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第78話 大切の意味

本日2話目。

よろしくお願いいたします。

ラフスケッチに挿し絵を追加してみました。良かったらご覧ください。






昼休み。

昼食を食べ終えた俺と斉藤さんは早々に教室へと戻って来た。

教室で勉強するためだ。

二人揃って机に向かっているが、斉藤さんの机には何も置かれていない。

俺は手元の参考書へ視線を落とした後、斉藤さんへと向き直る。


「それじゃ、等加速度直線運動の公式、時刻での公式は?」


「んー……」


斉藤さんは少し考える様に首を捻る。

今は理科のテスト範囲で一問一答していた。

物理の単位になる。


「あっ、v=v0+at!」


「うん、正解」


頷く俺に斉藤さんは嬉しそうに微笑む。

この調子で何も見ずに答えられる様であれば本番でも期待出来るだろう。


「他の2公式も答えられる?」


「大丈夫ですっ。えっと……」


少しつっかえながらも無事答える事が出来た。

斉藤さんはどこか誇らしげで、そんな所がとても可愛い。

その後も何問か問いかけても斉藤さんはしっかりと答える事が出来た。

安心してテスト当日を迎えられそうだ。


「愛奈ちゃん、テスト勉強?」


「あ、唯ちゃん」


勉強を続ける俺らの元へ訪れたのは高畠さん。


「今日も沢良木君に教えて貰っていたんだよ」


「ほぅほぅ。相変わらず仲が良いようで」


恥ずかしそうに笑う斉藤さんとニヤニヤと笑う高畠さん。

斉藤さんは高畠さんのニヤケ顔に気付かないのか続ける。


「沢良木君に毎日教えて貰ってるから、期末テストは自信あるんだよ! えへへ」


尚もニコニコとする斉藤さんに高畠さんも毒気を抜かれたのか苦笑いになった。


「へいへい、ご馳走さま。……でも、良かったね」


「うんっ」


嬉しそうに笑い合う少女達だった。


「唯ちゃんは調子どう?」


斉藤さんは高畠さんにも同じく問いかけた。


「あ、わ、私? あ、あはは、大丈夫さ。うん、大丈夫」


「?」


高畠さんは斉藤さんの質問にあからさまに視線を逸らした。斉藤さんはそんな様子に小首を傾げる。


「高畠さん……」


分かりやすいその様子に俺は察してしまう。


「ああ、コイツ今回のテスト壊滅的だと思うぞ」


答えは予想外な所からやって来た。

一同は声の主へと視線を向ける。


「だ、ダーリン!? 何言ってるのかなぁ!!」


「ふ、藤島君?」


そこには高畠さんの彼氏である藤島が居た。

会話を聞いて高畠さんの代わりに答えたようだ。

高畠さんからすれば良い迷惑だったようだが。


「おう。だって唯テスト勉強してないしな。毎日バスケしてるわ」


「バスケ? え、でもテスト期間だから部活は休みじゃ?」


藤島の言葉に斉藤さんは疑問を投げ掛ける。

高畠さんはその疑問に再び視線を逸らし、乾いた笑いをあげる。


「あ、あはは……」


「市営の体育館で自主練。しかも、夜は俺ん家でゲームしてるし。俺の勉強の邪魔ばっかするんだよ。斉藤なんとかしてくれ」


「わ、わたし?」


「あー! ダーリンってば人聞きの悪い事ばっか言わない! そ、そう! 家ではちゃんとやってるんだ!」


「いや、帰ったらすぐに寝てるだろ。部屋の電気すぐに消えてるのは知ってる」


「ぐ、ぐぅ……」


藤島の言い方からすると家が隣で幼なじみと言うことだろうか。

随分と正統派幼なじみやってるんだな。凄いわ。


「ゆ、唯ちゃん……」


斉藤さんも高畠さんの惨状に言葉を失っているようだ。


「だ、大丈夫っ、私はまだ本気出してないだけだから!」


「「「……」」」


それぞれの沈黙が高畠さんに突き刺さった。

高畠さんってしっかりとしているようで、案外ポンコツなのかもしれない。

高畠さんは項垂れながら斉藤さんへとすがった。


「勉強に混ぜてくださいぃ……」


「ふふっ、うん、一緒にやろう? あの、沢良木君……」


「ああ、もちろん」


斉藤さんの問い掛ける視線へ俺は頷いた。

そして笑顔が咲く。


斉藤さんのお願いを俺が断る筈が無いでしょう。

天使からのお願いとかご褒美です。


「お、それじゃ俺も便乗させて貰っていいか?」


「別に構わないぞ」


俺は藤島にも頷く。

藤島の勉強の出来は知らないが高畠さん程と言う訳では無いだろう。

もし教えるとして野郎では気が進まないが高畠さんとセットだから仕方がない。


人数が倍になった昼休みの勉強会は着々と進んでいった。

