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第70話 え、俺だけ?

本日もよろしくお願いいたします。

今回で真澄編はラストになります。






ここは万屋の事務所。

俺は今日も相変わらず、いつもの様に万屋のバイトへ赴いていた。

今は机で書類整理をしている。


真澄のストーカー事件の解決から早くも5日経った。

あの後は警察の事情聴取や事後処理に奔走するはめになり、中々忙しい日々を送っていた。


事が事なだけに真澄の方も大分忙しかった事だろうと思う。

真澄とはあの日以来、特に連絡も取っていなかった。真澄からの連絡は無い。かと言って俺から連絡するわけでも無いんだが。

ここ1ヶ月は毎日の様にやり取りをしていたため、ぱったりとそれが無くなると少しは寂しくも感じたりすると言うもの。


真澄と友達になった、とは言え本来はそうそう会えるような人物では無い訳であるし。なんと言っても彼女は人気アイドルな訳で。

まあ、元に戻っただけなんだよな。


俺は軽くかぶりを振ると、手を付けていた書類を片付けるべく、集中することにした。


黙々と書類を整理していると俺にかかる声が一つ。


「宗、仕事よ」


「……なんだよ藪から棒に」


せっかく片付けがノって来たと言うのに、理沙に水を差されてしまった。

理沙は自分の執務机に座り俺を見ながら言い放った。


と言うか……。


「……そのセリフ1ヶ月前にも聞いた気がするんだが」


嫌な予感しかしねぇよ。


「大丈夫よ、今日この事務所で終わる事だから」


「なんだよ、それならそうと……」


――ピンポーン――


前もって教えてくれよ、と言う俺の言葉は客の来訪を告げるチャイムでかき消されてしまった。

杏理ちゃんがパタパタと出迎えに向かった。


「お客さん?」


「多分あんたによ」


「へ? 俺?」


「仕事って言ったでしょ?」


「なんで今の今なんだよ……」


「忘れてた、てへ☆」


てへ☆じゃねぇ。

可愛い子ぶるなよアラサー女子め少し歳をだな……。


「……アァ?」


「なんでもないですはい」


理沙ちゃん可愛いから全然オッケーですわ美人なのにお茶目な所もあってそのギャップがマジグッと来るんだうんうん。


心読まないで欲しい、ホントに……。

あと灰皿はヤメてください洒落にならないから。


「あ、いらっしゃいませー!」


玄関からは杏理ちゃんの弾んだ声が聞こえて来た。

声色からすると既知の客なのかと思われる。

俺は客を出迎える為に立ち上がった。

そして、そこへ顔を出したのは。


「あ、宗君!」


「へ? 真澄? ……って、うぉっ!?」


事務所へ現れたのは先程思い浮かべた菅野真澄その人であった。

そして、真澄は俺を見つけるなり俺へと突然抱き付いて来た。

突然の事に俺は思わずホールドアップの姿勢を取ってしまった。

すりすりと俺の胸におでこを擦り付ける真澄にひどく困惑する。


コイツってこんなにボディランゲージの激しいヤツだったっけ? なんか幼児退行してね?

そんな疑問が頭をぐるぐると埋め尽くしている。

混乱のあまり俺は何も言えなかった。


「あらあら、宗ったら真澄ちゃんに随分と気に入られたようねぇ、うふふふふ……」


何故か理沙の言葉がトゲトゲしく感じるし。真澄は一向に離れないし。

どないせぇっちゅーねん。


「あ、理沙さんこんにちは!」


俺から離れると真澄は理沙へ、ペコリと挨拶した。

そして、再び俺に抱き付いて来る。

俺も再びホールドアップ。


「ええ、こんにちは、真澄ちゃん?」


やっぱり理沙怒ってるよ!

笑顔が怖いから離れようよ!

後で怒られるの俺だよ!?


