表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/199

第71話 わたしにお友達が出来ました。

本日もよろしくお願いいたします。

※ここからの話は本来であれば、沢良木君が斉藤家へ初訪問する話の前に入れる予定でしたが、作者がプロットを忘れ去り、すっ飛ばした物になります。(なんで忘れてたのかw)ストーリーが進行せず申し訳ありませんが、学校生活の話を主に数話に渡って斉藤さん視点でお送りします。まだ敬語だった頃の斉藤さんや、今ほど距離が近く無く初々しい二人など楽しんで頂けたらと思います。(糖分補給が出来ると思いますw)


第一段は斉藤さんのバックグラウンドをすこし。






……わたしにお友達が出来ました。


この風貌や性格が災いしてか、残念ながら今まで友人と呼べる人がいませんでした。

小さな頃は少し遊ぶ様な近所の子などは居ましたが、人見知りや昔は病弱だった事もあり、遊ぶ機会は徐々に減り終いには無くなりました。

小学生に上がれば友達が沢山出来るよ、と親は言ってくれましたが、大きな集団の中で過ごす上でネックになったのは、"人と違う"ことです。

子供と言うのは純粋で無邪気で。そして、それは時に鋭利な刃物の様に人を、わたしの心を傷付ける。

"人と違う"たったそれだけで十分に疎外の対象になってしまうのです。

イジメが周囲に定着してしまうのも時間の問題でした。


確かに中には声をかけてくれる子も居ました。

でも、心の痛みに苛まれたわたしはそれを受け入れる事が出来ず、心を閉ざしました。

有り体に言えばそれが、人と馴れ合う事を避け高校生になるまで、友人の一人も作れなかったわたしの真実です。


自分を変えようと初めのうちはわたしも考えました。

中学生から高校生へ。

その節目をもって孤独な日々を脱したかった。

しかし、そこは地元。

当然、中学からわたしを知る人達は多かれ少なかれ同じ学校に通うことになる。

結果してわたしは勇気を振り絞ることもせず、過去と同じ轍を踏んでしまうのだった。


鬱々とした学校生活。変わらない日々。

そんなただ中にあった先日。

そんなただ中で見出せた、降って湧いたような喜び。

最初は些細な……いや、わたしにとっては人生を変えたと言っても過言ではないですね。


そう、一欠片のノートの切れ端から始まったのです。





わたしはここ最近何度反芻したか分からない思いに、つい手のひらをギュッと握ってしまう。


わたしにも、遂にお友達が出来たんです……。

し、しかも男の子ですよ……。

驚きです! 人生何が起こるか分かりません!


初めてのお友達が男の子だなんて思いもよりませんでした。ママはわたしが言わずともどこか察している様子で、最近はママも何となく嬉しそう。わたしが家でも機嫌がよかったのかもしれません。友達が出来た事を伝えた時は凄く喜んでくれました。

でも、パパが男の子だと知ったら驚きそうです。

なんだか怒りそうです。

だけど、パパになんて言われようと関係ありません。


わたしは初めて学校が"楽しい"と思えるようになってきたのですから。


教室での授業中。

わたしは今、あることに夢中です。

それは……。


「……(ちらっ)」


隣の席に座る男の子を横目にチラリと盗み見る。

沢良木宗君。

わたしのお友達。

初めて出来たお友達です。

例の中庭での一件からは早くて、既に一週間も経ちました。

メモのやり取りも少なくはなったのだけれど、未だに続いています。授業で分からない所があれば彼に助言を貰って勉強する。

一週間で何度もお世話になり彼には頭が下がる思いです。


そんな彼、"宗君"を観察することに、わたしは今夢中でした。

わたしは初めて出来たお友達に浮かれていたのでしょう。どうしても隣の彼が気になって視線を向けてしまうのです。


宗君が先生の板書を書き写しています。

見ている間にも、すらすらとノートに文字が並んでいきます。

先日、黒板で並んで解答したときも感じましたが、宗君の字はとても上手です。

でも、それを書いている彼がちょっと猫背なのは、なんだか可愛いです。


「……」


「……(ちらっ)」


「……斉藤さん、何か用?」


か、観察がばれてしまいました!

ここは一時中断です!


