第92話 お昼騒動
お待たせしました。
よろしくお願いいたします。
―キーンコーンカーンコーン―
4時限目終了のチャイムが鳴り響いた。
ようやくお昼休みに突入である。
ここまで長かった。
ランチタイムになるのだが、今日は斉藤さんからお昼のお誘いは無かった。
まあ、朝からあの騒動ではそんなタイミングも無かったけどさ。
「……はぁ」
ただ、今日今までの流れを考えると、最早昼休みの安寧を願う事は叶わないんじゃないか、とさえ思えてくる。
思わず小さくため息が漏れていた。
教師が授業の終了を告げ退室すると、教室に喧騒が満ちていく。
そして。
「沢良木君!」「宗君!」
案の定、今日嫌と言うほど聞かされたステレオフォニックが再生された。
いやね。分かってましたよこうなるのは。
だって、皆こっち見てるんだもの。
なんか期待してる様な視線がこっち向いてたんだもの。
そんなに面白いかこんちくしょう。
「……はぁ」
二人に気付かれない様に、再びため息を吐く俺だった。
俺は身を乗り出す二人に視線を巡らす。
斉藤さんはともかく真澄もその手に弁当の巾着が握られていた。
斉藤さんの物は見慣れたいつもの巾着。
真澄も弁当を持参したようだ。
夏休みの件で知った通り彼女料理はするから、自分で用意したのだろうか。
「……何かな?」
分かりきってはいるが、一応聞いてみる事にした。
「「一緒にお昼ご飯食べよう!!」」
すげぇな。
ハモってる。
「「むっ……」」
でも、睨み合いはやめてね。
「あー、うん、そうだね……あはは」
最早乾いた笑いしか出てこなかった。
まあ、別に昼飯を食べるのは良いのだ。
問題は、どこで食べるか、だ。
当然、いつものパターンからすれば中庭が思い浮かぶだろう。
しかし、正直なところあの場所でこの三人で飯を食うとか、俺が耐えられなさそうなんよ。
だって、恐らく二人に挟まれるこの状況が続くわけだろ?
マジパネェっす。マジキツイっす。
……それに、何となくあの中庭に他の人を連れていくのは気が進まないんだよな。
それが友人の真澄でも。
斉藤さんに教えて貰った場所であり、ずっと二人で昼食をとっていた場所なのだ。
斉藤さんが他の人を誘うのなら別だけどさ。
まあ結局何処で食事するのか、と言われても困るんだが。
二人を見てもなんか威嚇してるし、このまま答えが出そうに無いしなぁ。
何かいい案は、と教室を見渡した俺は一つ閃いた。
「高畠さん、藤島!」
程近い席で昼食をとろうとしていた二人に、早速俺は声をかけた。
「なんだい沢良木君?」
俺の呼び掛けに応じ二人がやって来た。
二人に俺は一つの提案を持ちかけた。
「二人もこっちで一緒に昼飯を食べようぜ!」
ニカリとサムズアップ。
実に名案だと思う。うん。
「俺らが?」
「当然だろ! 二人も良いよな? な? な?」
俺は何とか三人だけの昼食を回避すべく、二人を必死に説得する。
「……必死だな」
うるせぇよ。必死だよ。悪いか。
ボソッと呟く藤島を一睨みするが、相変わらず気にした様子は無い。
「まあ、宗君が言うなら……」
「うん、大丈夫だよ?」
強引な俺に若干不服そうにしながらも、元アイドル様と天使様の了承を頂いたので、早速机を合わせて昼食をとることにした。
五人で集まって昼食と相成った。
近くの机を寄せ合い席を作る。
「……貴女そこだとバランス悪いから、そっちへ行ったら良いんじゃない?」
「え? そう言うあなたこそそっちへ行った方が良いんじゃないかな?」
「「むぅ……」」
気付けば二人のネコ(高畠さんが言ってた)が再び縄張り争いを始めていた。
ホント飽きないね君たちは。
しかし、ホントに猫が睨み合いしてるみたいだな。
高畠さん言い得て妙ですな。
二人共猫みたいに可愛いしね、あはは。
俺は猫ちゃん派です。
……はぁ。
「ま、まあ、二人とも。三人で並べば良いだろう?」
「「まあ、良いけど……」」
「「っ……!!」」
高畠さんの言葉に二人の答えが再びハモり、そして睨み合う。
……本当は仲良いんじゃね?
ひと悶着はあったがとりあえず席へ着くことが出来た。普段の席順の通り三人が並ぶ形だ。
「さぁ、食べようか?」
高畠さんが率先して場を仕切ってくれるので大助かりだ。高畠さん様々である。
それに比べてその彼氏ときたら、一人呑気におにぎりを食い始めていた。
「……やらねえぞ?」
「……いらねえよ」
そんなに物欲しそうに見てたかね?
って、あれ?