「お邪魔するよ、むっ?」


「こんにちはー、あら?」


そうしている内に事務所へ入って来たのは二人の男女。


「ほぅ……君が沢良木宗君、だね?」


「あらあらー」


一人は俺が軽く見上げる程の背丈を持つスーツ姿の美丈夫。

そして、もう一人はとびきり美人でおっとりとした雰囲気の女性。二人のその雰囲気やパーツ一つ一つはどこか見覚えがあって。


いや、もうね、見りゃ分かるよ。ええ。


真澄のご両親ですわ。

どんな罰ゲームですか真澄さん。

マジ勘弁してくださいよ……。


嫌な汗が俺の頬を伝った。





「久しぶりだな理沙」


「本当久しぶりね理沙ちゃん!」


「ええ、二人とも元気そうで何よりだわ」


応接用のソファに腰掛けた真澄及びそのご両親。

その向かいには理沙が腰掛け、俺と杏理ちゃん大次郎は理沙の傍ら立っている。

真澄の両親と理沙は久しい再会なのか挨拶を交わしていた。


「今回は娘が本当に世話になった。ありがとう」


「ありがとう」


二人は真っ先に頭を下げると礼を述べた。

真澄もそれに倣っている。


「いえ、友人として当然よ。それにあなた達からの依頼だしね」


「それでもだよ。非常に腹立たしい一件ではあったが無事解決出来て心底安心している」


「仕事も手付かなかったものねぇ」


「ふふ、そうみたいね?」


真澄の両親と理沙は近況や今回の報告を交えながら会話を続けていった。



しかし、ううむ。


真澄の両親とは初めて対面したが、中々と言うか、かなり異彩を放っていた。

お母さんは先程言ったように、とびきりの美人で真澄が大人になればこうなるのかと想像出来る容姿だった。整った顔のパーツは真澄ととても似ている。

それは良いんだ。問題は父ちゃんだよ。


「沢良木君、真澄から聞いたのだが今回の件に関して君にはとても世話になったらしいね」


突然真澄のお父さんは俺へと視線を向けるとそう言った。普通の人ならその鋭い眼光に見据えられれば身がすくんでしまうのではないか、そう感じてしまうくらいの瞳。

しかし、今その瞳には感謝の色が伺えるのでそうはならないが。


「いえ、私が、と言う訳ではありません。事務所の全員で当たった仕事ですので」


「謙遜する必要は無いぞ。真澄が元気に過ごせたのも君のお陰だ。例を言う」


ありがとう、と言うと真澄のお父さんは頭を下げた。


「あ、頭をあげてくださいっ」


真澄のお父さんに頭を下げられるとひどく落ち着かない。


なんたってこの父ちゃん。

真澄の父、茂は俺より背のデカイ筋肉男なのだ。

着込んだスーツは茂さんに合わせ仕立てられているのだろうが、その下に分厚い筋肉があることは隠せない。それはスキンヘッドの定食屋筋肉ダルマや美容室のカリスマヘアドレッサー筋肉ダルマを彷彿とさせるようだ。



……なんでこうも俺が知り合う男は皆筋肉なんだよ。

ホントにもう飽きたわ。

そして、何故皆さん背が俺より高いんだよ。

本格的に自分の背丈に自信を持てなくなってきた……。


俺の言葉に頭を上げた茂さんはおもむろに立ち上がると、俺の目の前まで歩み出て来た。

そして、俺の手を握り締めた。


睨むように俺の瞳を覗くその迫力に気圧され俺の頬はひきつる。


「ありがとう」


「ど、どういたしまして……」


斉藤家の天使もそうだが、この父親からなんで美少女が生まれるのだろうか。俺は不思議で堪らない。


俺はなんとか返事を絞り出すのだった。






「宗君、1ヶ月ありがとうございました」


「ああ」


万屋を後にする菅野家を見送るため、俺達は雑居ビルを出ていた。

両親は近くのコインパーキングに停めてある車を取ってくるとここには居ない。

真澄は俺と話をして待っていると両親に伝え、ここに残った。


「まあ、なんだ。無事……とは言えないが、解決して良かったな」


「うん」


再び礼を言い頭を下げる真澄に俺も言葉をかける。

今生の別れと言う訳では無いが、今後は真澄と時間を過ごす事は無くなるんだろう。

そう考えると上手い言葉が思い付かない。


「家もそんなに遠くないんだ。たまに遊びに来たら良い」


「え、良いの?」


「ああ、仕事の邪魔しなければな」


俺はイタズラっぽく笑って答えた。

俺の言葉に、しないよーっ、と頬を膨らませる真澄。

先日の一件以来、真澄が何だか本当に幼くなった気がするんだが。

年相応より更に幼く感じる。

もしくは、今まで肩肘張って背伸びしていたのか。


「仕事も大変だろうけど頑張れよ?」


「え?」


俺の言葉に真澄の表情が驚きに彩られた。しかし、直ぐに納得したようにため息を吐いた。


「宗、あんたねぇ……」


そんな理沙の言葉に振り向けば、後ろに居た万屋の面々も揃って呆れ顔。

皆さん揃ってため息吐いております。


俺何か変な事言った?


