第6論 賢い人には友がなし
先ほどの会話から私は彼女の言ってる事を信じることにした。
色々と怪しい部分も知らない事も多いが、幽体の私とこうして会話出来る人間は、この先にも後にもいま目の前にいる彼女しかいない。 それに、早くこの幽霊のような(彼女が言うには、死んでないから幽霊とも霊体とも言わない)状態は居心地がよくないし死んではいないのに生きてる心地も感じられない。
先ずは、一刻も早く自分の肉体に戻りたい。
「君の説明したことも自分が幽体してることも信じる。だから、君に頼みがあるだ。私を元の肉体に方法を知らないか?実はここに倒れる前に自分の肉体に戻ろうと色々と試したみたけど、結局は戻ることが出来なかった。」
私は幽体したあとの自分の行動を思いだしながらしゃべった。
「それで、戻ることが出来なくて・・・。とりあえず、この幽体を事をもっと知ろうと外に出てきて色々と幽体を使って空を飛んだり物質に触れたりしてたら、急に疲れのような、息苦しさに襲われてここに倒れたんだけど・・・」
一通り、これまでの自分の経緯を話してみた。
彼女には説明しなくても伝わってると思うが、やはり話してもいないことに分ってしまうことに不気味さもあるが、彼女からしたら幽体の私の方が断然不気味の悪いと思われるが、自分の言いたいことは口にして伝えたいと思ったからだ。
「どうして、あなたが此処に倒れてるのか?なぜ幽体なのか?一通り事情がわかりました。」
彼女はしゃがみ、私との目線を合わせてくれた。
「私は幽体のあなたを肉体に戻すことは可能です。」
「じゃ、お願いします!早く私を肉体に戻してくれ!」
やっと、このふわふわした生きた心地のしない幽体から肉体に戻れる。
しかし、彼女はにこりと笑うと私の前に右手の人差し指と中指を私に向け、目の前を差す。
「では、あなたを肉体に戻す代わりに」
彼女の薬指と中指が曲げたり伸ばしたり、二本の指はまるで違う生き物ように
「あなたは私の被験者になってください」
彼女の唇が一瞬、とがった。
****************
「・・・マウス?」
この少女は何を言ってるんだ?マウスって・・・ねずみの事だよな?
私がこの子のネズミになれって意味がわかない。
「被験者というのは、私にはある仕事があります。その仕事に必要な被験者がほしいのです。ちょうど、幽体者の方を探してたんですがこれは運命ですね!」
彼女は更に笑みを零した。しかし、その正反対に私の顔はしわが寄る。
「仕事に必要なマウスがほしいって、ちょっと待ってくれ!私は幽体してるんだ!!それに、仕事って私に何させようって!!」
彼女の提案に混乱した。私はいま肉体と幽体に分かれている。
その状態で「仕事に必要なマウスがほしい」っと言われたら、その言葉の意味からしていい意味ではないのは想像できる。しかし、彼女が慌てる始めた。
「すみません。不安にさせるようなことを言ってしまって。被験者といっても命をとるようなことは致しません。ただ、あることについて観察とデータがほしいのです」
「観察とデータ?」
「まだ、契約してないので詳しくは説明できませんが、私は人としての個人のデータを収集してます。そのデータを集めるのに”協力してくれる人”を探しているです。決して、命にかかわることは・・・まぁ、本人の選択ですので、私からは強要は致しませんの安心してください。」
「なんか言い回しが、引っかかるんだけど・・・?」
とりあえず、命を奪うことはしないってことは分ったけど、いい気分ではない。
彼女は私の感情が伝わったのか、哀しい表情になった。
「本来なら無償であなたを助けたいところなんですが・・・。今回かかえてる問題を解決させる為には、あなたの協力が必要なんです。私はあなたは肉体に戻すこと出来る、あなたは私に問題の解決に協力して頂く。お互いにしてほしい提案をして今こうして話し合っています。これでは、ダメですか?」
彼女が言う通り、私は自分の肉体に戻りたい。
彼女は私の協力から彼女の抱えてる問題を解決したい。
お互いの意見を聞くには、別に問題はない。寧ろ私には彼女に協力するしか選択肢しかない。
社会に出ればこんなやり取りなんて日常茶飯事でいつも悔しい思いをするのは、立場の弱い人間ばかり・・・。会社に所属してもフリーランスで働いても、学校に通っても習い事にしていても、家にいても外にいても、ゲームの世界でもSNSの世界でも・・・どこの世界でも上がいれば下もいる。
そんな言葉を幼少期のころから味わっていた。
これは、命が宿る前から与えられた試練で生きてるものはさえられない定めなんだろう。
この少女のとの約束が特別ではい、これも人生からしたら当たり前に交わされる契約だ。
弱いものと強いものの立場で結ばれる強者が利益となるほうを弱者はのむしかない制約。
「・・・それでいいです。あなたと私の意見を同意の上でお約束します。」
胸の中で私は黑い泥に片足をいれた。
「あなたは、賢い人ですね。」
彼女は哀しく微笑んだ。