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第90話 俺って、まさか

結果的に朝の一件は高畠さんの働きによって事なきを得た。


「あ、あー! 愛奈ちゃん、代わりにわたしが行くよ! さあ、行こう!」


「え? だからわたしは沢良木君と……」


「ほらほら! 急がないと間に合わないぞー!!」


「あっ、唯ちゃん!?」


斉藤さんは高畠さんに手を引かれ引き摺られるように教室を出ていった。

必死に俺へ目配せをする高畠さんが印象的だった。

俺は心の中で何度も高畠さんへ礼をした。

高畠さんグッジョブ。


斉藤さんには申し訳ないが、中々緊迫した空気だったからな。

後で埋め合わせをしよう、と俺は考えるのだった。




「もうっ、なんなのあの子?」


「あ、あはは……いつもはあんな感じじゃあ無いんだけどな……」


立ち去った斉藤さんへ不平を漏らす真澄に俺はフォローする。

斉藤さんを勘違いして欲しくはない。


「斉藤さんは凄く良い子だよ」


斉藤さんも真澄も俺の大切な友達だ。

是非仲良くやって欲しいと思う。


しかし、突然真澄に対して冷たく当たった斉藤さんには驚いてしまった。

これまで接してきた姿からはまず想像出来ない様子だった。

ますみんが好きじゃないのだろうか。

いや、そうだとしてもあんな行動を取る子じゃない。

初めて見た斉藤さんの様子に俺は内心驚き、首を傾げざるをえなかった。


真澄に斉藤さんの天使具合を説明するにもあの直後では中々心苦しいところ。


「……ふぅん?」


俺の言葉を聞くと真澄は目を細めた。

納得したのかしていないのか、二人が去った扉を見据え頷くだけだった。


真澄の転校初日は波乱から始まったのだった。






「ねえ、沢良木君?」


「ん? どうかした?」


「うん、ここなんだけど」


そう言って斉藤さんはノートを指す。

今は問題の解答時間。

この教師は煩くしなければ多少の相談等は多目に見てくれるタイプ。

斉藤さんもそれを承知で俺に聞いてきていた。


「ああ、ここはこっちを先に計算して……ほら」


「あ、そっか! ありがとう!」


「どういたしまして」


嬉しそうにする天使に俺も笑顔で返した。

だけど。


「ね、ねえ、沢良木君……?」


「う、うん、何かな?」


「えっと、ここなんだけど」


なんだかあからさまに質問をしてきている様に感じるのは、気のせいでしょうか。

それに心なしか机もこっちに近いような。


聞いてくれるのは嬉しいのだが、正直斉藤さんならば解けるレベルだと思うんだけどなぁ。

どうしたんだろう。


「……貴女、そんなに聞いたら宗君が集中出来ないでしょ?」


そんな斉藤さんに苦言を呈したのは反対隣の真澄。


「ぅ……それは……」


斉藤さんは言い返せないのか黙ってしまった。

その様子に真澄はどこか誇らしげで。

俺は二人の様子にげんなりしてしまう。


ま、また、始まった……。



「沢良木君、ごめんなさい……」


「だ、大丈夫だから。現にもう終わってるからさ。いつでも聞いてよ」


しゅん、とした様子の斉藤さんに俺は慌ててフォローする。質問されることには何も問題ないのだ。

あるとすれば今日何度も繰り返された、この……。


俺の言葉で斉藤さんの表情に明るさが戻ったと思いきや。


「あ、そうなの? じゃあ、宗君あたしにも教えてよー。ほら、こことか分かんなくてさー」


「あぁっ!?」


机を既にくっつけている真澄が更に俺へ身を寄せた。

ノートを広げ問題を指し示す。

流石に真澄の行動が大胆すぎるので、それを咎める。


「近いっての!」


「そ、そうだよっ!」


俺と同調するように、何故か斉藤さんも真澄を咎めていた。


真澄の密着具合に、マンションの一件を思い出す。

最早授業中の態度ではないと思うが、真澄は気にした様子も無く。


