第98話 後悔とこれから
本日もよろしくお願いいたします。
昨日は更新出来ずすいません。
体調不良を訴える沢良木君が保健室へ向かうため教室を出ていきました。
突然席を立った宗君に面食らい、わたしは彼の後ろ姿を見つめるしか出来なくて。
本当は着いて行きたかったけれど、菅野さんがいる手前、お互いに睨みを効かせ牽制をしてしまい抜け駆けするのは難しかったです。悔しいです。
わたし達は未だに睨み合っています。
わたしはすっかり視線を外すタイミングを掴み損なってしまい、そのままなのです。
「おい」
と、そこへ声をかけて来たのはのは藤島君でした。
その声色はいつもより数段低く感じて、不思議に思い視線を向けました。
隣の菅野さんや唯ちゃんも藤島君へ視線を向けました。
「……そんなんじゃ、沢良木に嫌われるぞお前達」
「「え?」」
わたしと菅野さんの声が被りました。
宗君、に、嫌われる?
それって……。
藤島君のその言葉に唯ちゃんが慌てて問い詰めます。
「ち、ちょっと健太!? 何言ってんの!!」
「唯は黙ってろ。一回言わないと気が済まない。いい加減沢良木が不憫になってきた」
「ふ、不憫て……」
まとわりつく唯ちゃんを手で制すと、藤島君はわたしと菅野さんから視線を外さずに続けました。
「……お前達、お互いに張り合う事ばっかりに夢中で、周りが見えてないんじゃねぇの?」
藤島君はわたしと菅野さんそれぞれに視線を巡らすと、そう言い放ちました。
その言葉と表情には怒りと呆れが見え隠れしているように感じて。
「ここのところ毎日だろ。事ある毎に張り合って。今みたいに昼休みや普段の休み時間、授業中だって」
「そ、そんなこと、あたしは……」
「……」
藤島君の言葉に菅野さんは言い淀み、わたしは口を開くことも出来ません。
何と言うべきなのか、全く思い付かない体たらくで
「挙げ句の果てに、大好きな沢良木まで蔑ろにするようじゃ、呆れを通り越して笑えるわ。一回でも沢良木の立場になって考えたか? 自分の友人が揃っていがみ合う姿を。……こんなんじゃ、いつ沢良木に愛想尽かされてもおかしくないよな」
「……っ!」
「健太っ!!」
「ったく、はいはい、わかりましたよ。余計なお世話だったな。……俺が言いたかったのはそれだけだ」
ヒラヒラと手を振りながら離れて行く藤島君。
わたしは何も言えず、その背中を見送るだけでした。
「……宗君」
「……沢良木君」
菅野さんとわたしの呟いた言葉だけがその場に漂いました。
教室には休み時間の喧騒が満ちているけれど、わたし達の周りにはどこか決まりの悪い空気が流れていました。
わたしの前には唯ちゃんが所在なげに立って居て、隣の菅野さんも席を立つでもなく、少しばつの悪そうな表情をしています。
周りのクラスメイトもそんな空気を感じてか近付こうとする人は居なかったようです。
「あ、あー、まあ、なんだ、その……」
そんな中、最初に口を開いたのは唯ちゃんだでした。
わたしと菅野さんを交互に見やり、上手く言葉は繋がらなかったようですけど。
「……う、ウチの健太が悪かったね」
謝る唯ちゃんに先ほどの藤島君の言葉が胸中で反芻されます。
沢良木に嫌われるぞ……か。
そう言われた瞬間、胸がわしづかみにされたような気がしました。
何で、などと問うまでもなく、その理由に気付きました。辿り着きました。
藤島君が教えてくれた事、そのままです。
わたしは菅野さんと張り合う事ばかりで、肝心の大好きな宗君を蔑ろにしていたのです。
わたしは、多分、怖かったんです。
こんなにも可愛くて魅力的な女の子が同じ人を好きだなんて。
宗君を好いているのは、菅野さんの様子を見れば嫌でも分かりますもの。
ああ、この人も宗君を好きなんだなって。
だから、菅野さんに負けないように必死に張り合って、結果して一番大切である筈の宗君を蔑ろにするほどに。ましてや、今日は宗君が具合悪そうにしていました。その結果、今保健室へ向かった訳ですし。
いや、菅野さんを理由にするのはお門違いですよね。
悪いのは、弱い自分、です。
逆に、なんで気が付かなかったのだろう、気が回らなかったのだろう、と悔やむばかりで。
