異世界転生しませんでした
歩きスマホはやめましょう。
そんな看板を横目で見ながら俺はネット小説を読んでいた。家に帰る途中の道を歩きながら。
普段は車も通らない田舎道だ。
歩きスマホでぶつかってくるのは、イノシシか地元のヤンキーくらい。
そう思っていた時だった。
「あーっ、危ないっ!」
右側から走ってくる変なオープンカーが見えた。なんだ、歩行者優先だろ、そう思って横断歩道を渡ろうとしたが、ふと正面を見る。
「赤信号……」
次の瞬間、俺はオープンカーに撥ねられた。
「駄目ですよ神様ー、神様はブレーキに足が届かないんですからね!」
「すまないねえ」
白いヒゲを蓄えた大柄な爺さんと、子供がいた。
慌てふためいているのは爺さんの方だ。
「もう、神様ー、やっぱり神様は運転しないでくださいよー!」
神様と呼ばれた子供が、頭をかきながら俺の方へ来る。
「なあお前、あそこにあるの判る?」
あそこにあるの?
「……」
俺は返事をしようとしたが声が出せない。
「無理無理。あそこに転がってる身体お前のだもんよ。肺がなくちゃ声なんて出せないだろ?」
は?
確かにあそこにはボロボロになって倒れた首なしの身体が……。
俺と同じ服装だ。体型も似ている。
汚れたり破れたり血に染まっていたりしているから、気がつかなかったのか。
「心臓から血液が送られなくなるから、脳内にある酸素とブドウ糖を消費し尽くすまでの短い時間だけどさ、脳はその間反応できるんだよね」
何言ってんだこいつ。
「まあ、僕がそう造ったし」
神って、はぁ!?
「意識があるうちに聞くけどさ、転生とかしてみたい?」
転生?
あれか、俺が読んでいるネット小説とかでよくやっている異世界に飛ばされるやつとかか?
「僕は異世界の権限は持っていないけどさ」
俺の考えが読めるのかこいつ……。
だったらこのまま死にたくねえ。転生でもなんでもいいから生まれ変わらせてくれよ。
「うーん、まあ、やるだけやってみるか」
そしてあれか、俺は何処かの誰かに転生して、現代知識を持って生まれて、その知識でなんでもスマートに問題を解決しちゃうとかそんな感じか?
できる奴には異性が群がってハーレムを作ったり、巨万の富を築いたり、そんな人生が……。
ああ、だんだんと……意識が……。
歩きスマホはやめましょう。
そんな看板を見て、俺は信号待ちをする。
俺のスマホはカバンの中だ。
こんな田舎道だとしても何があるか判らない。現に今も、変なオープンカーが猛スピードで目の前を通り過ぎて行ったばかりだしな。
「さてと、早く帰って続きの小説を読もう!」