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第72話 友達の居ない二人は 前編

本日もよろしくお願いいたします。

時系列は前話の後、友達になってから数週間といったところ。

前、中、後編の三本だてでお送りします。






待ちに待ったお昼休み。

何でかって?

それはですね……えへへー。


今日のお昼休みは宗君との昼食タイムなのです!


昼食の約束を出来たので午前中はこの時間を楽しみに頑張りました。そりゃもう授業に手が着かない程に!

宗君に注意されましたけどね!

宗君苦笑いしてました!


宗君はお昼にふらっと居なくなることがあるので、毎日はお昼をご一緒できません。とても残念です。


「「いただきます」」


二人の声が聞こえるのは例の如く中庭のベンチです。人が来ないので気兼ね無く休めますし、気兼ね無いのはお喋りするのも同じです。


「沢良木君、おかずどうぞ?」


わたしは隣に腰かけた宗君へ弁当箱を開けて差し出します。

初めてわたしの手料理を食べて貰った時に、美味しいと言って貰った卵焼きが今日も入っています。

あの時に誉めて貰った事が嬉しくて、気が付けば弁当に入れてしまうのです。ついつい量も割り増しです。

お友達が出来るとお弁当も張り切ってしまいますね。

不思議です!


「お、ありがとう。……でも貰うばかりで、返せてないんだよな。俺はおにぎりだしさ」


「ううん、気にしないでください! 元々多目に作っているので!」


「多目……?」


宗君は卵焼きを手に取ってくれました。

その事に嬉しくなり、わたしの頬も緩みます。思っていた事が口をついて出てしまいました。

慌てて首を振ります。


「ぁ、あー! き、きにしないでください! 大丈夫です!」


「あー、うん?」


恥ずかしくて、思わず顔が熱くなります。

何故でしょうか。気にして欲しいけれど、気にして欲しく無いような……。

不思議で難しい乙女心です。


「今日も美味しいね」


「えへ、ありがとうございます」


宗君に誉められると、どうも自然に頬が緩んでしまうんです。

うぅ、締まりませんね。


「斉藤さんの料理はお母さんとかから教えて貰ってるの?」


「はい、そうですね。小さい時から一緒に台所に立って教わってました」


「それでこの腕なんだね。流石だ」


宗君は納得したように頷きます。

また誉められてしまいました!

だけどぉ……。


「そんな誉められると照れちゃいますよ……」


にへらっと自分の顔がニヤけてしまうのが分かります。

ホントに全然締まらないですよ……。

嬉し恥ずかしとはこの事ですかっ。


「……んんっ」


咳払いが聞こえて横目に宗君を見ると、何だかその横顔も少し赤い気がします。

宗君は頬を指で掻くだけで、特に何か言うわけでは無さそうです。

どうしたんでしょうか?


「でも、やっぱりママには勝てないですね……」


宗君は美味しいと言ってくれるけれど、わたしの師匠であるママにはやはり敵わないんです。


「やっぱりそう言うもんなのか」


「はい、ママはわたしの目標なんです」


そう、目標。

ママみたいな素敵なママになることが昔からのわたしの夢です。

残念ながら相手も居ないですけどね……。

なれるんでしょうか、ママ。


「そっか、頑張ってね」


「うん!」


宗君に応援されてしまいました。

これはもう頑張るしかありません!

今から修行して立派なママになります!


……あれ?

ママになることが目標でしたっけ?


