第73話 友達の居ない二人は 中編 (挿絵)
本日もよろしくお願いいたします。
中編です。
今回は挿し絵が入っておりますので見たくない方はご注意ください。
例の如くシャープペンですが……すいません。
体育の授業はバスケットボールでした。
男女混合チームでトーナメントのようです。一クラスのチーム編成なので、優勝までは数ゲームであっという間です。
宗君と同じチームだったら、と思いましたが、残念ながら別れてしまいました。
わたしのチームは一回戦敗退なので、後は観戦です。
取り立てて得意でもないバスケに加え、チームに友達もいないわたしは何も活躍することなくゲームを終えてしまいました。
未だに宗君以外の友達が居ないわたしは、ポツンと一人観戦です。
ちょっぴり寂しいです。
慣れっこですけどね。
そうこうしている内に、宗君のチームの番になりました。
心のなかで宗君を精一杯応援します。
なんたって心はリアリーダーです。
ふれっふれっ宗くーん!! 頑張ってー!!
……ごめんなさい。
想像なのに想像以上に恥ずかしいので、やっぱり無しでお願いします……。
自分の想像が恥ずかしくて仕方なくなってしまいました……。
わたしが自分の想像に身悶えている内に、試合が始まりました。
気を取り直して観戦しましょう!
「……」
わぁ……驚きました。
宗君やる気がありません!
ただでさえほとんど触らないのに、パスオンリーです。ドリブルもしません。
宗君のカッコいい所が見れるかも、と期待してましたが残念です。と言うより、考えてみれば普段の宗君の目立とうとしない、おとなしい様子からすれば、当然なのかな? と思ったり。背が高いのにもったいないですよね。
しかし、よくよく見ていると宗君のするパスはとても正確でした。動きに無駄がなくて綺麗と言うか、素人目に見ても下手な人のそれとは別物でした。
少し見直しました。実は上手いんじゃないでしょうか?
尚更活躍するところを見たかったですね。
宗君チーム内のちょっとお調子者系の人達が目立った活躍を見せ、あれよあれよと言う間に宗君のチームは勝ってしまいました。
周りの女子はそちらに盛り上がっているようです。
○○カッコ良かったねー!とか。
○○バスケ上手すぎっ!とか。
わたしは沢良木君のダンクシュートが見たいですね!
心の中で加わってみました。
なんか沢良木君なら出来そうな気がします。
背高いですし。
試合を終えた宗君を見ていると同じチームの女の子に話しかけられていました。髪が短く少しボーイッシュな感じのする子です。確かバスケ部だったと思います。
その子は楽しそうに宗君に話しかけ、その背中を叩いています。
「むぅ……」
宗君の表情は見えませんが、なんだかモヤモヤしますね。なんなんですか、もう。
近くまで来たので会話が聞こえて来ます。
「沢良木君、案外キミもやるね!」
「だからなんもしてないよ」
「いや、バスケ部のあたしが言うんだ違わないよ」
バスケ部の子はなんだか盛り上がっていました。
尚も宗君へと楽しそうに話しかけるので、引き続きわたしも耳を傾けました。
「そっちではゴール決めてた男子に騒いでいるけどね、そんなん影の立役者が居てこそさ。キミの上手い立ち回りやパスがあってこそだよ。て言うか沢良木君経験者でしょ?」
「いや? やってないけど」
「ほぁ、それであの立ち回りなのか。もしそうならバスケ部では少しの練習で即戦力だぞ? 入る気はない?」
「言い過ぎだろ。それに残念だけど、バイトとか家の都合で難しいんだよ」
「そうなのか。それは残念だな。もし興味とかあればいつでも声かけてよね!」
「ああ、もしその時はお願いするよ」
二人はわたしの隣に腰かけたので、バスケ部の子に負けない様にわたしも声をかけます。
「さ、沢良木君お疲れ様です」
「斉藤さんもね。ま、俺は何もしてないけどな」
「ううん、パスとか凄く上手でした!」
「そう? ありがとう」
宗君がそう言い、微笑んでくれました。
それだけで何だか満足です。
「目の付け所が違うね斉藤ちゃん! 沢良木君の上手さによく気付いたね!」
「さ、斉藤ちゃん?」
宗君の隣のバスケ部の子に突然話しかけられ困惑してしまいます。当然初めて話す子ですし、なにより、初めての呼び名に反応してしまいました。
「あーごめんごめん。なんて呼べば良いか分かんなくてね、てへり☆」
わたしの疑問にバスケ部の子は茶目っ気たっぷりに笑います。
屈託のない笑みに、悪い人では無いのかな、なんて考えたり。
だけど、それと話す事は別問題な訳でして。
「な、なんでもっ、大丈夫、ですよ?」
ちょっとしどろもどろになってしまったり。
「そう? ってそんなに警戒しないでよ! とって食う訳じゃないんだから」
「そ、そんなことないよ?」
そんなこと言われても緊張してしまいますよ!
