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第68話 ストーカーの本性

本日もよろしくお願いいたします。

今日から真澄編の終わりまで毎日投稿致します。

今話は時系列が前後するので少し読み辛いかもしれません。ご注意ください。






「……そう、でした、か」


「ええ」


俯きようやく声を絞り出す真澄に理沙が頷いた。

ストーカー被害が再び起こった夜、急遽メンバーが集まった万屋の事務所には、重苦しい空気が満ちていた。

応接用のソファに座る面々の表情は、いずれも晴れない。


「……なんで……っうぅ……」


「菅野さん……」


理沙の言葉を聞き、堪えきれず嗚咽を漏らし始めた真澄の肩を抱くように、杏理ちゃんがそっと手を置いた。

俺は杏理ちゃんと反対の隣に座っているが、何も声をかけられずにいた。


事件が進展し、このタイミングになり真澄に打ち明ける事になったが、当然俺は既に知っていた。

その上で黙っていた。

言うタイミングでは無かった、言える段階では無かった、と言えばそれまでなのだが、それでもこのように真澄がショックを受ける事は分かっていたのに。

友達などと言っておきながら何も出来ない自分が歯痒くて仕方なかった。


「……間違いは、無いんですか?」


「……残念だけど、先程から菅野さんに聞いた内容を加味しても、間違い無いかと思われるわ」


説明した通りよ、と理沙は静かに繰り返した。


「……でも、それでも、あたしは……信じられ、ません!」


「……真澄」


俺は何も出来ないまま、真澄の横顔を見ていた。





―――――





「真澄ちゃん、夜にすまないね」


「い、いえ、大丈夫です。どうかしましたか?」


俺は真澄の家のリビングでソファに座ったまま、玄関の会話に耳を傾けていた。

来訪者それは、真澄のマネージャー、堤さんその人だった。


「……堤が来た」


『了解。こちらも問題無いわ』


俺は再度マイクで他の万屋メンバーと連絡を取った。


「間もなく接触する。一旦会話切るぞ」


『了解』


仲間と短いやり取りを終え、堤との接触に備えた。

さて、どう出るのか。


正念場だ。


「……沢良木さん」


俺の耳に、犯人の声が届いた。




「どうも、こんばんは堤さん」


何気ない様子を装いリビングへ入ってきた堤へと返事を返す。

そんな俺の様子が気に障ったのか、眉間に皺を寄せた険しい表情で俺を睨んだ。


「あなたは何を考えているんですか? 真澄はアイドルなんですよ? 家に上がるだけじゃ飽きたらず、こんな時間まで居座るなんて! 常識的に考えれば分かる事でしょうっ!?」