「あっ、ぃ、いえ、なんでもないです……よ?」


観察してた、なんて口が裂けても言えません。


「でも、チラチラとこっち見てたでしょ?」


あぅぅ……バレバレだったようです。

見咎められた恥ずかしさに顔が熱くなります。

堪らず宗君から視線を外し、癖のように俯いてしまいました。

人と関わり馴れ合う事を避けて来たせいかと思うのですが、普段、あまり人と目を合わせて喋ることが出来ません……。

宗君とも目が合うと、怖さ……いや、いつもとはちょっと違うかなぁ? んー、多分恥ずかしさ、かな? そう、かな?

そんな訳でどうも、顔が熱くなって視線を反らしてしまうのです。

そんな自分が不思議で堪らないです。

なので、未だに目は合わせられません。


「どこか分からない所でもあった?」


そう言うと沢良木君はわたしのノートを覗き込みます。背の高い彼は難なくわたしのノートを見てしまいます。


「どこ?……ってコラ。全然書いてないじゃないか」


宗君観察で忙しく黒板を写していないのもバレてしまいました。

二重三重で恥ずかしいです。

穴があったら入りたいです。


「ご、ごめん、なさい……」


「あ、いや。そんな責めてる訳じゃないからね? ……あー、そうだな。後で見せるからちゃんと写しなよ?」


「ぁ……うん、ありがとう」


宗君の優しさに自然と感謝の言葉が口をついて出ます。


宗君とお友達になって分かった事がいくつかあります。

彼は少しぶっきらぼうな所はあるけれど、優しく、面倒見がとても良いのです。

思えば、初めて言葉を交わした通学路の出来事だってそうです。

わたしはそんな彼の優しさにいつも、つい甘えてしまいます。


「ああ。もし分からない所があればいつでも聞いてね? 教えるのも俺の勉強になるんだぜ?」


イタズラっぽく笑う宗君。

長い髪の間から覗く瞳には優しい色が見てとれる。


宗君は本当に、優しいな……。


何気なく交わすただの会話一つでわたしの心は解きほぐされる様に暖かくなる。

今までの学校生活で固く閉ざした心が今更の様に、思い出したかの様に解れ扉を開くのだ。


「……うん」


どこか胸の奥がくすぐったい、そんな心地良い感覚にわたしは目を細め微笑むのだった。




よしっ。


休み時間、わたしは自分の心に気合いを入れると隣の宗君へ声をかけます。

そうです。

メモのやり取りが少なくなったのは、こう言うことなのです。


「さ、沢良木君? 少し教えて欲しいんですけど……良いですか?」


わたしが宗君へ話しかけられるようになったのです!

凄い進歩です!


「ん、どこ?」


次の授業の用意をする宗君は手を止めると、直ぐにわたしの方へと向き直ってくれました。

そんな小さな事が申し訳無かったり、ちょっと嬉しかったり心が弾みます。


今わたしの手には宗君から借りた先程の授業のノートがあります。

早速借りて写させて貰っていた次第です。


その中で授業中も少し分からないと目星を付けていた部分に差し掛かったので質問したわけです。


「あー、ここはね……」


宗君はわたしの質問にすらすらと答えてくれました。

宗君はわたしが分からない理由を明確に理解して、そして、わたしがそれをしっかりと理解出来るよう順序立てて説明してくれるのです。


宗君の説明を聞くと自分でも不思議な程、頭に勉強の内容が入って来ます。

何で躓いていたのか分からなくなってしまう位に。

勉強についても、わたしにとっては救世主なのです。


先生達には申し訳ないんですけどね。えへへ。


「ありがとうございます! ちゃんと分かりました!」


「ふふ、そっか。よかった」


そう宗君は微笑みます。

メガネの奥に見える瞳が優しげに細められます。

それを見ると胸が一つトクン、と。


「…?…?…?」


わたしは不思議な感覚に首を傾げます。

そんなわたしを見て宗君も首を傾げます。


「やっぱりどこか分からなかった?」


「あ、いや! だ、だいじょうぶっ、です!」


「そう?」


わたしは慌てて首を振ります。何故慌てているのかは分からないのですけれど。

気が付けば不思議な感覚は遠退いていて。

宗君に気付かれないよう、再びわたしは首を小さく傾げるのでした。












お読み頂きありがとうございました。

次回も斉藤さんの学校編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