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第81話 敬語卒業

図書室でいつもの席に腰かけたわたし達は今日のテストの問題用紙を広げています。

試験が行われた順番でいこう、と決まり早速数学から広げています。


「それじゃ、俺が読むから斉藤さんは自分の解答を見て、正誤を確認してね。違うのがあれば教えてくれ。」


宗君が自分の書いた解答を読み上げ、それを元にわたしは自分の解答をチェックする流れで進めます。

二人であれだけ勉強をしたのだから、大体は合っているだろうという前提で、もし二人の解答がずれた問題があれば改めて二人で確認しよう、となりました。


すらすらと宗君が読み上げ、わたしは丸を付けていきます。


「あ、わたしの答え違います」


順調に丸を付けていたところで、答えが違う問題が。


「ん、どう計算したの?」


「これなんですけど……」


わたしが指差した問題を覗くように宗君がこちらに身を乗り出します。

つまり、宗君とわたしの距離がすごく近くなる事になって。


ぁぅ……。


宗君が近くて恥ずかしくなります……。


宗君の横顔が間近にあります。

長い髪でだいぶ顔が隠れてしまっていますが、チラリと見える切れ長の瞳にドキっとしますね。

あ、意外と睫毛が長いんですね……。


「あー、惜しいね」


「へ?」


「ここの計算ミスだ。惜しかったよ」


宗君の言葉で現実に戻ります。

気付けば宗君の横顔をじっと見つめていました。

そして、宗君から告げられるのは、わたしのミス。


は、恥ずかしい……。

二重で恥ずかしいですよこれ。


「ざ、残念です。さ、続き行きましょう!!」


「おう?」


誤魔化す様に答え合わせを促します。


その後はつつがなく数学の答え合わせを終えました。


そして。


「うわぁ……!」


「やったな」


答え合わせの結果を見て、宗君と二人笑い合います。


「凄いですっ、初めてこんな点数取れました!!!」


「はははっ、嬉しいのは分かるけど、図書室だから静かにね?」


「あぅ、ごめんなさい。……ぇへへ」


宗君に注意されてしまいましたが、それでもテストを見返すと嬉しくなります。


「凄いですっ、88点ですよっ? 凄いです凄いですよっ」


簡単なミスや応用問題を落としてしまったり、間違いはありましたが、それでも9割近い高得点です。

初めて取る高得点にわたしのテンションはいっぱいいっぱいです。


「ふふ、良かったな」


「はいっ……ぁ」


宗君の言葉に頷くと、頭に温かい感触が。

見上げるとわたしの頭を撫でる宗君と目が合いました。


顔は一気に熱く火照ります。


なんで!? なんで!?

と、頭の中が混乱し始めますが、それと同時に中庭での感触も思い出されて。胸が暖かくなります。

考えれば二回も中庭で頭撫でられてますよね。


「ぁ、あっ、あのっ……」


「……あ、悪いっ」


「ぁ………………いえ……」


わたしの声に宗君の手が頭から離れます。

離れて行った温もりについ声が溢れてしまいます。

残念です。


……いやいやっ、残念ってなんですか!?

ホントなんですかね、もうっ。





「……あ、もうこんな時間か」


「うん? あ、本当ですねー。あっという間です」


宗君と二人、図書室で答え合わせが一段落したところ。宗君が腕時計に視線を向け言いました。

わたしも確認すると時間は16時を過ぎています。


答え合わせに関しては数学、国語、英語の3教科まで終えました。

数学を始め、どの教科も並んで高得点を取ることが出来、わたしはほくほくです。


「沢良木君はバイトでしたよね?」


「ああ。申し訳ないんだけど、今日はここまでかな」


「いえ、わたしこそ無理言ってごめんなさい。一緒に答え合わせしてくれてありがとうございました!」


「こちらこそ」


二人で笑い合って図書室の答え合わせを締め括るのでした。




「それじゃ、帰ろうか」


「はいっ」


片付けを終え荷物をまとめ、宗君とわたしは図書室を出ました。

二人並んで昇降口へ校内を歩きます。

宗君と今日のテストについて色々とお話をしながら歩いていると不意にわたしを呼ぶ声が聞こえました。


「お、愛奈ちゃんと沢良木君! 今帰りかい?」


振り向くとそこにはバスケのユニフォーム姿の唯ちゃんがいました。その手には何かのプリントを持っています。


「あ、唯ちゃん! うん、そうだよー。沢良木君とテストの答え合わせをしてたんだ」


「て、テスト? あー、あー。聞こえない聞きたくない聞かせないでー!」


わざとらしく耳に手を当て首を振る唯ちゃんに笑ってしまいます。


「ぷっふふ、あははっ、オーバーだよぉ」


「うぅー。だってなぁ? テストが返ってくるのが恐ろしいよ。二人みたいにテストが終わってその日にまた勉強だなんて、そんな酔狂な事は私には出来ないよ」


「そ、そうかな?」


唯ちゃんの言葉に何故かドキリと胸が跳ねます。


……いえ、理由くらいわかっています。

自覚したばかりですし……。


「そうとも。でも、その様子だと結構良い点数だったんじゃない?」


「あ、わかる?」


「あはは、謙遜もしないんかい! そりゃ、それだけ嬉しそうにしていればわかるさ。……まぁ、テストは関係無いかもしれないけどね(ボソッ)」


そんなに嬉しそうにしてますかね?

