表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/199

第61話 二人目の友人

毎度お待たせしております。

今回もよろしくお願いいたします。







斉恵亭でお手伝いをした翌日。

俺は真澄に指定された時間にマンションへ迎えに来ていた。

駐車場へ到着したので、その旨をRINEで真澄へ送信する。

すると程無くして返信が返ってきた。


――ちょっと上がってー!――


何故に?

別に駐車場で構わないはずだ。

特に人手が欲しいだとか、持っていく様な物も聞いていない。

下じゃダメなのか? と返信する。


間も無く再びスマホがメロディを奏でる。

が、RINEのトーク通知音では無かった。

画面には真澄の名前。

俺は通話ボタンを押すとスマホを耳に当てた。


「もしもし? どうかした?」


『今連絡があってね、少し集合時間が遅くなったの! ずっとそこで待ってるのもあれだからお茶でもどう? ってお誘い』


「別にここで待ってても良いんだけど」


『そんな釣れないこと言わないでよー。1時間後の新幹線になったんだよー。暇だよー』


「……事務所に帰って良いか?」


暇だよー、じゃない。

1時間なんて、事務所に戻っても少し書類作る余裕があるレベルだ。

思わずため息が漏れる。


『まあまあ、そんな固いこと言わずにー。コーヒー出すよ? インスタントだし、薄いけど』


「それは好みだから良いんだけどさ」


『おー! 宗君と同じ好みかぁ、嬉しいなー! てことでおいでよ!』


「いや、問題はそこじゃない。女の子が一人の家に俺が上がる訳にもいかないだろ」


『そんなことどうでも良いのにー』


良くないだろ。

アイドルと言う肩書きを持っているにも関わらず警戒心が薄すぎやしないか。

ただでさえストーカー被害を受けているんだから、もうちょい危機感をだな……。


『それに宗君って無害そうだし?』


「……」


酷い言い種だ。

俺だって立派な男の子だぞ。

実に失礼なヤツだな。

ヘタレに見えるってか? あ?