唯ちゃんは藤島君の事を謝ってくれているけど、自責の念に駆られ、気付かせてくれたことに感謝こそすれ、藤島君を恨むなんてあり得ないのです。
「……う、ううん。藤島君は間違っていないよ……」
「愛奈ちゃん……」
「むしろ感謝しているくらいで……」
「……そうね」
隣から聞こえた返事にわたしは、はっとして振り向きました。
「あたしも藤島君が言う通り、何も見えてなかったと思う……」
菅野さんがわたしを見つめ、悔いるような口調で続けます。
改めて見た彼女の顔はアイドル然としていて、やはりとても整っていました。
「あ、ぅ、その……」
わたしはつい言葉が詰まり、続けられなくなってしまいました。
よくよく考えると、菅野さんとはまともに話した事が無いのです。
間に宗君を挟んだ形でしか言葉を交わしたことが無いですし、真正面から見据えられどうも気後れしてしまいます。
いつもは勢いに任せて張り合っていましたし、わたしはもちろん、菅野さんも友好的な姿勢を見せることはありませんでした。
今さらの様にわたしは、自分の態度を省みたのです。
「……思うと、まともに自己紹介もしていなかったわね?」
「……ぁ」
わたしを見つめていた菅野さんは、ふと相好を崩しました。
菅野さんに言われて気付きました。
そうです、わたし達あれだけ張り合っていて、お互いに自己紹介の一つもしていませんでした。
当然、そんな空気は無かったのですが、今思うとなんとも子供っぽかったですよね……。
「あたしは、菅野真澄。今回、御崎に引っ越してきた関係でこの高校に編入になったわ。後は、まあ、知っているとは思うけど、元アイドルよ」
どこか自信あり気に名乗る菅野さん。
アイドルだったと言うことを鼻に掛けた言い方にも聞こえるけれど、とても自然で、そしてそれは歴とした事実で。
少し悔しくなったわたしも、菅野さんに負けじと自己紹介を始めるのです。
「わ、わたしは斉藤愛奈だよ。……し、知ってると思うけど、沢良木君とは、な、なな、仲良いよっ」
わたしに菅野さんに張り合えるモノがあるのかと考えますが、全然思い付かなくて。
それが輪に掛けて悔しくて。
結局、こんな事しか言えません……。
子供っぽくて情けないです……。
「む……」
わたしの言葉を聞いた菅野さんは拗ねた様な顔をしました。
その表情に意趣返し出来た様な気持ちになってしまい、そんな気持ちに軽く自己嫌悪です……。
わたし、良いところ全然ありません、です……。
「あ、あたしだって宗君と、な、仲良いわよ! 凄く! とても!」
「む……」
気持ちが沈んでいても、それは聞き捨てなりません。
散々繰り広げられてきた睨み合いが再び勃発しようかと言うとき、それを遮る声が。
「あー!! ほら、やめやめ!! 何でまた威嚇し合うのさ! せっかく落ち着いて自己紹介したんだから、もうちょい頑張ろう! な!?」
唯ちゃんに窘められ、はっとします。
元はと言えば、わたしが余計な事を言った事が原因です。ここは素直に謝るべきですよね……。
「ご、ごめんなさい、菅野さん……余計な事言って」
「あ、うん、こっちも、大人げなかった……」
素直に謝るわたしに面食らった様な菅野さんでした。
「唯ちゃんありがとう」
「ああ」
そう言って快哉とした笑顔を見せてくれたのでした。
ようやく振り出しに戻ったわたし達。
「まあ、問題点は既に二人もと分かっているわけだろ?」
唯ちゃんが上手く場を引っ張ってくれるので、それに甘えます。わたしではまた余計な事を言って失敗してしまいそうですから。
「うん」
「ええ」
菅野さんと二人、視線を合わせお互いに決まりの悪い笑みを溢します。
「まあ、なんだ。二人が沢良木君を好き過ぎるのはよく分かった」
「好き過ぎるって……」
「ぁぅ……」
「違うのかい?」
「「いえ……好きです」」
唯ちゃんの押しの強い言葉に二人で押し黙ります。
勢いに押されて、好きとか口にしてしまいましたが、すこぶる恥ずかしいです。宗君やクラスの皆が聞いていなくて助かりました。
いや……宗君には聞いていて欲しかったような……?