そこで俺は気付く。
「あ、俺飯買ってねぇ……」
至極当然な事実にたった今俺は気付いた。
昼休みに入って購買へ行ってないのだから、この手に昼食があるはずないのだ。
俺疲れてんのかな。
昼飯が始まって10分は経っている。
今から向かって残っていればいいけど……。
まあ、うだうだしててもしゃあない、買いに行きますかね。
「悪い、ちょっと購買行ってくるわ」
「自分から誘っておいて準備してなかったのかよ」
「忘れてたんだよ」
藤島の言葉に返すと俺は席から立ち上がろうとした。
「あ、宗君宗君!」
そんな俺を呼び止めたのは真澄だった。
巾着を持ち上げながらニコリと微笑む。
「少ないけど、あたしのお弁当で良ければ一緒に食べよ?」
「あー、いや、それは悪いって」
真澄はそう言ってくれるが、そのお弁当箱は女の子らしくそんなに大きくは無いサイズだ。流石に申し訳ない。
「さ、沢良木君!」
真澄の申し出を断ろうとしている所に、今度は斉藤さんの声がかけられた。
「どうしたの、斉藤さん?」
「わ、わたしのお弁当で良ければあげるよ?」
少し顔を赤くしながらも、斉藤さんも申し出てくれた。
確かに斉藤さんからはいつもおかずを貰っているし、俺が食べる事を見越して少し多めに作ってくれている節がある。
いつもその好意に甘えているのだが。
上目遣いに俺を見ながら斉藤さんは続ける。
「いつもみたいに、いっぱい食べて……?」
「ぉ、おう……」
ごめんなさい。
弁当のことだとはきちんと理解しているんです。
だけどさ、言い方とか言葉選びとか表情とかさ、邪推したくなる感じはやめてくださいよ。
鎮まれ煩悩。
ぐうエロかわいい。
「今日はおにぎりだから食べやすいよ!」
俺の煩悩は露知らず斉藤さんは弁当を広げてくれた。
「えへへ、いつもの沢良木君と同じくおにぎりにしてみたんだぁ」
斉藤さんが取り出したのは可愛らしいサイズの俵形のおむすびだった。
その一つを俺に手渡してくれた。
「あ、ありがとう……」
何も言う間もなく渡されてしまった。
最早昼飯を賄って貰う前提の雰囲気になってるじゃんね。
「……っ! そ、それじゃあ、あたしのおかずも分けるからね! 宗君食べてくれるよね?」
おにぎりを手渡される俺へ真澄が慌てた様に捲し立てた。
「ぁ、ああ……」
「けど、あなたのお弁当小さいから沢良木君にあげたら無くなっちゃうんじゃ?」
俺の返事もそこそこに斉藤さんが真澄へと話しかけた。
「あ、あたしはそんなに食べなくても良いし……! そ、それより貴女こそどうなのよ!?」
「わたしは、いつも沢良木君に食べて貰ってるから多めに作ってあるんだよ。だから大丈夫だよ?」
真澄の反論に斉藤さんは、やたらと"いつも"を強調して返していた。
そして、なにやら得意気な表情をしていらっしゃる。
確かにいつもご馳走になってるけどさ。
「っ、宗君、それ本当なの!?」
「ぅおっ!? お、おう?」
突如矛先が俺へと向かって来た。
少し強い口調の真澄に思わずビックリしてしまった。
「し、宗君はその子のお弁当は食べられて、あたしのは食べられないの?」
しかし、それもつかの間。
しゅん、とした表情と声色でそう問う真澄に俺は狼狽えてしまう。
「い、いや、そんな事は無いぞ……?」
「あ……それじゃあ! ほら、好きなの選んで!」
「さ、沢良木君、わたしのおかずも食べてね?」
明るさを取り戻した真澄が弁当箱を開けてくれる横で、斉藤さんもこちらへ弁当箱を差し出してくれた。
り、両方いっぺんにはツラいっす……。
「あー、こらこら。沢良木君が困っているだろ。一回落ち着くんだ。それならお互い同じくらい沢良木君に分けてあげたら良いだろう?」
困り果てる俺へと助け船を出してくれたのは、やはり高畠さんだった。
高畠さんが今は女神に見えるぜ。
ポンコツとか思ってゴメンよ。
「まあ、今日菅野ちゃんの弁当箱は小さいから、愛奈ちゃんのお弁当から多く貰うことになるかもしれないけれどね。だから明日は菅野ちゃんも多めに持ってくれば良いじゃないか。二人で沢良木君の昼食を用意するって訳だ。沢良木君も心おきなくご馳走になれるって寸法さ」
「「なるほど」」
前言撤回だこのやろう。
何こっち見てニヤニヤしてんだよ。
何気に一番楽しんでんの高畠さんじゃねぇの?
クソっ、一瞬でも女神とか思った俺がバカだったよ!
あと、やっぱり二人の猫ちゃん共仲良いんじゃないかな?
「でもそれじゃあ今日は宗君が足りないんじゃない?」
「そこでコレを進呈しようじゃないか」
「おう?」
向かいの高畠さんから受け取ったのは一つのおにぎり。
はて、高畠さんの物だろうか。でも、彼女弁当箱にご飯入ってるしな。
「おいこら唯、俺のじゃねぇか!?」
「あははっ、良いじゃないか一個くらい友達に上げたって」
どうもこのおにぎりは藤島の所有物であったようだ。
彼女ではあるが高畠さんが勝手にくれた物だ。
本当に貰って良いんだろうか?
と、俺が迷っていると。
「……ったく、一個だけだからな? 部活あるから腹減るんだぞ。もうやらないからな!」
「へへぇ、感謝します藤島代官様」
なんだかんだ言いながらも俺へおにぎりをくれた藤島。
そのツンデレな優しさにキュンときちゃう。
と言うか、高畠さんが友達とか言ってたよな? 俺が?
「それじゃあ沢良木君の食糧問題も解決したところで、改めて食べようか」
高畠さんの言葉でようやく昼食タイムが始まったのだった。
お読み頂きありがとうございました。
話があまり進まなくてすいません。
次回もよろしくお願いいたします。




