第5論 負うた子に教えられて浅瀬を渡る
真っ直ぐ、私の目をみて答えてくれた。彼女の言葉は、本当の事を言ってるように思えるが…。
しかし、だとしたら彼女は何者かは未だに分からない。
彼女は私が”視えてる”のではなく”見えてる”といた方が正しいのか?
何だかややこしいが、言葉にしたら生きてる人間を視えてるっていうのは意味的には間違えではないが、彼女にとっては違和感だったのだろう。
彼女が言うにはとりあえず、私は生きてるらしい。
しかし、何を理由に俺が生きてるって、彼女には分かる?彼女に会うまでは俺は壁や床を擦り抜けたし、宙にも浮いた。まぁ、自分でも呼吸してるとか確認はとったので生きていると、確信があったが、彼女は私の身体を実際に見たわけでもない。なのに、私が生きてるってのが分った?
彼女は笑みを崩さず、私を見ている。不思議とこの空間に恐怖のようなものが感じられてくる。
私は、とりあえず自分の幽体離脱を解決するために、今いるこの少女に助けを求められるか?
まずはこの子の事を知る必要性がある。
「先ほどの質問なんだけど。なんで、私が生きているって分った?」
彼女はまた考えるしぐさして、考え始めた。しかし、彼女は一向に答えてはくれない。
私は再度、彼女の様子を伺いながら、続けて話す。
「変なこというけど...」
改めて自分が言うセリフを思うと声が詰まりかける
「私の肉体は今ここないんだけど?」
自分で言ってても滑稽なセリフだと思う。
しかし、彼女はそんな滑稽な言葉を馬鹿にする様子でもなく、いきなり顔を近づけて私の瞳をみる。
「そのとおりです!あなたの肉体はここにはありませんが、貴方の精神はここに存在します。」
彼女は私の目の前で強くそう呟く。
「今ここに肉体がないからっといって、死んだわけではありません。貴方は今、幽体離脱をしているだけです。幽体離脱は生きてる肉体から精神などが抜け出しただけで、肉体と繋がってる状態をいいます。」
いきなり、今の私の状態を説明してくれてるがそんなことは自分でも分ってることである。
自分がしりたいのは、それ以上の事。
「それは、自分でも理解はしてる事なんだけど...。肉体も近くにないし、魂だけが転がってたら普通は死んだ人間って思うじゃない?」
もし、自分が”視える人間だったら”肉体のない魂はみんな幽霊だと思う。
この子も”視える人間”だとして話しているが...実際は、、
「そうですね。”生きてる肉体から離れた幽体”と”死んでる肉体から離れた霊体”の見分け方は非常に難しいです」しかし、そう語る彼女は全然難しそうな顔をしてない。
「ですが、それは難しいだけで出来なくはありません。幽体も霊体もとても似ていますが...その人の事を、真摯にみてあげれば、分ります。」
彼女は真っ直ぐ私の瞳をみる。先ほどよりも深く、私の瞳の奥を覗き込むように。
「君は...霊能力者とかなのかい?」
私は今一番、彼女に聞きたかった質問をした。
彼女の瞳が私から遠のく、その瞬間。
「はい。」
懐かしい、華の匂いがした。
**********
彼女の話を聞いて、私はやはり幽体離脱をしている。
そして、目の前の少女は霊能力者で私の姿が見えているらしい。
今まで一人で不安に募らせ、あれこれ考えてたことがこの一人の少女が現れてくれたおかげで救われた。
そう思うと安心したのか、眼の奥から熱い何かが溢れ出しそうにあったがとりあえず堪えたが、彼女が言う”幽体”からは涙とかでるのだろうか?
それに、しても彼女をみていると懐かしいこの思いは...
「・・あの?」
私がまた自分の世界に入っていると、彼女は心配そうに私に話しかけてきた。
「体調のほうは大丈夫ですか?」
「体調・・・ですか?」
今、私は幽体離脱しているので体調の心配されても『大丈夫』と言える状況ではない。
いくら生きてると分っていても肉体と精神が分かれている。この情状況から「大丈夫な訳ないじゃないか!」っと言いたいが...彼女の顔を見てると本当に心配してくれている。
先ほど、幽体と云えど疲労でここにしゃがみこんだのも。
あと私は彼女を安心させたいと思ったので、一先ずその言葉を飲み込み言い方をかえる。
「体調は、さきほど意識を失う前よりは大分よくはなりました。」
幽体離脱をしてるのに意識を失うっていうのも滑稽に思えるが、幽体も意識を失うのか?
それとも、死んではいないから意識を失ってもしかたないのか?
どのみち、幽体について知らないことが多すぎると改めて思った。
「幽体は生体と繋がっています。肉体というものがなく、肉体からの得る情報より幽体の方がすくないだけで基本、幽体と生体に変わりはありません。なので、慣れない幽体で動いたから疲れで倒れたのでしょう。」
彼女は私が思ったことを、丁寧に説明してくれた。
しかし、私はこの少女と会った時から思ったことがある。
「なんで、君は私が口にしてないのに思ったことが分かるの?」
最初の彼女を見たときのコスプレの用な格好も否定したし、自分の姿が視えるか?視えないか?聞こうする前に彼女は答えた。今もそうだ、私は幽体の事を一言も口にしてはいない。なのに、彼女は私が思った疑問に応えてくれた。
なぜ、彼女に伝わった...。
彼女は少し困った顔をしなが説明してくれた。
「私は、視える人間です。それが幽体でも霊体もちろん生きてる人も。」
彼女は微笑んだ。
「よく、TVや近くにいる人で、"本当に視える人” が "霊" を視たとき、その人物の事が分かるとおもいますか?
・・・それは、私たち視える人間は "幽体・霊体" ともに、己の事を語らなくても【送りこまれてくる】からです。その人物の思いや感情、どういった経緯でここにいるのか?どういう人物だったのか?彼らの視える人に、送ってくるのです。」
彼女は、眼は一瞬。曇ったかのように見えたが笑みは絶やす事はなく私を安心させるように続ける。
「なので、先ほど口にしていなくても、私には貴方が考えた事が送り込まれたというか・・・。貴方の事が伝わってきたといえますね。」
彼女の説明で私は納得した。
私が口にしなくても彼女には私が考えが伝わっていたこと、更に一般的にやってるオカルト番組やなんかで霊媒師さんが霊の事あれこれ言ってる場面を「うさんくせえ・・・。」と何度も思いながらテレビを観てた事も思いだすが、彼女の説明でその胡散臭さが晴れた。
【彼女は本当に視える人間なんだと思う。】
こうも、こんな突拍子もない不思議な出来事を丁寧に説明してくれる。
彼女は信じても大丈夫だと私は確信した。