頬をぐにぐにと両手で動かします。


「ほぅかなぁー?」


「……愛奈ちゃん可愛い(ボソッ)」


「……可愛い(ボソッ)」


「んー?」


「「いや、なんでも」」


「?」


自分では分からないので諦めるとします。

唯ちゃんが言うならそうなのかもしれませんしね!


「そう言えば唯ちゃんはここで何を?」


「あっ! 職員室に行くところだったんだよ! それじゃ、二人ともまたな!」


唯ちゃんはわたしの言葉にはっとすると、手に持つプリントをヒラヒラと振り職員室の方へと向かって行きました。


「うん、またね!」


「ああ、それじゃ」


わたしと宗君は去る唯ちゃんを見送ると学校を出るのでした。







校門を出て宗君と二人、緩い下りの並木道を歩いています。


この下り坂を降りきった先。

そこで宗君とはお別れです。


宗君は駅へ。わたしは商店街へと。


宗君とお友達になってから、よく一緒に帰るようになりました。

最初はお誘いするのも、引っ込み思案なわたしには一苦労でした。



――さ、沢良木君、一緒に帰りませんか?――


――ああ、良いよ。――


――ありがとうございますっ――


――あはは、そんなお礼なんて言う事じゃないだろ?――


――えへへ――


宗君は優しいから、すぐに良いよ、と言ってくれるんですけどね。



けれど、たったこれだけ。

教室から5分だけの、一緒の帰り道。


一緒に歩くこの道はとても嬉しくて、だけど寂しくて。


楽しい時間は一瞬で。こうやって坂道の終わりが近付いてくる度、胸が切なくなるんです。


わたしにとって、初めてのお友達がとても大切なんだな、と自覚する瞬間でもあります。この切なさはそう言うことなんだと。


わたしはいつもこの胸の切なさに、坂道の終わりが近付くにつれて、言葉が少なくなってしまいます。


もっと、お話していたいのに……。




あ……もう、坂道の終わり、ですね……。


歩みを止めるとわたしは宗君へ向き直ります。


「さわ―――」


「なあ、斉藤さん」


「え?」


わたしの別れを告げるはずの言葉は宗君に遮られてしまいます。

どうかしたの、とわたしは首を傾げます。


「えっと、あ、のさ」


「どうかしました?」


歯切れの悪い宗君に更に首を傾げます。

彼が口ごもる事なんて珍しいので何だか不思議です。


「その…………敬語、なんだけどさ」


「敬語、ですか?」


「ああ、敬語。斉藤さんは高畠さんと喋る時は普通に喋るだろ?」


「えっと、はい、そうですね?」


確かに宗君の言う通りです。

唯ちゃんとはタメ口で話しています。

それがどうかしたのでしょうか。


「つまり、だな。……俺も斉藤さんと友達になって結構経つし、その、斉藤さんと仲良くなれた気がするんだよ。だから、斉藤さんさえ良ければ……」


それって……。


「敬語をやめて、普通に喋って欲しいかな、なんて」


恥ずかしそうに視線を逸らす宗君の言葉が、徐々に胸に染みていきます。


それはいつも思っていたこと。

そうできたら良いなって。

思ってはいたけれど。


「あっ、そのっ、それはっ! ごめんなさいっ!」


「あ……そっか。無理なら、いいんだ」


「ち、違いますよっ!!!」


わたしの言葉足らずで勘違いをさせてしまった宗君の表情に慌てて訂正します。

ごめんなさい、はそう言う意味じゃなくて!


「へ?」


わたしは大きく深呼吸すると宗君を見つめます。そして、ずっと心に思っていた事を彼に伝えます。


「あ……の、ね? わ、わたし、も、普通にお喋り、したかったの……」


つっかえながらでしたが、なんとか言えました。

やっと言えた、その嬉しさに笑みが溢れます。


「……ああ」


「えへへ、タイミング分からなくて」


「そっか」


宗君の顔を見れば優しく、だけど嬉しそうに笑っていたのが印象的で。


「これから、よろしく、ね?」


「ああ、よろしく」


寂しかった心には温かいものが溢れていて。


「沢良木君、また明日! それじゃあねっ!!」


「うん、また明日な」


宗君へ手を降るとわたしは走り出します。お家へと。

帰り道はもう寂しくありませんでした。


振り返ると、宗君はまだわたしを見送ってくれていて。それが嬉しくて、わたしは再び手を振ります。

手を振り返してくれた宗君に満足すると、今度こそ家へ急ぐのでした。




こうして、今日わたしは敬語を卒業したのです。








お読み頂きありがとうございました。


敬語を卒業した背景はこんな感じでした。

沢良木君ラブな斉藤さんではありますが、まだ自覚出来ておりません。斉恵亭へ沢良木君が訪問した夜、ようやく恋心を自覚するのでした。


すいません、あと一話あります。お付き合いください(´Д`)

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