伊達に友達居ない歴=年齢やってませんからっ。
筋金入りのぼっちです。
「だってそれー」
そう言いながらバスケ部の子はわたしの手元を指差します。
「え?」
指差す場所に目をやると、わたしは宗君の袖を無意識に掴んでいたのです。
やってしまった事に慌てそうになりますが。
「斉藤さん、大丈夫だよ」
「ぁ、うん……」
優しい声色の宗君に安心してしまうのです。
「へぇ。二人は仲良いんだねぇ?」
バスケ部の子はニヤニヤとわたし達二人を見比べます。
「な、仲……」
他人から見てわたしと宗君が仲良く見えるって事ですか! 何ですかそれ、凄く嬉しいです! ちゃんとお友達の見えるって事じゃないですか! えへへ。
わたしはにやけそうになる表情を堪えるのに必死でした。
「そう?」
「ああ。斉藤ちゃんがあんなに安心して君の隣にいるじゃないか。と言うか沢良木君とは喋ったこと無かったけど、全然取っ付きにくくないな! むしろ話しやすい。なんでみんなの輪に入らないんだ?」
「まあ、苦手なんだよ」
「そうなのか?そうは思わないけど。……それと斉藤ちゃん!」
「は、はいっ!?」
突然振られたのでびっくりしてしまいました。
自分の世界に旅立ってました。
恥ずかしいです。
「斉藤ちゃんって可愛いんだな!」
「……へ?」
唐突にかけられた誉め言葉に間抜けた声を出してしまいました。
いきなりどういう事ですか!?
「言葉そのままの意味だぞ? そんな前髪で顔を隠してはもったいない。良く見ればかなり可愛いじゃないか」
「ぁ、えっ、えと……」
困惑、混乱のただ中にあるわたしは何も言えなくなってしまいます。
前髪について指摘されましたが、確かに伸ばしています。目が隠れるくらいに。多分ですけれど、わたし自身に自信を持てないからだと思います。恥ずかしかったり、わたしなんかが、と考えてしまいます。
「……確かに可愛いよな」
「?」
隣の宗君が何か言ったみたいですけど、周りの喧騒もあって聞き取れませんでした。
首を捻るわたしにバスケ部の子が続けます。
「だが、周りの問題と言うのも分かってはいるんだ」
ニコニコとしていたバスケ部の子でしたが、打って変わって苦い顔になりました。
その様子にわたしは尚も首を捻ります。
「あたしはあまり気にする方ではないのだがな。このクラスの雰囲気ってちょっとアレだろ?」
「……アレ、ですか?」
わたしの疑問にバスケ部の子は苦笑いします。
少し咳払いすると続けました。
「んとだな、排他的というか許容が小さいと言うか。とかく君たちに関しては周りもあまり関わって来なかっただろ」
「……え、と」
「こんな言い方で済まない。だけど、私はそんな空気好きでは無いし本当はイヤだったんだ。だからさ、君たちと話せて嬉しいよ」
バスケ部の子は凄く良い笑顔でそう言いました。そして、申し訳なさそうに頭を掻きます。
「なかなかきっかけが無いと難しくてね」
「わ、わたしも人と話すの、苦手で…声をかけられなくて」
「そうだったのか。それならこれからはあたしから声をかけさせて貰っていいかな?」
「う、うん。ありがとう」
「そんな礼を言われるようなことではないよ。改めてよろしく斉藤ちゃん。あたしは高畠唯だ」
「よ、よろしくお願いします。斉藤愛奈です」
笑いかけてくれた高畠さんに、わたしもぎこちないながらも笑い返しました。
「あー、取り込み中申し訳ないが。俺を挟まないで話せば?」
会話が途切れたタイミングで隣の宗君が私達に言いました。宗君は苦笑いです。
確かにわたし、宗君、高畠さんの順番で座っていたので、宗君を間に置いての会話になっていました。
「お、それは悪かった! 斉藤ちゃん沢良木君に隠れて出てこなかったからな」
「そ、それは、……ごめんなさい高畠さん」
「はは、謝るなよ。あ、それに唯でいいぞ? 私も愛奈ちゃんと呼ばせて貰うからさ!」
どんどん進んでいく会話の内容に正直わたしの頭はパンク寸前です。
こんなまるで"友達"になる、みたいな会話を女の子としたことが無いんですもん。
上手く言葉が出てきません……。
「……おっと、沢良木君」
「ん?」
わたしが上手く言葉を掛けられずにいると、高…唯、ちゃんが何か気付いたように宗君へ話かけました。
「そろそろあたし達の出番だぞ。決勝だ」
「もうか。早いな」
二人は言葉を交わすと立ち上がります。
「5分マッチだからな。沢良木君また期待してるぞ!」
「期待されても困るって……」
言葉を交わしながらコートへ向かう二人へ、わたしは応援しようと慌てて声をかけます
「さ、沢良木ひゅん!」
か、噛んだぁ~!!!
あまりの恥ずかしさに、わたしは堪らず俯きます。
「……可愛い(ぼそっ)」
「愛奈ちゃんかわいい(ぼそっ)」
ああ、もう!
こんなんじゃ応援出来ません!
わたしは恥ずかしさを振り切る様に顔を上げました。
「が、頑張ってください! 沢良木君のシュート見たいです! ゆ、唯ちゃんも頑張って!」
もう勢いに任せてわたしのリクエストまで入れちゃいます!無理かなぁ?
そ、それに、名前呼ぶのって照れますね。
「あ、ああ、それなりに頑張るよ」
「任せて愛奈ちゃん!」
わたしの言葉に応えた二人は、コートへと駆けて行った。
「…………………うぅ」
噛んだ噛んだ噛んだ……。
あぅ、あぅ……。
恥ずかしいです……。
わたしは小さくうずくまって試合を見守る事にしました。
ご覧頂きありがとうございました。
少しずつ斉藤さんはクラスに受け入れられていきます。
まだこの時点では自覚していませんが、沢良木君ラブは揺るぎませんね。
あと、チアっチアな斉藤さんでしたがいかがでしょうか。分かりづらいですがツインテなんです。ツインテ好きです。