わたし達の言葉に唯ちゃんは満足そうに頷くと続けます。
「さっき健太も言っていたが、二人は沢良木君の友達だろ。そんな自分の友達二人がいがみ合っていたらどうだろう?」
「「……」」
「間に挟まれる沢良木君の心労も察してやらないとな」
苦笑いしながらもそう教えてくれる唯ちゃん。
藤島君のように言う訳ではないのですが、唯ちゃんも端から見ていてそう思っていたのでしょう。
本当に、情けない話です。
「沢良木君には悪いことしちゃった……」
「藤島君に言われた通り、挙げ句の果てには自分の事ばっかり……最悪よね」
重ね重ね思い返される情けなさに、思わずため息がついて出てしまいます。
「沢良木君に、嫌われちゃう、かな……?」
「っ……」
最悪の想像に、背筋に冷たいものが走りました。
気を抜くと涙が溢れてしまいそうです。
何があっても、そんなのは嫌だ。嫌だ、と心が叫びます。
隣の菅野さんへ視線を走らせれば、彼女もわたしと似たような心境なのではないでしょうか。
整った顔を歪ませていました。
「それは無いんじゃないか?」
鬱々とした雰囲気に陥りそうだった空気は、そんな唯ちゃんの軽い調子の一言で霧散してしまいました。
「え?」
「……なんで言い切れるの?」
わたしと菅野さんは疑問を浮かべます。
「考えてみなよ。沢良木君だぞ? 君達を嫌う姿を想像出来るかい?」
「「……」」
唯ちゃんは自信あり気にそんなことを言いますが、それは宗君の気持ちで、宗君が決める事です。
そうであって欲しい、と願いますが、自信はありません。
わたしを嫌う、宗君。
それを想像するだけで、胸がズキズキと痛みを訴えかけてきて、再び目頭が熱くなります。
自信無さ気なわたし達に気付くと、唯ちゃんはわざとらしくため息を吐きました。
「あのな、端から見ている者としては断言出来るぞ? 二人とも沢良木君に大事にされているって」
「「え?」」
今日何度目かという、菅野さんとの言葉被り。
二人で信じられないと唯ちゃんを見返します。
「ははは、そんなに驚く事かい? この前、ジュースを買ってきてくれたこともそうだけど、至る所で二人に対する思いやりを感じれるんだがな、私は」
授業中のこと、休み時間のこと。
唯ちゃんは次々と宗君の思いやりだと言う事を上げていきました。
まあ、友達としてなんだろうがなぁ、と唯ちゃんは続けますが、それでも聞いている内に菅野さんと二人で恥ずかしくなってしまいました。二人で俯きしばらく真っ赤になってしまいました。
他にもまだまだ色々と見落としていたようですね。
「まあ、二人が直ぐに仲良くするのは難しいかもしれない。でも、沢良木君に心配かけるような事が、無くなると良いかもな」
唯ちゃんの優しい笑みに、わたし達も笑い返すのでした。
「よし、後やることは決まったな?」
「「?」」
ぱんっ、と一つ手を叩くと当然、とばかりに笑顔の唯ちゃんは続けますが、わたし達は揃って首を傾げるだけです。
「二人の王子様を迎えに行ってこい!」
「「……うんっ」」
菅野さんと二人、頷き合うと教室を後にしました。
菅野さんとここまで近くに、そして並んで歩くのは初めてだな、なんて。
廊下を歩くわたしは思うのでした。
宗君、待っててね。
―――――
「なあ、唯」
俺は斉藤と菅野を焚き付け沢良木の元へ向かわせて、やりきった満足気な表情をしている唯へ話しかけた。
なんとなく眺めていて、状況は分かっている。
だからこそ唯に話しかけたのだが。
「ん? ダーリンじゃないか。ダーリンのお陰であの二人が少しは仲良くしてくれそうだよ」
「あー、いや。俺は思ったこと言っただけだから別に良いんだけとさ」
「それでもだよ。嫌われ役を買ってくれたんだ。ありがとう」
教室を出ていった二人の関係が少しだけでも改善に向かったからか、唯は非常にご機嫌で俺を誉めまくる。
「だからそれは……って、もういいや」
「ふふふ」
妙に俺を好評しようとする唯に、俺は諦めるようにため息を吐いた。
それよりも、と俺は本題に入る。
「つか、そんなことより良いのかよ?」
「ん? 何が?」
コイツ全然分かってねえな。
斉藤と菅野の件で満足してしまっているようだ。
二人は別に良いんだよ。
問題はその行き先だろうに。
「何って……。あいつらを沢良木の所に行くように焚き付けた事だよ。沢良木は体調不良で保健室に休みに行ったんだぞ?」
休ませてやれよ、と俺は言うと全然分かって無いであろう恋人に向けて、ため息を吐いた。
「……あ」
「……」
「あははは、沢良木君すまない!!」
「俺に言うなよ……」
誤魔化すように高笑いを始めた唯に、俺は今一度ため息を吐いたのだった。
唯の目が盛大に泳いでいたのは言うまでもない。
ご覧頂きありがとうございました。
これで藤島ルートのフラグが立ったぞ!
やったね沢良木君!
次回もよろしくお願いいたします。




