
そうして無事俺は祖父母の家まで着くことができた。
帰ってきた俺に祖母はおかえりというと驚いた目をして、
「どうしたんだいっ!服をそんなに汚して!」
と近づいてきた。
そして俺は祖母にしがみつき、泣いた。
「姉ぢゃんが、姉ぢゃんが、おでのぜいでっ!」
それから一週間して通り魔が捕まったというニュースが報道された。
世界にとってはちっぽけな1つの命に過ぎなかったのかもしれないけど、俺にとっては何より大切なものだった。
通り魔も恨めしい。
けどそれ以上に俺から何もかも奪っていくこの世界が恨めしい。
だから、だからこそ、俺は決心した。
「こんな俺から何もかも奪っていく世界は絶対に信用しない!
俺は俺自身の力だけを信じれるようになる!
そうして大切なものを奪われるくらいなら俺が奪う側になってやる!」
それからはひたすら努力した。
強くなるために、誰にも負けないようにするために力をつけた。
運良く俺には魔法の適性があった。
魔法という力を身につけるため魔法について調べた。
残りの小学校生活を魔法の知識を身につけるため、
新しい中学校生活を小学校生活で得た知識を基にオリジナルの方法で魔法という力を身につけた。
そうして月日は経ち今に至る。