でも、理沙にも似たようなこと言われた気がする。


「絶対上がらねえ」


『ごめんごめん! 嘘だってー! だから上がって?』


「だから、の意味が分からねえよ……」


『あははは、気にしない気にしない! それじゃ、コーヒー淹れて待ってるよー』


それだけ言うと、俺の返事も聞かずに通話を切られてしまった。

まったく人の話を聞かないヤツだな。

いい加減慣れてきた感じではあるのだが。


「コーヒーねえ」


そう言われると飲みたい気もするが、素直に言うこと聞いては面白くない。

俺は一つ息をつくとシートに背を預けた。








――プルルル――


『なんで来ないのーっ!? コーヒー冷めるよ!? というか冷めたよもうっ!』


電話を取ると真澄の大きな声に耳が痛んだ。

先程の電話から10分程。俺は所変わらず車の中に居る。

真澄が人の話を聞かないのなら、俺だって聞かん。


「……耳が痛い」


『来ない宗君が悪いの!』


「話聞かない真澄はどうなんだよ」


『だ、だってー』


続けて真澄は、ぶーぶーと口で言う。

子供か。


「さっきは女の子の部屋にって言ったけど、真澄はアイドルだろ。堤さんだってそう言うのは困るんじゃないか?」


ボディーガードとして側には居るけど、本来はそれだってあまり好ましく思われていないかも知れない。

直接言われたりしたことは無いけれど。


『うぅ、それは、そうかも知れないけど……』


そう唸ると真澄は黙りこんでしまった。

騒がしかったり、静かになったり忙しいヤツだな。


しばらく沈黙が続き、二人とも言葉を繋げないまま時間が過ぎた。

今までに無い静かな真澄に、俺は居心地の悪さを感じ、声をかけた。


「真澄?」



『…………家に一人だと心細い事もあるんだよ』


「……」


ようやく紡がれたその言葉に息を飲む。


確かに真澄が言う通りかも知れない。

よくよく考えれば、最近は被害が無いと言っても先日までストーカーの被害を被っていたのだ。

その上、慣れない土地で両親が居ない独り暮らしだ。

不安でない筈が無いだろう。


仕事が終わり、帰り着くとそこは誰も出迎える人の居ない家だ。

社会人として一人暮らすならなんて事無いだろうが、真澄はまだ16だ。

慣れてると言っても状況が状況なだけに、一層不安も募る事だろう。


普段の明るい真澄の様子に俺も気が回らなかった。空元気だったなんて事も十分ありえるかも知れない。


「……」


『……』


俺は結局。


「あー。……分かった行くよ」


そう真澄へ答えるのだった。


「……ほんと?」


「ほんとほんと。それじゃ、向かうからな」


「……うん、待ってるね?」


「ああ」


通話を切りため息を一つ溢す。

車のキーを抜きドアを開けると、暑苦しい空気が一気に車内へ流れ込む。


「仕方ない、行くか」


一度真澄の部屋の辺りを見上げると、俺は真澄の部屋へ向かった。










「宗君いらっしゃい!! もう宗君遅いよぉ、コーヒー冷めちゃったよ? あ、でもちゃんと淹れ直すから安心してね?」


「……」


……おおう。


さっきまでのしおらしさはどこに行ったのだろう。

もしや俺は騙されたのだろうか?


俺がチャイムを鳴らすと、電話での意気消沈した様子を微塵も感じさせない、いつもの真澄が俺を出迎えた。

出で立ちも何時もの外出用の変装だ。

今日はメガネがプラフレームからメタルフレームに変わっていた。


「ふふ、はいルームシューズ!」


「お、おう」


「こちらへどうぞー!」


何が嬉しいのかニコニコとしながら俺を先導する真澄。実にハイテンションだ。


「……」


「宗君?」


ぼーっと真澄を見ていると、反応の無い俺に真澄が首を傾げた。

俺はかぶりを振ると、ルームシューズなるスリッパを履き真澄に続いた。


まあ、良いか。


「……いや。あ、別に冷めたコーヒーで良いぞ。つかどうせ出してくれるなら、アイスコーヒーを出してくれよ。外は30度あるぞ?」


「あ、それもそうだよね。ふふ、氷入れるね! あたしは夏でもホットで飲んでるから気付かなかった!」


やっぱり騙されてるの?




「はい、どうぞー」


二度目となる菅野家訪問だが、前回と変わらず同じソファーへと腰かける。

腰かけた俺に先程言った通り、アイスコーヒーが出された。


「ありがとう」


「ふふ、どういたしまして」


真澄は自分のホットコーヒーの入ったマグカップを持つと躊躇うこと無く俺の隣に腰かけた。そして、そのままコーヒーに口をつける。


「うー、やっぱ冷めてるよ。宗君のせいだぞ?」


「……なんでこんなに広いのに俺の隣に座るんだよ?」


実に憎たらしい事に、俺の部屋がこのリビングの3つ4つ余裕で入りやがる。

経済格差ここに極まれりである。


「どこに座っても良いでしょ。あたしの家だよ?」


そりゃ……そうなのか?

確かに俺は客で真澄が家主だ。

真澄の主張に間違いは無いのかもしれない。


「それにアイドルの隣に座れるなんて幸せじゃない」


それも……そうなのか?