「良いじゃん良いじゃん! ほら、ここ教えてよ!」


「わ、分かったから!」


「ぅ、うぅぅぅ……」


このままでは埒が明きそうにないので、結局俺が折れる事になった。

隣の斉藤さんはなんだか恨めしそうな視線を真澄に向けていた。

普段の俺ならジト目天使可愛いとか絶対思ってる。

状況が状況なので精神的余裕が無いのだけれど……。


真澄は教科書が無いため俺に机をくっつけて授業を受けていた。

本来真澄は既に教科書を持っている。

と言うか前の学校も普通校であったため、教科書に違いは無かったそうだ。

しかし、この元アイドル様、教科書を一切合切忘れて来たと言う。

なので、机をくっつけて授業を受けるという措置が取られていた。


最初でこそ羨ましそうに妬みの視線をくれていたクラスメイトも今では生暖かい視線に総変わりである。

実に仲の良いクラスである。

こんちくしょう。


「あ、わ、わたしも教えてください!」


何故か敬語になった斉藤さんは俺の方へと机を更に寄せた。

そんなに真澄と張り合わなくても良いじゃんね、とは言えないけどさ。

おいそこヘタレとか言うな。


「宗君早くー!」


「沢良木君?」


うぐぅ……。

美少女達にステレオで攻められている。

最初は、なにこれご褒美? とか考えていた俺も居ましたよ。

だけど、もう、勘弁してください。


……そう。

もう既にこんなやり取りを何度行っている二人なのである。

授業や休み時間の度に謎のバトルが繰り広げられていた。


「さ、沢良木君、もう少し静かにお願いしますね?」


「あ、はい、すいません……」


そして、何故か先生から注意を受ける俺。

納得いかんよ。


これ程に嬉しくない両手に花は未だ嘗てあっただろうか。否、あるわけがないだろ。

心なしかお腹も痛くなってきた気がするよ。


い、胃薬飲もうかな……。


そんな事を俺は内心ぼやくのだった。




再び休み時間になった。

教室の外は随分と騒がしくなっている。

それもそうだろう。

1年2組に元アイドルが転校してきたのだ。その噂は瞬く間に広がり、ますみんを一目見ようと1年生から3年生まで様々な生徒がウチのクラスの前へと詰めかけていた。


そのますみんは、と言うと。


ようやくクラスの連中に囲まれていた。

休み時間の度に俺の元へ来るものだからクラスの連中も真澄と会話する機会が持てていなかった。

しかも、俺の元へ行く度金髪の天使とひと悶着起こすものだから、尚更周りも声をかけられなかったのだろう。


斉藤さんも真澄も何故だかお互いに必要以上に反発するというか。

間近で見ていて気が気では無かった。


この休み時間、俺は一目散にトイレへと旅立ったのでようやく真澄が捕まったのだろう。

教室を出る際、「お、逃げた」「逃げたぞ」「あー、逃げた」とか聞こえたのは気のせいだと思うんだ。

逃げてねぇよ、生理現象だこんちくしょう。


トイレから戻って来ると、人だかりが凄くて教室に入るのも結構大変だった。

知らない女子に呼び止められるわ、昼誘われるわ、名前聞かれるわ。結局教室に入るまで5分もかかってしまった。

あんたらますみん見に来たんじゃねぇの? と言いたくて仕方なかった。

腹いせに、「藤島だ」と名乗ったのは内緒だよん。



何とか教室に入ると真澄の周りに人だかりが出来ていたと言う訳だ。

俺の席も人だかりに呑まれ、戻ることは出来なさそう。あの中に特攻するとかそんな罰ゲームは絶対御免だ。


どうしようかと視線を巡らす。

皆さんお忘れかも知れないが、俺には斉藤さんと真澄しか友達が居ないのだ。他で時間を潰そうにも居場所が無いのさ。ぐすん。


真澄が囲まれていると言うことは、自ずと金髪の天使を探すことになって。

しかし。


「居ない」


教室を探せども煌めく髪色は見つけられなかった。


「おう、こんな所で何やってんだ色男」


立ち尽くす俺に話かけてきたのは藤島だった。

このクラスで普通に話せる数少ない野郎だ。

