第1論 ああ言えばこう言う
私の目の前にいる男、鑑 堅哉28歳、独身のフリーター。
幼少期は、運動や勉強が周りの子より出来がよかったらしく、それに眼につけた親が将来を期待をして、地元で有名な中学に受験させた。この頃は周りでも神童と言われ中学受験も無事に合格し、高校もエスカレーター式に上がった。
その学校の中でも進学コースの特待生クラスに入り、成績も常に上位入る学力も社交性もあった。大学受験は、名門大学に受験しようと青春も恋愛も友人も行事も全て犠牲にして、ひたすら勉強に明け暮れた。
しかし、すべてを犠牲にして費やした結果は
本命の名門大学の【不合格】の文字。
今までの努力や時間をかけてきた人生が総崩れ落ち
どん底の暗闇へと落ちていった。
積み重ねてきたものや犠牲にした代償が大きすぎて、受験後は半ば軽いヒステリックと鬱とパニック障に似た精神的なものにかかていた。
そこで、一浪して落ち着いてからまた来年の受験に挑めば良かったのだが、今まで勉強にかけてた人生を振り返り、あのような生活をもう1年過ごすことに不安と恐れを感じ。
半ば自暴自棄で、滑り止めである。
中堅大学の文学部 哲学科に入学。
どうして、滑り止めに将来を見据えて社会に役にも経ちそうにない哲学科を選んだのか?
当時は最も入りたくない大学と学科を指定すれば、意欲が向上し、自分への意志が強くなると高をくくって
バカにしていたが…
その選択肢が人生の支えになり、人生の分岐点の一つにだった。
入学当初は、入りたくもない大学に入ったため。受験が終了してからの戦意喪失もあり、1年は空っぽな大学生活を送っていたが、2年目からは大学にもなれ、今までの犠牲にしてきた青春を取り戻すかのように、遊びに明け暮れた日々を過ごしていた。
4年目の春、単位が足らず単位を稼いでたと同時に就職活動もしていた、自分の選択した学科がどれほど世間から冷めたい目で見られるか身に染みるほど、当時は痛感していた。
大学の授業を受けてた時は、寧ろ人生の勉強になったことや、助けられたこともたくさんある。
しかし、世間でいう哲学科は美術科以上に就職戦争に不利とみなされることが多く。
遊びに明け暮れた日々と社会からみた専攻の学科の評価と色々なものが積み重なり。
私の人生のなかで、二度目の人生の戦争に負け。
親と就職のことなど喧嘩して疎遠。
大学卒業後フリーターとなり、現在にいたる。
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目の前の自分自身の人生を振り返ると、何とも悲しくなるが今はそれどころではない。
今の状況から冷静に判断すると、私は幽体離脱をしたもよう。
目覚めたらベットに寝てる私、宙に浮いてそれをみてる私。
この奇想天外な状況からパニックになりながら、自分が死んでるじゃないか?とか。
いや、これは夢じゃないのか?様々な思考の波が押し寄せる中、私が知ってる目の前の鑑 堅哉?という人物を思い出してみたが、やはりどこからどう見ても、私自身だ。
昨日は仕事場の先輩たちと飲みに行き、朝方まで飲んで帰ってきたまでは記憶にある。
ベットの周りは昨日酔って帰ってきて、テーブルにぶつけてたであろうか、テーブルおいてあった缶や物が床に散乱して、洋服は昨日のままである。
しかし、目覚めたらこの状況。
私は死んだのか?原因は酒の飲みすぎ?
いや、待て待て、昨日は普段よりは飲んでたが大学に通って時よりも酒のペースも量も落ち着いたし、一人で帰れるよにセーブもした。体調だって元気で寧ろストレス発散がしたいが為に久々に飲んだが、そんな死ぬまでじゃない。
他に原因があるとしたら...部屋のものが散乱してるってことは、どこかにぶつけて致命傷をおってそのまま死んだのか?
いや、待て待て、ベットの周りには血もついてなければ、身体をみても傷みたいなものが確認できない。
怪我によるものでもなければ...少ない可能性として、もしかして殺されたのかと考えてみたが、外傷がない故に暴れた痕跡も、もがいた痕跡もない。
私が考えるなかでのいくつかの死亡原因を考えたが、酒でもなく、傷でもなく、ましては殺された訳でもない。
残る原因を考えたら...【原因不明の突然死】
一気に霊体でありながら血の気が引き、顔面蒼白した。
今まではずっとこれが夢である事を望んでいた自分がいた。
コレは夢だから目覚めること期待してながら、色々考えて過ごしてきたが、少しずつ夢ではない違和感と現実に近い思考と記憶。
これが夢なら、突然目覚めてくれてもいいはずなのに、時間が経つにつれて増していく、恐怖がいっきに爆発した。
まさか、この若さで自分の死が、原因不明の突然死である事に直面しなくてはいけない。
まだ、やりたいことも...やっとかなくちゃ、いけないことだって、
それに、あの日の約束も...
一瞬、頭をよぎる。ニコッと微笑みかける少女...
「死にたくないっ!!」
勢いよく、私は自分の身体に突っ込んだが、あっけなく。霊体の私は肉体の私をすり抜けた。