確かに真澄は今をときめく人気のアイドルでファンも数えきれない。


「少しは自覚するべきだね」


「……」


なんか騙されてる気がする。


「何か文句でも?」


「いや、何も無いですはい」


「よろしい」


ニコリと一つ笑みを浮かべると、再びコーヒーに口をつけた。

それを見届けると俺も出してもらったアイスコーヒーを頂くことにした。


「うん、旨い」


このインスタント具合が良いんだよ。インスタントさいこー。

薄さ加減も良い感じ。

そういえば、この間同じインスタント買ってたんだよな。旨いはずだ。


「ふふふ、よかったー。宗君が薄いヤツって言うから薄くしてみたの」


「このくらいが好きだな。真澄は何時もこの銘柄?」


「そだよ。これが飲みやすくて好きなの。安物だけどね」


「いや、その安さが良いんだよ。この飲み慣れた感じが良い。実は普段俺が飲むヤツと同じ銘柄なんだよ」


「そうなの? あはは、宗君とあたし相性良いね!」


「なんだそりゃ」


何が面白いのか、尚も笑う真澄に俺は首を傾げた。




他愛のない話をしていると、再び話題はコーヒーの事へ。


「コーヒー好きなんだっけか?」


「うん。中毒って程では無いけど、とりあえず一日一杯は飲むかなー」


コトリとテーブルにマグカップを置くと真澄は答えた。宗君は? と俺を見ると問いかける。


「俺もそんな感じだな。仕事終わって家帰ったらとりあえず飲むな」


「なるほどー、そこも似てるね!」


「コーヒー飲むタイミングなんて朝かそんなもんだろ」


「まあ、それもそっか」


あはは、といつもの笑顔で真澄は笑う。


「……」


しかし、俺は真澄と会話をしながらも、先程の電話での会話がどうも気になってしまっていた。

どこか、頭の片隅に引っ掛かりを覚える。


改めて真澄を観察するも、やはり普段と変わらない様にも見える。


けれど。


「無理してないか?」


「へ?」


気が付けば俺はそんな言葉をかけていた。

真澄は俺の突然の言葉に面食らったように、目をパチクリさせた。

しかし、それは一瞬で再びいつもの笑顔に戻る。


「宗君突然なにー? 変な事言って。無理なんてしてないよ?」


そもそも何を無理してるの? と茶化す真澄だったが俺は構わず続ける。


「さっき電話で言ってただろ。こんな時に一人だと確かに不安だろうけど、相談くらいなら乗るぞ?」


専門外だが、と付け加える。

俺の気のせいかもしれないけれど、初めて会った時もそうだったが、俺にはなんだか作り物の笑顔に見える。


「あは、そんなマジにならないでよ……」


アイドルだから、そう言われればそれまでだけれど。

伊達にここのところ毎日の様に会っていない。

少しずつ真澄の人となりも分かり始めた。


笑いながらも顔を背ける真澄を見て思う。


「そんな愛想笑いしなくて良いぞ?」


「っ……」


俺の言葉に頑なだった真澄の表情が揺らいだ。

これで勘違いだったらかなり痛い男だが、真澄の反応を見るにそこまで的外れでも無いだろう。


「言っとくが……」


「?」


言葉を区切る俺に真澄が向き直る。

こんな事言ったら怒られるか、なんて思いながら俺は言葉を繋げる。


「俺はテレビの関係者でも無ければお前のファンでも何でも無いから何の点数稼ぎにもならない。それに、そんな作り笑いを見たところで嬉しくも何ともない」


確かに可愛い笑顔だとは思うが。

無理してまで見せて欲しいとは思わない。


「……」


「まあ、だから俺の前で気張らなくて良いぞ。見ていてこっちも気使っちまうだろ?」


「……ぅわ、ひっどいね、宗君。少しくらいオブラートに包んでも良いんじゃない?」


まあ、確かに辛辣な言い様ではあったか。

女の子に言うセリフ? と真澄が俺を半目で睨んで来るが笑って返してやる。


「俺は正直者なんだよ」


このくらいでへこたれる真澄じゃないと思うし、少しでも気の抜ける時間があっても良いんじゃないかとも思う。

まあ、なれるかは分からないが。


「……はぁ、知ってるよ。宗君って言い難いこともズバズバ言ってくるし、全然あたしに甘くないよね。あたしアイドルだよ?」


「関係ない」


「……それじゃあ、宗君はあたしの何なのさ」


再び顔を背け、テーブルのマグカップを見つめながら俺に問いかける真澄。


「俺は……」


「俺は?」


俺は何だろうか、と考えるも答えは一つだけしか持ち合わせていない。

マグカップから俺へと視線を移した真澄に答える。


「ただのボディーガードだ」


まあ、更に本当の事を言えば万屋のバイトですけどね。


「……」


俺の答えにポカンとした表情の真澄だったが、しばらくすると肩の力を抜いてため息をついた。


「……もっと気の効いた事言えないのー?」


なんだよ、不満なのかよ。

間違ってないだろ。

なんて答えるのが正解なんだよ。


「例えば?」


「た、例えば? んー、えーと、あー。と……友達、とか?」


なんで友達になるんだよ。

ぶっ飛んでやしないか?