おおう。

激おこでいらっしゃる。

何とか真澄に被害が無いように、あわよくば立ち合いたいが。


「今すぐに出ていってください!」


これではとりつく島が無いな。

かえって騒ぎになりそうだ。


まあ、これも想定済みだ。

真澄に目配せをすると、部屋を後にするため立ち上がった。


「分かりました。真澄、それじゃまた」


「うん、宗君」


「っ! は、早く出ていくんだ!!」


頷き合う俺達の様子が気に食わなかったのか、堤は更に声を荒げた。

よっぽど俺と真澄が仲良くする事にご立腹なご様子。


「失礼します」


脇役はフェードアウトすると致しましょう。

真澄、頑張れよ。


俺は堤に追い出され、マンションを出た。






―――――







「あたしは堤さんを信じたいんです。……一度話すチャンスをくれませんか?」


泣き腫らした目を上げる真澄は、万屋の面々を見渡しそう言った。

マネージャーの堤さんが居たから、堤さんに励まして貰えたから芸能界で自分はやってこれた。そう語る真澄は未だに現実を受け止めきれていない様子だった。


しかし、証拠は揃いつつあった。

調査を開始した直後の証拠品に関する捜査結果が芳しく無くなった頃、その調査と並行するように周りの人物の調査も行った。

堤に関しては真っ先に調査させてもらっていた。


彼の行動の監視と身辺調査をし、怪しい点が無いか徹底的に調べ上げた。

すると、不自然な新幹線の利用であったり、謎の空白の時間等々、疑いを持たざるを得ない行動の数々が明らかになった。


しかし、越してからはストーカーの被害が再発していなかった為、堤を疑いが固まりつつも決定的な証拠を掴むには至っていなかった。


進展が無いまま時間だけが過ぎていた今日、被害が再発した。


堤が犯人だとして、再犯の原因やきっかけを考えるも中々思い付かない。

真澄曰く、仕事はいつもと変わらない、生活だって変わらないリズム。

強いて言えば、真澄の私生活で変化があった事は先日俺と友達になった事くらいだと言う。


図らずも俺が犯人を誘き出す餌となったようだった。


隠しカメラや盗聴器の類いに関しては、設置されている可能性が有ると言う前提で動いていたため、そこから漏れたと考えられた。

実際に真澄の部屋を杏理ちゃんが探査機を使い調べた結果、発見に至った。

意外なことに、杏理ちゃんにこの手の仕事をさせると、右に出るものは居ないのだ。

小柄な体を駆使して、音もなく見事に調べ上げてくれた。


杏理ちゃんを彼女にするのは正直怖すぎる。

ロリっ子スパイ☆杏理ちゃんとラブラブカップルやっている大次郎には、いつも感心させられる。

大次郎は明け透けなところがあるから、意外にマッチするのだろうか。


カメラに関しては赤外線式では無かった為、部屋を真っ暗にした状態で詳しく調べる事が出来た。

ワイヤレス式の物が3基隠されていた。

それに加えウチのカメラも設置させてもらい、モニタリングすると言う訳だ。


盗聴器はと調べるも、部屋では見つからなかった。

やはりと言うべきか、盗聴器は堤から真澄へ渡されていたと言う、ガラケーに仕込まれていたのだ。


これに関しては、以前からの不自然な様子などから目星は付けていたので、俺たちに驚きは少なかった。

真澄には気の毒だったが。


閑話休題。



俺が調べた事について考えを巡らしていると、理沙が真澄の言葉に首を振った。


「まず、第一に私達の仕事は調査なの。ご両親から受けたね。だから正直な話をすれば、調査が殆ど終わった今、私達に菅野さんの"それ"を阻む権限もなければ止めることも出来ないの。ここから先はそちらの問題になるわ」


「……あ、そう、ですよね」


理沙の物言いに真澄も応えるが、その言葉は尻すぼみになっていく。

そんな真澄の様子に理沙は、だけどね、と付け足した。


「あなたは大切な友人の子供よ。危険な事をしでかそうとしているなら、私は見過ごす訳にはいかない。親の代わりとして止めさせて貰うわ」


「で、でも!」


食い下がろうとする真澄に、理沙は再び首を振った。


「ご両親には報告させてもらう」


「ぅ……」


ぴしゃりと理沙が言い放つと、真澄も俯き事務所に沈黙が落ちた。


「それじゃ、菅野さんは今日のところはここに泊まりなさい」


訪れた沈黙を破るように理沙が言い放った。

そして、話は終わりとでも言うかのように立ち上がる。


「寝る場所を確保してくるわ」


そう言い、部屋を出ようとする理沙を止める声が一つ。


「……理沙さん!」


「……」


呼び止められた理沙は振り返り、真澄を見据える。


「……あたしが、万屋さんへ依頼する事は出来ませんか?」


気が付けば隣の真澄は既に顔を上げ、理沙を見つめていた。

理沙もそんな真澄と見つめ合うこと数秒。黙って再び席に着いた。


「……どういう話かは聞くわよ」






―――――






「一体どういうつもりだ真澄ちゃん!?」


「っ……」


マンションのリビングで向かい合う真澄と堤。

堤は声を荒げ真澄を怒鳴り付けた。

その声に真澄も俯いている。

俯くその表情を除き見れば悲痛と何かに耐える様な様相だ。


「なんで、こんな時間までアイツを家に上げたりしてたんだ!? 前も勝手に上げたりして何を考えているんだ! 真澄はアイドルなんだぞ!?」


「……」


俯き続ける真澄に堤は苛立った様に、更に声を荒げ詰め寄った。


「だから万屋なんてものは信用出来なかったんだ!  真澄の親がどうしてもと言うから仕方なく! 信用出来るなんて言うから! だが実際はどうだ!? 夜に女の家に上がり込む様な常識も分からないガキじゃないか!! どうせ真澄を狙っていたんだろうっ! どいつもこいつもろくなヤツが居ない!」


堤は万屋、ひいては宗個人の罵詈雑言を並べ立てた。

とどまることを知らない堤の暴言に真澄は俯きながらも震えていた。

そして。


「…………ぅな」


「は?」


小さな呟きに気が付いた堤が真澄を見ると、俯き何かに耐える様な姿は無く、堤を睨む真澄が居た。


「宗君の悪口を言うなっ!!」


「なっ!?」


今まで聞いた事の無い真澄の乱暴な物言いに堤がたじろぐ。ショックからかその足も二三歩後ずさっていた。


「宗君はあたしの友達なの! 宗君はあたしを励ましてくれた、優しくしてくれた! 誰も気付いてくれなかった事も宗君は気付いてくれた! あたしは凄く嬉しかったの! 宗君を悪く言うのなら堤さんでも絶対に許さないっ!」


