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第76話 図書室の勉強会

本日もよろしくお願いいたします。

元の長さに戻りましたw


糖分ですよ糖分。


2018.4.15お詫び

前話(改稿済)での斉藤さんの座席位置が間違えておりました。

今話の隣が正解です。




「沢良木君、ここの問題なんですけど」


「んー? あ、これ?」


「はい、この問題は前章の、えっと……あ、この公式を使えば良いんでしょうか?」


「うん、正解だよ。合ってる」


俺の言葉に斉藤さんは、ぱぁっと顔を輝かせて頷く。

俺もそんな彼女の様子に頬が緩む。


「よしっ……」


斉藤さんは気合いを入れると再びノートへかじりついた。

それを見届けると俺も参考書へ視線を落とした。


放課後。

ここは学校の図書室。

生徒に解放されている学習スペースを使って俺と斉藤さんはテスト勉強をしていた。

中でも俺は斉藤さんに勉強を教える事に注力している。


この図書室は、学校の物としてはそれなりの規模がある。

この学習スペースにしたって36席設置されている。

長方形の机に椅子が6つずつ置かれ、それが6セット。

机も大きく、隣との間隔も余裕をもって利用出来るのだ。

期末テストまでは残す期間も少ない事から、ちらほらとこのスペースを利用する生徒も見受けられる。


ちなみに、俺と斉藤さんは隣り合わせで座っていた。

この大きな机で向かい合わせでは教えるのが難しいし、何より図書室である以上、あまり声は張れない。

そのため、隣り合わせと相成った。

最初は恥ずかしそうにしていた斉藤さんも今ではしっかりと勉強に集中している。


そもそも、いつも隣り合わせだけどね。

そうは思ったが黙っておいた。


「……」


俺は横目に斉藤さんを見る。


「…………ん?」


その視線に気が付いたのか、斉藤さんの視線が俺へ移った。


そして、ニコリ、と花が咲く。


斉藤さんは満足したようにノートへと再び視線を戻すと問題を解き始めた。



…………可愛いくね?


自分の頬が緩んでいるのが容易に分かる。

ううむ、困った。

自分の勉強にてんで集中出来ない。

復習はいつもしているから、そこまで必死にする必要は無い。今も復習の復習くらいの感覚だ。


だが、中庭の一件で斉藤さんの友人たる自分は何なのか、と考え直した時からどうもこの子が可愛く見えて仕方ない。

いや、前から可愛い可愛い思ってはいたが、それに拍車が掛かってきた様に思える。


あの時の悲しみに満ちた表情が一変して、今ではひどく愛らしい笑みを見せてくれる。

そのギャップに俺の心は常にヒールを全力で掛けられている様なもん。

過回復甚だしい。

もうやめて、俺のライフは常に満タンよ。


それに唐突に胸がむず痒くなり、無性に机を殴りたくなるときがある。

どうした俺。


「沢良木君すいません、また教えて貰って良いですか?」


「大丈夫だよ。むしろ沢山聞いてね。そのための勉強会なんだからさ」


カオスな思考の海に落ちていた意識が斉藤さんの声で呼び戻され、彼女へ笑顔をもって答える。


「はい!」


斉藤さんも笑顔を返してくれた。


図書室の勉強会。

これが実現した経緯を思い出す。


それは今日の昼間、例の中庭の一件に遡る。




――――――




「沢良木君にお願いがあるんです!」


斉藤さんの涙は既に止まっている。

泣き腫らした目元は痛々しいが、その表情に悲壮感は感じられない。

さっきまでとは違う、どこか決意めいた物を感じる瞳だった。


ぎゅっと両手を組み、俺を見つめる斉藤さんへ頷く。


「わたし……皆を見返したいんです!」


見返す。

誰とは問わずとも、クラスの連中だろう。

特に諸悪の根源、松井達か。


その言葉に俺の心は再び黒く染まっていく。

この子を先程のように泣かせる者に対する怒りが、胸の奥で燻る憤りが再燃する。

高畠さんに指摘されたことも忘れ、俺の意識はどんな手で松井達を嬲ろうかということに黒く移っていく。

やはり許せんよ……。


しかし。


「て、テストで見返したいんです!」


……て、テスト?