もしかしたら、藤島も友達が居ないのだろうか。

先程の腹いせをしたことに、チクリと胸が……。


痛くならなかった。


「何って、席に帰れなくて途方に暮れていたんだが。……てか色男って何だ?」


「そのまんまだろ。美少女二人に囲まれて幸せそうじゃねえか。……しかし、ますみんと知り合いだとはなぁ」


「勘弁してください。お願いします。マジで。切実に。助けてください。お願いします。あと胃薬ください」


「……ひ、必死だな。胃薬は持ってねぇわ、悪い」


藤島は俺の必死な様子に若干引いていた。


「あの間に挟まれてみろってんだ。地獄だぞ。……俺は仲良くして欲しいんだが」


「うーん、難しいかもなぁ」


「何でだよ」


「……お前がそれを言うのかよ」


理解出来ないとでも言うようにため息を吐いた藤島だった。


とりあえず俺は藤島の席に避難することにした。

持ち主が不在で空いている席へ腰かける。


「そういや斉藤さんが居ないんだけど、知らない?」


「知らねー」


「さいですか」


大して期待はせずに藤島聞いてみたが想像通りだった。


と、そこへ俺達の耳に黄色い声が聞こえてきた。

キャーキャーと聞こえるその場所は真澄の周りに出来た人だかり。

先ほどは気付かなかったが、よくよく見ると人だかりら殆どが女子のようだった。


「何だ?」


「さあ?」


外から見ている俺と藤島にはどんな話で盛り上がっているのか分からなかった。


「なんかお前見られてね?」


「……何故だ」


藤島の言う通り、チラリチラリとこちらを伺う女子生徒が見受けられる。

俺と目が合った瞬間に逸らされるが。


「悪口でも言われてんのかな。俺のガラスのハートにヒビが入っちまうぜ……」


「防弾ガラスのな」


だから、本当になんなの。

俺に何の恨みがあるの。ねえ。


藤島を睨むが何処吹く風といった感じである。


再び人だかりに視線を向けると、その隙間から先程から探していた金髪が見えた。

なんだ、普通に居るじゃん斉藤さん。


「斉藤居るじゃねえか」


藤島も同じく見つけたようだ。

自分の席に座っていた模様。


「斉藤さん大丈夫だろうか」


輪の中に居る斉藤さんを見ていたら、ついそんな言葉が口をついて出た。

それを聞いて藤島がため息を吐く。


「前から思ってたけどさ、お前過保護じゃねぇの?」


「何を言う。斉藤さんはマジで保護対象なんだぞ」


最近の斉藤さんならば大丈夫だとは思うが、あんなにも囲まれて涙目になって居ないだろうか。

涙目になってプルプル震える斉藤さんぐうかわ。


「いや、意味分かんねえから……」


本当に残念イケメンだよな、と藤島は再びため息を吐くとぼやいた。

失礼なヤツだな。

斉藤さんのラブリー天使具合を理解していないからそんなことを言えるのだ。

その目は恋人高畠さんを追うので一杯なのだろう。

これだからリア充は……。


リア充は……いや待てよ?


俺もワンダフルぷりちーエンジェル斉藤さんと仲良くしているし、お手製お弁当だって一緒に食べている。

あまつさえ夏休みには水族館デートだってしたのだ。

そして、毎日の様に天使の笑顔を拝んでいる。


……なんと言うことだ。


俺って、まさか……。


リ ア 充 ?


こんな至極当然な事実に今更気付くとは。

俺はなんて愚かなんだ。

そして、なんて幸せだったのだ。


「……どうした? 突然黙り込んで」


「いやなに。俺が如何に恵まれていたのかを噛み締めていたのさ……」


「……よく分からんが、沢良木は平常運転ってことは分かった」


俺もよく分からんが、バカにされてるのは分かった。










お読み頂きありがとうございました。


リ ア 充 沢 良 木 君 (´Д`)


次回もよろしくお願いいたします。

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