別に友達が嫌だとかそんなんじゃないが。


と言うかそんな事言うってことは、もしや……。


「……お前、友達居ないのか?」


「んなっ!?!?」


俺の言葉に一瞬で顔を赤くする真澄。

なんだか赤面する真澄も珍しいな。

思わず金髪の天使を思い出してしまう。

しかし、この反応はそう言うことなのか。

明るい性格だし社交的に感じるから友達は多いのかと思ったが。


「……出来ると良いな?」


「ばっ、ば、バカにしたなっ!? 好きで居ないんじゃないよ! 仕事が忙しいせいで学校には行けないし! そのせいで昔の友達は疎遠になっちゃったし! なんか皆ご機嫌取りに来てて居心地悪いし!! 仕事関係でも友達なんて出来ないし!!!」


頼んでもいないカミングアウトをすると隣の俺をポカポカと殴り始めた。

初めは痛く無かったが、徐々に威力が増していく。

最後には中々痛くなってきた。


「痛いっ、やめて、暴力反対!」


まあ、言うほど痛くないけどさ。

俺の腹斜筋は強いんだ。


「うぅ、バカにして……。そう言う宗君はどうなのさ!」


真澄は殴るのをやめると、今度は俺を指差した。

そんな真澄に俺が答える言葉はただ一つ。

俺は胸を張る。


俺には、そう。


「友達なんて一人しか居ない!」


「なんで偉そうなのよっ」


俺に友達は金髪の天使こと斉藤さんしか居ないのよ。

しかし、斉藤さんが居れば友達100人ともタメを張れること間違いない。

それくらいの天使っぷり。

あー、昨日は可愛かったな。


「量より質なのさ」


「ワケわかんない」


そうため息をつくと、真澄はソファーの背もたれに身を預けた。


「なんか真面目になるの馬鹿らしいよ」


「俺相手に真面目になっても無駄だぞ」


「あんたが言い出した事でしょうっ……!?」


再び俺を殴り始める真澄。

しかし、先程よりも幾分威力は弱い。

そして、終いにその手は止まってしまった。


「……ねえ、宗君」


「うん?」


「……それじゃ……お悩み相談」


「なんでも聞くぞ。解決出来るかはわからんが。なんせ俺は菅野真澄のボディーガードだからな」


伊達に万屋やっていないからな、大抵の事ならなんでもござれだ。

ボディーガードの範疇からは外れる気もするが。


だけどまあ、ここまで話せば察せるだろ。

きっと……。


真澄は一つ呼吸を置くと俺を見つめた。


「……あたしと友達に、なってよ」


「おう」


真澄の言葉に間髪入れず答える。


「……ぷっ、即答?」


「別に悩む事じゃないだろ」


「ふーん……あっそ」


そんな憎まれ口を叩きながらも、その顔は笑っていた。




護衛と言う特性上、その護衛対象と必要以上に親しくすることは好ましくは無いだろう。

任務に支障を来す可能性だって出てくるかもしれない。


「宗君、コーヒーのおかわりいる?」


だけど、この頑張り屋な少女の事を、友人として少しだけ支えられたら、そんな事を思ったりするのだった。


「ああ、お願いするよ」


「うんっ」















お読み頂きありがとうございました。


今回は真澄ちゃん回でした。

いい加減、ぼちぼち解決に持って行きたいですね。


前回は愛奈ちゃんが真澄ちゃんと間接的なエンカウントを果たしました。

今後はどうなるか、面白くなるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