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第74話 友達の居ない二人は 後編

本日もよろしくお願いいたします。

後編です。








宗君のチームの決勝戦が始まりました。

先程同様にお調子者達(こんな呼び方でいいのかな?)がテンポよく攻め立てます。

しかし、それはつかの間。少しするとあっという間に崩されました。


相手チームにもバスケ部の男子が居たのです。

暗黙の了解なのかバスケ部は点を決めに行かないみたいでした。それでか相手バスケ部男子は守りに徹しています。こちらの唯ちゃんもバスケ部ですが、点を入れられないのは同じです。お調子者達も思うようにプレーが出来ず苛立っているようでした。


お互いに点を取れないまま残り時間は1分を切りました。

相変わらず宗君はパス中心です。


シュート見たいって言ったのになぁ……。

少し残念です。


そうこうしている内に相手チームに一点取られてしまいました。

なんだか宗君チームの空気が負けムードになっている感じがします。端から見ても動きが悪くなりました。


○○頑張ってー!

○○行けー!


周りでは応援が飛び交っています。


「……」


わたしだって本当は応援はしたいです。

でも、この場で皆みたいに声を上げて応援する勇気はありません。

手を握りしめ、せめても心の中で応援しました。


宗君だけを見つめて。


残り時間は後僅か。

その時ふと、宗君とわたしの目線が交差しました。

目と目が合って。

わたしは恥ずかしくて視線を反らしそうになったけれど、なんとか堪えて。

声は出せないけれど、口だけを動かして。


頑張って!!!


すると、わたしを見た宗君は困った顔をして頭を掻きました。そしてわたしに微笑むのです。ちょっと意地悪そうに。


「?」


唯ちゃんからのパスが宗君へ渡ります。


「沢良木君っ、任せた!」


宗君の位置はコートのほぼ中央。他のチームメイトよりも少しばかり目指すゴールへ近い位置。

だけど、今まで通りそのまま再びパスをするのかと思って見ていると。


宗君が突然、走り出しました。


「「え?」」


わたしの近くまで来ていた唯ちゃんと声が被りました。


宗君はドリブルで一人二人とクリアし、終いにはバスケ部の男子もかわしてしまいました。

それは、くるりとターンでもするかの様な綺麗なクリアで、わたしの目は釘付けです。


宗君は勢いそのままのにボールを放ちます。


ボールが大きく放物線を描き、試合終了のブザーが聞こえてきます。

綺麗にそして危なげなくボールはネットを潜りました。


スリーポイントシュート。


「嘘つきめ……」


唯ちゃんは苦笑いしているのか、どこか呆れた様な声が聞こえてきます。わたしも思わず声が漏れます。


「すごい……」


こうして宗君のチームは優勝したのです。





「こら、沢良木君あたしに言うこと無いかな?」


「高畠さんお疲れ様。斉藤さんも」


「お疲れ様です! さっきの凄かったです!」


宗君のプレーへの興奮でわたしの声は思わず大きくなってしまいます。

わたしの言葉に宗君が微笑んでくれます。

宗君が約束を守ってくれました。

とても嬉しいのです。

わたしの頬も緩んでしまいます。


「お疲れ、って違うわっ。どう言うことだよさっきのプレーは」


だけど、わたしの横の唯ちゃんは宗君へ食ってかかりました。宗君のプレーがどうかしたのでしょうか。


「入って良かったな」


「とぼけるんじゃ無いよ。未経験者の動きじゃないぞアレは」


ああ、なるほどですね。

確かに宗君はバスケ未経験だとか言ってましたよね。


「そんな経験って程はしてないんだけどな」


「……本当か?」


唯ちゃんは宗君の言葉にまだ半信半疑のようです。

そりゃあ、あんなプレーを見てしまったらそう思っちゃいますよね。


「ああ、中学の授業とかで少しやったくらいだな」


随分昔だよ、そう言う宗君。

一、二年前ですかね?