いつも通り斉藤さんへ俺が教え、斉藤さんは高畠さんへ教えていた。藤島から俺へ質問されることもあった。


少し騒がしい勉強会ではあったが、斉藤さんがとても楽しそうに勉強する姿に俺は満足するのだった。




「そう言えば、何で沢良木君の机割れてるんですか?」


昼休みも残すところ10分と言う頃、きりも良いので勉強を終え、皆で参考書を片付けていると斉藤さんに俺は話しかけられた。

先週から気になってたんです、と斉藤さんが首を傾げる。

その問いに俺は思わず固まってしまう。

あの日、藤島の机を破壊した俺は自分の机と交換することで藤島に詫びた。先生にも経緯を誤魔化しながら謝罪をした。使用には辛うじて問題無いレベルだったので弁償とまではいかなかった。そこまで新しい机でも無く、予備もあると言う話に胸を撫で下ろした。調べると一万前後で購入出来る様なので、追々は弁償するつもりだ。

優等生を演じているお陰か先生からの叱責は随分と緩いものだった。


しかし、なんと答えたものか……。

そのまま事実を伝えるのでは俺が恥ずかしすぎるし、やろうとしていた事が斉藤さんにバレるのは避けたい所だ。


「あ、えっと……」


「ぷっ、ぷぷ……」


俺が二の句を繋げずにいると高畠さんが堪えきれず、といった様子で吹き出した。

隣の藤島も苦笑いながらも、可笑しそうにしている。


コイツら面白がってやがる。

自業自得なのだが釈然としない。


「ま、まあ、ぶつかったら壊れちゃってさ!」


「え、ええっ!? 机が壊れるぐらいぶつかったの!? 沢良木君大丈夫!? ケガは!?」


俺の適当な言い訳を真に受けた斉藤さんはおろおろと俺を心配しだした。

こんな俺を心配してくれるなんて良い子や。

それと共に良心が苛まれるっ。


「つ、机は倒れて壊れたんだよ、だから俺は大丈夫だよ」


「そ、そっかぁ。良かったぁ」


うう、良い子や。そして胸が痛い。

心底安心した様子の斉藤さんに良心の呵責を感じる俺だった。



―――――――




「ねえねえ愛奈ちゃん」


「唯ちゃん?」


昼休みが間もなく終わる頃、唯ちゃんがわたしの耳元でヒソヒソと声を潜めて話しかけてきました。

どうかしたんでしょうか。


「ふふ、さっき沢良木君は誤魔化してたんだけどねー」


「?」


沢良木君?

どうして宗君がでてくるんだろう?

誤魔化してた?

全く話が読めず首を傾げます。

隣の宗君はトイレに行って今は居ません。


「その机壊したって言っだろ?」


「沢良木君の?」


唯ちゃんが隣を差します。

そこにはヒビが入った宗君の机。


「実はそれ自分で壊しちゃったんだよ」


「え? ぶつかったって」


わたしの言葉に首を振るとニヤニヤとしながら唯ちゃんは続ける。


「先々週に愛奈ちゃんの話を沢良木君が健太に聞いて来たんだよ」


先々週と聞いて少し嫌な思いが沸き上がりますが、それ以上に宗君との会話を思い出し胸は暖かくなります。

それに合点がいきました。

宗君へ話をしたのは唯ちゃん達だったんですね。

でも、それと何が関係あるんでしょうか?


「その時さ、宗君が凄く怒ってね。いやぁ、あれは怖かった!」


「怒った?」


はっはっはっ、と唯ちゃんがわざとらしく笑います。

思い出してか、少し苦笑いが入ってますね。


「そうそう。それで机壊しちゃったんだよ。あれだけ愛奈ちゃんの事で怒るんだ。随分と大切にされてるんだなぁ、って思ったよ!」


「た、大切っ!?」


想像もしていなかった言葉に驚いてしまいます。


「健太と二人でなんとか沢良木君を止めてね。その後は愛奈ちゃんと一緒だったから良かった良かった!」


「宗君が……」


もう既に唯ちゃんの言葉は耳に届いてはいませんでした。


大切。


その言葉が頭の中で繰り返されます。

宗君はいつもわたしに優しくしてくれます。

友達として優しく、そして大切にしてくれていることをわたしは身をもって感じています。

 

だけど、その事実を他の人から言われる事は初めてでした。

その言葉は胸に染み渡って、そして実感するのです。


「えへへ……」


気づけばわたしは笑っていて。

満たされた胸がくすぐったいのです。


「愛奈ちゃん……って、あれまあ随分と幸せそうに笑っちゃってー。仲良いのは分かったからって……聞いてないねぇ」


唯ちゃんが呆れたように優しく微笑んでいる事にも気が付かないのでした。








お読み頂きありがとうございました。

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