俺の頭は予想の外側の答えに理解が追い付かなかった。

内心混乱する俺を他所に斉藤さんは続ける。


「わたしは頭が悪くて、その、ば、馬鹿だから、テストだって良い点を取れませんでした」


入試も多分ギリギリで、と伏し目がちに斉藤さんは語る。


「だけど、最近沢良木君に勉強を教わるようになって、少しずつですけど、勉強が分かる様になってきたんです。楽しく、なってきたんです」


そう言いながら、伏せていた瞳をそっと上げた。

そして俺と目が合う。いや、斉藤さん自ら合わせてきた。


その瞳にドキリとする。

自意識過剰かもしれないが、その瞳には感謝の気持ちが籠められているような気がしたのだ。


勉強が楽しくなってきた、か。

そう言って貰えると、教えた立場からすればとても嬉しい事だ。

初めて感じる感情に胸の奥がどこかこそばゆい。

松井達に感じていた黒い感情は図らずとも溶け消えていっていた。


「そう、言って貰えると嬉しいよ」


気が付けば俺は自然な笑みを返していた。

しかし、今の話からお願いと言うと……。


「そ、それで、ですね? 普段も教えて貰っている上で、厚かましいのですが……」


「いいよ」


「ふぇ?」


俺は斉藤さんが全て言い切る前に"お願い"に対する答えを口にした。


「テスト勉強だろ? 良いよ、一緒にやろうか」


「ぁ……」


目前に天使の笑みが広がる。

うん、可愛い。


しかし、俺は一つ訂正しなくてはならない。


「ただ、斉藤さんの言っている事には一つ間違いがあるぞ」


「え? 間、違いですか?」


突然の言葉に斉藤さんはきょとんとした。


「ああ」


頷く俺に斉藤さんは首を捻る。

全く検討がつかないようだ。

俺は俺自身が感じている事を斉藤さんへ伝える。


「斉藤さんはな、決して馬鹿、なんかじゃない」


「……え?」


「斉藤さんは自分に合った勉強法が分かっていなかっただけじゃないかな」


驚いた表情をする斉藤さんを横目に俺は続ける。


「現に、最近は分かってきた、楽しくなってきたって言ってたじゃないか。勉強で楽しいって事は凄く大事だと思うんだ。俺が教えた所だってしっかりと理解していることを俺はちゃんと分かっているよ。斉藤さんが沢山頑張っていることも。どうか自分を卑下するようなことは言わないで欲しい」


「ぁ、ぁの、わ、たし……」


こちらを見つめたままだった斉藤さんは徐々に顔を赤くしていった、顔が真っ赤になった頃には視線を逸らしてしまった。


好き勝手言う俺に怒ってしまっただろうか。

しかし、俺はどうしても訂正したかった。

斉藤さんは決して馬鹿なんかじゃない。

彼女自身が言ったことだとしても許せなかった。そんなことを言って欲しくなかった。


「勝手言ってごめんね。だけど、本心だから」


「ぁ、ぅ、あぅ……さ、沢良木、君……ありがとぅ……」


胸元でわたわたと手を動かす斉藤さんは上目遣いになると、そうお礼を言った。


その姿にドキリとするが、努めて気にしないように俺はかぶりを振る。


「お礼を言われるような事じゃないよ。俺も出来る限り協力する。テスト勉強一緒に頑張ろう」


「うんっ」


「皆を見返してやろうぜ」


「うんっ!!!」


それはまるで満開の花畑。


元気一杯になった天使は最高に可愛かった。





きゅぅ。


そんな可愛らしい音が俺の耳に届いた。

音のした方、斉藤さんの方へ視線を向けると。


「……………」


それはもう、死ぬほど顔を真っ赤にした天使がいらっしゃった。


うん、俺は何も聞いて無いよ。

可愛らしいお腹の音なんて聞いてないよ、うん。



……可愛くね?


頭撫でたくなる可愛さ天使斉藤さん。


恥ずかしがっているその頭をなでなでしたい。

そして、更に赤面させたい。

さっきもなでなでしたけど、それとは違うんだ。

そう、この感情は小動物を愛でるときのそれだ。



ぐぅうぅぅうー。



あ。


これは恥ずい。

次は不肖わたくしめのストマックが鳴りやした。


だってしょうがないじゃないの。

俺も食べてないんだもん。

今になって、昼休みナウだってことを思い出したわ。


しかし、こうも違うか。

天使のお腹の音はあんなに可愛らしかったのに、俺の胃ときたらなんだよ!!!

こんちくしょう!!!


可愛いよ斉藤さん、天使可愛い。


「あ、あはは。まだ、昼飯食べてなくてさ、お腹なっちまった」


「え、えへへへ、わ、わたしも、ですぅ……」


恥ずかしそうな天使マジぐうかわ。


……現実に戻ろう。


現実問題、既に昼休みは大半を過ぎている。

購買へ行く時間は無いし、そもそも残ってないと思う。


どうしたものか、と頭を悩ませていると隣の天使からお声が掛かった。


「ごめんなさい、わたしのせいで……。その、良かったら、一緒に食べませんか? お弁当」


斉藤さんはそう言うと、傍らに置いていた弁当箱をこちらへ差し出した。


「いいの?」


「はい、卵焼きも入ってますよ……?」


はにかむ笑顔にキュンとしちゃうじゃない。

本当にマジ可愛いわ。

死にたい。


「それじゃ、お言葉に甘えて頂こうかな?」


「はいっ、どうぞ!」



昼休みの時間を目一杯使って、俺と斉藤さんは小さな弁当を二人で分けて食べた。

箸を使ってくれと言う斉藤さんだったが、俺はそれを全力で固辞した。さすがに斉藤さんへ手で食えとは言えまい。

斉藤さんは箸で、俺は手で(行儀悪いけど仕方ない)、お弁当に舌鼓を打った。


朝にぼーっとして失敗したと言う、少し焦げた甘い卵焼きは、それでも最高に美味しかった。



ごちそうさまでした。









お読み頂きありがとうございました。


斉恵亭訪問後に斉藤さんは恋心を自覚しましたが、こう言う出来事の積み重ねで落ちてしまったんですね。

無自覚の"たらし"が…。

沢良木君はここから本格的にデレるのです。


※"頭撫でたくなる可愛さ天使斉藤さん"使わせて頂きやしたぁ!!(今さらですがw)

なるき様、ありがとうございました。


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