「はぁー、それが本当なら今直ぐバスケ部に誘いたいくらいだよ」


「気が向いたらね」


「絶対気が向かない人のセリフだろそれは」


唯ちゃんは苦笑いすると、大きなため息をつきました。

わたしも宗君とお話したいので加わってみます。


「沢良木君上手なのにもったいないですね?」


「ありがとう。だけど、バイトとかいろいろあるからさ。部活とかは難しいんだよね」


「バイトじゃ仕方ないですね。でも、シュート見れて良かったです」


「はは、斉藤さんと約束したからね」


宗君はまたイタズラっぽい笑い方をします。

そんな笑い方でも、わたしは何となく嬉しくなるのでした。



わたし達が話しをしている時、ふと視線を感じると周りの人がチラチラとこちらを見ているようでした。


わたしはその視線に思わず身構えてしまいます。

長年染み付いた実に情けない嫌な癖と言いますか。

とにかく視線には敏感になってしまっているんです。


「……」


わたしが少し俯きかけたその時、こちらに集まっていた視線が一斉に途切れました。

目線を上げれば、それは宗君で。

宗君がわたしの間近に立っていたのです。


「ぁ……」


「ホント、仲良いよ君たちは。……他の連中も気になるなら来ればいいのにな」


唯ちゃんは呆れたようにそんなことを言いました。


「それじゃ片付けでもしますか」


宗君の言葉にわたしと唯ちゃんも頷いた。





「ダーリン、災難だったな」


ダーリン?とそちらを見ると唯ちゃんが、先程の試合の対戦相手である男子バスケ部員に話しかけていました。


確かチラリと聞こえた名前が、藤島君だったかな?


「そんな呼び方するな。普通に呼べ普通に」


「別に良いだろ?」


「はぁ、勝手にしてくれ。どうせ言っても聞かないだろ」


「ああ」


唯ちゃんはその藤島君にいい笑顔で笑いかけました。

それだけで、二人がとても仲の良い事が窺えました。


「……沢良木、だっけ?」


「ん? そうだけど」


藤島君は不意に視線をずらすと宗君を見ました。


「なんだ、その……さっきのプレーは良かったな。急だったけど俺でも捌けなかった。前の二人がクリアされた時点では止める自信あったんだけどなぁ」


藤島君は頭を掻きながら苦笑いしていました。

その言葉に宗君も返します。


「俺も行けるとは思わなかったよ」


「良く言うぜ」


藤島君は苦笑いを深くしていました。


「お、ダーリン負け惜しみかい?」


「うるせ。それとやっぱり止めろってその呼び方」


「良いだろ、健、太?」


「うぐ、ぅ……」


二人のやり取りにわたしは堪らず聞いてしまいました。我慢出来ませんでした!


「あ、あの唯ちゃんって、その……」


わたしの目線を感じてか彼女は答えてくれました。


「ん? ああ、あたしと健太は幼なじみでね、今はお付き合いしているんだ」


「やっぱり! そうなんだ! 幼なじみで彼氏って良いですね!」


「ふふ、ありがと」


わたしも並の女の子だったようです。

人の恋愛事情に反応してしまいました。

なんだかこう言うのって、女の子の会話っぽくて楽しいです!


「唯、斉藤と友達だったのか」


わたしと唯ちゃんのやり取りを聞いていた藤島君が不意にそんな言葉を言い放ちました。

友達、その言葉に思わず身がすくんでしまいます。

だけど。


「ああ、さっき友達になったんだ」


「は? さっき?」


友達……。


何気無しに唯ちゃんが応えた言葉が頭で反芻されます。その言葉に胸がじんわりと温かくなりました。


つい最近、宗君から初めて言ってもらえた、とても大切な言葉。


「な? 愛奈ちゃん!」


「ぅ、うん…」


胸があつく、言葉が詰まってしまいました。

わたし、ちゃんと言えましたか?


「へぇ、そうなんか。つか斉藤って周りが言うほど取っ付きにくくないな、って本人の前で失礼だったな」


「健太本当にデリカシーないんだな」


「お前には、言われたくない。……んあ、バスケ部呼ばれてんな。唯行くぞ」


「お、なんだろうな」


「あ、沢良木」


「なんだ?」


「唯にもおそらく言われてるだろうが、もしバスケする気あればいつでも歓迎するからな」 


藤島君は振り返ると宗君に向かってそう言っていました。

だけど、わたしはまだしっかりと顔を上げられずにいて。


「お、ダーリンさすがだな」


「ダーリンやめろ。……それじゃあな」


二人は先生が呼ぶ場所へ駆けて行きました。




「……ぅぅ」


二人が離れた所で、わたしは堪えていた涙が少しだけ溢れてしまいました。

悲しくて涙が出ている訳じゃありません。

嬉しい、涙、ですかね?


ぽん、と頭に優しい感触を感じました。


視線を上げて、目が合うと宗君は微笑みます。


「……えへ」


わたしは頭に乗せられた温かい手に少しの間甘えさせてもらいました。







お読み頂きありがとうございました。


斉藤さんに友達が少しずつ増えます。

一学期の最後、教室で挨拶を交わすようになった子達はこんな感じで出来たんですね。


因みに高畠さんは家が厳しくスマホを持っていません。本人はとても欲しがっていますが。なのでRINE友にはなれず斉藤さんのRINEは家族と宗君のみです。一学期、他の子達とはまだそこまでは、といった距離感。

という補足。


申し訳ありませんが、明日の投稿は出来ないかもしれません_(..)_

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