「味見ならするから」


そんな事を言って、宗君がイタズラっぽく笑います。


「お願いします!」


わたしもそれに笑い返しました。


今日も楽しいお昼が過ぎていきました。





中庭でお昼を食べ終え、早めに教室へ戻ってきました。

次の時間は体育だったからです。


「あ、沢良木君」


トイレから戻った宗君へわたしは話しかけました。

宗君が居なかった間に先生が連絡に来ていたのでそれを伝えます。


「5時限目の体育は男女合同みたいですよ?」


普段は男女別での授業になるのだけれど、今日は女子側の先生が休みのようで合同との事でした。


「あ、そうなの? 俺が居ないときに?」


「ええ、さっき先生が連絡に来たんです。体育館みたいですね」


「そっか。教えてくれてありがとう」


お礼を言って宗君は微笑みます。


「ぅ、うん……」


これもお友達になってから分かった事ですが、宗君って結構笑うんです。

周りの人と会話している所を見たことが無かったので、こんなに笑う人だとは知りませんでした。


目を見つめる事は出来ませんが、その笑顔にはつい目を惹かれてしまいます。

恥ずかしながらも見てしまいますね。

そして、その度に顔の熱さを自覚するんですけどね。

なんなんですか、もう……。

当の宗君本人は素知らぬ顔ですし。


「何をするんだろうね?」


「ごめんなさい、そこまでは言ってなくて……」


「はは、斉藤さんは悪くないよ。ま、行けばわかるか」


「そうですね。あ、わたし着替えに行って来ますね」


「ああ。それじゃ、体育館で」


「はい」


わたしは着替える為に教室を出ました。





肩身の狭い、女子更衣室の隅っこで着替えを終え、体育館へ到着しました。

既に大多数の生徒が集合していて、仲の良いグループで集まり談笑しているようです。

そんな中でもわたしの目はただ一人を探します。


「……ぁ」


彼を見つけた時、無意識に小さく声が漏れました。

そして、わたしの歩みもそこへ向かうのです。


「沢良木君」


「あ、斉藤さん」


一人壁際で佇む宗君の元に向かうわたしの足はパタパタと駆け出してしまうのでした。





「それでは準備体操を開始します。二人一組になってくださいねー」


授業が始まり教師の号令で各々組を作っていきます。

クラスメイトが思い思いにペアを作っていく中……。


「……やっぱりこうなるよね」


「そう、ですね……」


男女それぞれから溢れ取り残されたわたし達は、自ずと組まざるをえませんでした。

決して嫌ではありません。

だって、わたしのただ一人のお友達です。

殆ど会話もないクラスメイトや、先生と組む事に比べたら、むしろ凄く嬉しいです。

ただ……。


「男女で組になってしまいますが、大丈夫ですか?」


「私は構いませんよ。斉藤さんさえ良ければ」


宗君は教師の問いに答えるとわたしを見た。


「わ、わたしも大丈夫です。沢良木君なら……」


こんな、わたしなんかと組まなくてはいけない宗君に、申し訳なく思うのです。

それに、覆せない身長差と言うのもあります。

多分ですけど、30センチくらいは差があるように思えます。宗君やりずらいでしょうね……。

ちびっこでごめんなさい……。


そうですか、と教師はわたし達の返事を聞くと号令にかかります。

そして、準備体操が始まりました。



――いち、にー、さーん、しー!――


「……んっ……ん」


「……」


……って何これぇ!?

何て言う罰ゲームですか!?

むちゃくちゃ恥ずかしいですよっ!?


宗君とこんなにも密着して、あ、頭がどうにかなりそうです……! 宗君の身体付きが否応なしに伝わってくるんです。細く見える外見とは裏腹に意外にがっちりしていて、筋肉質な身体付きにドキドキしちゃいますっ。


今わたしの顔はゆでダコみたいに顔が赤くなっていることでしょう。


気になりチラリと宗君の顔を伺います。


「……」


な、なんでそんな平然としているんですか……?


自分だけが、こんなにあわてふためいて恥ずかしいです。

それと少しの、これは寂しさ……でしょうか。

魅力無いのかな、わたし……。分かってはいるのですが、現実は辛いですよね。


「……あ、あの斉藤さん?」


少し落ち込むわたしの耳に、宗君の声が聞こえました。


「ぅん?」


「……あ、その。手、いつまで握ってるのかな、って」


「え…………ひゃぁっ!? ご、ごめんなさいっ!」


わたしが一人落ち込んでいる間に、体操はいつの間にか終わり、その時のまま手を握っていたようです。

わたしは慌てて手を離し頭を下げました。

宗君に触れていた手と顔がとても熱いです。

心臓もばくばくと煩いです。

周りのクラスメイトがこちらに気付いていなかった事が幸いでしょうか。

深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着かせます。


「いや、大丈夫だよ。ほら顔上げて、ね?」


宗君がそう言ってくれるので、顔を上げて彼の顔を見ます。

怒っているのではないか、そう考え見上げた宗君の顔は心なしか赤くなっていました。

宗君は視線を逸らすと、頬を人差し指で掻いています。


「……ぁ」


また……、わたしの胸が一つ高鳴ります。

そして、笑みも溢れるのです。


「……えへへ」


「斉藤さんどうかした?」


「えへへ、なんでもないですよ……?」


「?」


気が付くと、何故かわたしはご機嫌でした。










いかがでしたでしょうか?

ネガティブで敬語な斉藤さん可愛くね??とテンション上がりながらプロットに肉付けして書いてました。作者は楽しかったですw


中編もどうぞよろしくです。

次回、挿し絵予定!


もし気に入っていただけましたらブックマークしていただけると嬉しいです。




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