「な……ぁ、な、くっ」


尚も続く真澄の剣幕に堤は口をパクパクとさせ、漏れる声は言葉にならずに消える。

一気に捲し立てた真澄は若干息が上がっているのか、興奮からか肩で息をしている。


「な、何が友達だっ! 出会ってたかが1ヶ月だろ! それで……」


「時間なんて関係ない! 宗君はあたしの友達なの! 宗君を貶すような発言は今すぐに取り消して!」


「くっ……」


堤も立て続けに真澄から言葉を浴びせられ、驚きが段々と怒りへと成り変わってきたのか、顔を赤くしていった。

そして、それがついに限界を迎えたのだろうか。


「このぉっ!!!」


「っ!?」


ドンッ。


堤は真澄との距離を一気に詰めると肩を突飛ばし、そのままソファへと真澄を押し倒した。

真澄も突然の事に抵抗も出来ず呆気なく倒れてしまう。

堤は勢いそのままに、真澄の上に馬乗りになると真澄の腕を押さえつけ動きを封じた。

ただでさえか弱い女子高生が大の大人に組敷かれればどうすることも出来ないだろう。

真澄は驚愕と恐怖がない交ぜになった表情で自分に覆い被さる男を見上げる。


「真澄が悪いんだよ。真澄が他の男を見るから……」


「ぇ……?」


「そうだ。最初からこうすれば良かったんだ。そうさ、万屋なんてものは必要ないんだよ。ましてや沢良木なんて野郎は……」


「な、何言って……?」


堤の眼は焦点が合っているのかすら怪しく据わっている。そして、口許には賎しい歪んだ笑みが張り付いていた。

先程まで怒鳴り散らしていた人物とは別人の様な変わりようだった。


「あぁ、本当に真澄は可愛いなぁ……」


「ひっ……」


支離滅裂な堤は真澄の顔に自身の顔を近付けた。

それに真澄は必死に逃れる様に顔を背ける。

恐怖からか真澄は払いのける事も出来ず、顔を背けるだけで精一杯だった。


「そんなに恥ずかしがる事無いだろう? 真澄の全部を俺は見ているんだからさ……」


「それって……」


「あぁ、この間の写真は喜んでくれたかい? よく撮れていただろう? 特に風呂上がりの真澄なんてお気に入りだなぁ俺は」


「……」


堤の告白に絶句する真澄。


昨夜、万屋で調査結果に関する報告を受けた。

堤が犯人である可能性が極めて高いと。

だけど、どこか堤を信じたかった自分が居たのだ。

いつも自分を励まし、共に仕事をしてきたパートナーとして。誰も味方の居ない芸能界でただ一人信頼していたのだ。

だからこそ、危険を承知で対話を望んだ。

否定したかった。その可能性を。


「あ、もちろん普段の寛いでる真澄も可愛いよ……。このソファでさゴロゴロしてさ、俺は見てるだけで癒されたなぁ……」


それが今、脆くも崩れ去った。

己を支える足場が粉々に砕け散り、失意のどん底へと落ちるような感情。

何も言葉を発する事も出来ず、視界は涙でぼやける。

裏切りへの悲しみ、悔しさに胸が痛み唇を噛んだ。


「……それなのにっ」


堤はにやついた表情を一変させると、憤慨した様に眉間に深く皺を作った。

ギリっ、と奥歯を噛み締めた様な音が届いた。


「真澄は俺を差し置いて沢良木のヤツを家に上げやがった!」


「くっ……」


真澄を押さえつける腕に力が込められ、痛みに真澄は表情を歪めた。


「俺の目の前でベタベタとくっつきやがって……」


「ぅくっ、め、目の、前?」


「はははっ、ああ、この家は俺がいつも見ていたんだ! 真澄は俺がずっと見守っていたのさ!!」


どこか得意げな、しかし歪んだ笑みで声高らかに堤が答えた。

その視線はカメラが仕掛けられていた場所を巡る。

耐えかねたのか溢れた涙が真澄の頬を伝った。


「ストーカーは……堤さんだったの……? なんで……?」


「ああ、そうさ! 前の家でもいつも見ていたよ! 全部は真澄の為なんだよ? 真澄を守る為に俺は!」


堤はそこまで言うと真澄の上着に手をかけると、力ずくで引き裂いた。

上着は破れ、下着が露になった真澄を堤は血走った目で見下ろす。


「っあ、ぃ、や……!?」


「真澄は俺だけの物だ、誰にも渡さないっ」


真澄は必死に身を捩るも、その拘束から逃れる事は叶わなかった。

堤の手が溢れる双丘に伸ばされる。


「た……助け、て……宗君っ!」


ピタリと堤の伸びた手は止まった。


「……ま、またっ」


「……宗、君」


ぽろぽろと溢れる涙と共に真澄は繰り返す。

俺の名前を。


「またアイツをっ!!!」


堤は胸へと伸ばしていた手を、そのまま上へと振り上げた。



「俺で悪かったな」


俺の言葉が堤の腕を止めた。












お読み頂きありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。


真澄ちゃんとイチャイチャ演技の時は感想を多く頂き驚きましたw

沢良木君大バッシングw

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 家にいる写真撮られてる時点でマネージャーが犯人なの分かりきってるから、そこで1度話がしたいとなるのは不自然な気がします。
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