「宗君のことだから、そんなとこだろうと思ったけどさ!」


その声に再び前に向き直ると腰に手を当てぷんぷんと怒るアイドル様。

え、どういうことよ?


「宗君ってば、どうせテレビ見てないんでしょう?」


「あー、最近はそうだな。忙しいのもあったけど点けてなかったかも」


ルーティン等と言いながらも、朝の番組ですら見ていなかった事に今更気が付く。


真澄は俺の言葉に再び大きなため息を吐いた。

本格的に分からない。皆して何が言いたいのか。


「だからなんだよ」


「あたしアイドル辞めたの」


「へ?」


至極あっさりとした様子で語る真澄に、驚きの表情を見せるのは俺の番だった。


あたし、アイドル、辞めたの……。


え、マジで?


「……マジ?」


「まじまじ。親とも沢山話し合ってね。元が親から始まった様なものだったし、むしろ謝られちゃったの。まあ、そんな訳でとりあえず無期休業って感じなんだよー」


事務所との兼ね合いが、たはは、と真澄は苦笑いした。


「多分宗君だけだよー? テレビ見れば嫌でも目につくよ?」


「うんうん」


「まあ……宗だし?」


え、俺だけ?

皆知ってたのかよ……。


「……」


あまりの驚きに俺は二の句を繋げずにいた。

何て声をかければ良いものなのか。

全く思い浮かばない。


「杏理さんの言う通り、散々テレビでも報道されてるってのー! ちゃんと見てよねー!」


「あ、ああ、悪い」


尚も歯切れ悪く答える俺に、真澄は吹き出した。


「ぷっ、ふふ、しっかし宗君驚き過ぎだよ! オーバーだなぁ」


「は? いやいや、普通に驚くだろ! ついこの間まで俺が送り迎えしてたんだぞ? それにあんなに仕事頑張ってたじゃないか」


「う、それは申し訳ないんだけどさ」


俺の言葉に先程までとは売って変わって、しゅんとした真澄は、ごめん、と言い目を伏せた。

そんな真澄に俺はハっとする。

俺が真澄を責めるのはお門違いも甚だしいだろ。

少し考えれば分かる話だ。

あんな一件があったのだ。真澄の心傷だって計り知れない。

俺は自分の言った言葉の無責任さのあまり自責の念にかられた。


「いや、俺の方こそすまなかった。デリカシーが無かった」


「ううん、大丈夫。宗君がちゃんとあたしの事を考えてくれているって事だもん」


そう言うと真澄は照れた様な笑みを俺に向けてくれた。


おおう……。

ずいぶんと自然な笑顔を見せてくれるようになったものだ。何だか感慨深く感じてしまうよ。


真澄が浮かべるその可憐な笑みに、思わずキュンとしてしまうじゃないか。


「あ、いや……」


「あー! 宗君が照れたぞ! こりゃ珍しい!」


「宗もようやくますみんの魅力に気が付いたようだな!」


ここぞとばかりに騒ぎ立てるバカップルのヤジが実に鬱陶しい。


「うるさいから!」


俺も堪らず言い返してしまうが、バカップルは余計に勢い付いて来たので、放置することにした。

そんな様子に真澄も笑い声を漏らす。


「ふふっ、ふふふ! ま、そう言うわけで、わたくし菅野真澄ちゃんは普通の女子高生へと舞い戻るのです!」


「……そっか」


眩しい笑顔でピースサインをこちらに向ける真澄に俺も笑みを向けるのだった。



程なくして、真澄の両親が到着し真澄も車に乗り込んだ。


「では、理沙これで失礼するよ」


「理沙ちゃんまたね」


「ありがとうございました!」


三者三様の言葉に俺達も手を上げ応える。

車が走り出し、徐々に離れていく。

すると真澄は窓から身を乗り出し大きく手を振った。


「絶対遊びに来るからね!」


そう言い残し真澄は去っていった。


少し騒がしい、人気アイドル"だった"友達とまた会える日を楽しみに、俺は残りの仕事に勤しむのだった。


近く再び相見えるとは露知らずに……。


こうして菅野真澄ストーカー事件は幕を降ろすのであった。











お読み頂きありがとうございました。


真澄編を書いてはみましたが、自身でも納得しきれていない部分は多かったです。上手い物語の進行と言う部分ではかなり難がありました。

先に話を進めらずにいるよりマシと思い真澄編の最終話を投稿させてもらいました。もう少し上手い道筋を描ければ改稿も視野にしれております。


次回からは待ちに待った天使ちゃんです。

少し進行とは別切り口になりますが、面白い物語をお見せ出来るよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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