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第59話 やっぱり

長らくお待たせしました。

本日もよろしくお願いいたします。







「「「いらっしゃいませ」」」


「こんちわ、やってるかい?」


俺が手伝う斉恵亭に初めての客がやって来た。

暖簾をくぐり顔を出したのは40歳くらいの男性だった。


「お、焼鳥屋のおやじか。珍しいじゃねぇか」


男性客に返事をしたのは俊夫さんだった。

焼鳥屋のおやじと言っていたが、商店街の店だろうか。


「よう。今日はかあちゃんが同窓会とか言って出掛けちまってよ。たまには俊夫んとこにでも顔出すかと思ってな。腹空いたから早いが食っちまおうと」


「そうかい、ま、座ってくれや」


「千葉さんこんにちは。カウンターでよろしいですか?」


「お、アイシャさんどうもね」


千葉さんって言うのか。

アイシャさんに案内され焼鳥屋の千葉さんは席に着いた。

千葉さんの座った席は6つ並ぶカウンター席の一つだ。

この斉恵亭だが、町の定食屋としては中々広い店内をしている。

定食屋として思い浮かべると、テーブルが4つも無いくらいの狭苦しい店内を想像する人も少なくないのでは無いだろうか。

しかし、この斉恵亭、外見に見合わない内装をしている。

表の入口から建物の奥行きがあるのか、結構な広さがある。

目算だが10坪は優に越えている。

先ほど千葉さんを案内したカウンターを除いて他にテーブル席が8つあるのだ。

それでも、余裕がある店内だが基本的に二人で回す上で限界の席数なのかも知れない。


「愛奈ちゃんもこんにちは……お?」


千葉さんは斉藤さんに挨拶するとその視線を俺へ向けた。


「こんにちは! あ、彼は沢良木君でわたしのクラスメイトなんです!」


「へえ、そうかい!」


「こんにちは、沢良木と言います。今日はちょっと手伝いでここにお邪魔してました」


「沢良木君か。俺は千葉ってんだ。隣で焼鳥屋やってるから良かったら来てくれや」


お隣さんかい。

言われて見れば確かに隣に千葉って看板上がってた気がするわ。


「ええ、機会があれば是非」


「千葉さん家の焼鳥凄く美味しいんだよ! 昔からよく食べてたんだ。わたしはももが大好きなんだぁ」


俺の隣の斉藤さんが教えてくれる。

その味を思い出してか、美味しさを思い出したような表情で話す斉藤さんに思わず俺も微笑んでしまう。

緩んだ斉藤さん可愛い。


「そっか、それなら食べてみたいね」


「おぉ? ひょっとして沢良木君は愛奈ちゃんのいい人なのかい?」


いい人って。あまり聞かない言い回しを。

俺と斉藤さんの会話を聞いていた千葉さんは突然そんな爆弾発言をした。

そんな事聞いたら斉藤さんが恥ずかしがるし、不快に思うんではなかろうか。


「いい?」


あれ?

しかし、いまいち理解出来なかったのか首を傾げる斉藤さんであった。

千葉さんは意味を教えようと口を開くが。


「お、おおいっ、焼鳥おやじっ! 注文はどうすんだ!? 早く決めちまってくれよ」


割り込むように俊夫さんが言葉を被せてきた。


「んあ? ああ、そうだな。んー何にすっかな?」


「今日は良い鯖入ったぜ」


焼鳥おやじとか酷い言い方だな。

肝心の千葉さんは気にしてないようだけど。

千葉さんの注意を引き質問を有耶無耶にしようと言う俊夫さんの作戦だろうか。

確かに愛娘が誰と付き合ってるとかそう言う話は、事実で無くとも聞きたくないよな。


「なら鯖の塩焼き定食頼むわ。それに魚を最近食って無いから食べたくなった」


「あいよ。少し待っててくれ」


俊夫さんはそう言うと厨房へと姿を消した。


「んで、愛奈ちゃんどうなの?」


背もたれに肘を置き振り返る千葉さんは斉藤さんに向かって再び問いかける。

俊夫さん、残念ながら全然誤魔化せて無かったぞ。


「違いますよ千葉さん。ただのクラスメイトですよ。ご飯をご馳走になる代わりに少しお手伝いさせて貰ってるんです」


斉藤さんの代わりに俺が答えた。


「なんだ、そうなんか。仲良さそうだからてっきりそうなのかと思ったが」


仲良く見えたのなら嬉しく思うけどね。

未だに学校の友達が一人のわたくしですし。


「えー? どういうこと?」


やはり気になるようで、斉藤さんも俺と千葉さんへ再び問いかけた。

なんだか俺から正直に教えるのも少し気恥ずかしいし、どうしたものかと口ごもっていると、腰掛けている千葉さんが少し可笑しそうに答えた。


「いやなに、沢良木君と愛奈ちゃんが仲良さそうだから付き合ってんかな、と思ってさ」


「っえ!? つ、つきっ……!?」


あー。

やっぱり真っ赤になってしまった。

チラチラと視線を俺に寄越しながら慌てている。

両手を胸の前でもじもじと動かして、握ったり開いたり。


斉藤さんには申し訳ないが……。

俺はその仕草で癒されてしまうんだぜ。

なんとも言えない小動物感。

うん、可愛い。


「あらあら」


アイシャさんは相変わらず微笑ましそうに斉藤さんを見ている。

やっぱり斉藤さん可愛いよな。

まあ、親から見れば当然か。


「つ、付き合ってないです、よ?」


よ?で俺を見る斉藤さんだが、何かあるのだろうか。

とりあえず肯定しておけばいいのか。

頷けと目で語られている気がする。


「そうですね」


「…………ぅぅ」


「あー、その、なんだ。……変な事聞いて悪かったね愛奈ちゃん」


「い、いえ……」


何故か俯く斉藤さんに千葉さんは、頑張れなんて声を掛けていた。





千葉さんの鯖定が来る前に、追加でお客さんが3組訪れていた。

近所の奥様達や作業服を着たおじさん等だ。

12時前にも関わらず入りは良さそうだ。


「あらっ、愛奈ちゃんの彼氏!?」


「い、いえっ、彼氏なんかじゃないですよ!!」


「お、愛奈ちゃんの彼氏か? ウチのガキを勧めようかと思ったんだがな」


「え! マジか! 地味にショックだなー!」


「だ、だから違いますって!!」


「お婿さんじゃないの?」


「お、お婿さんでもありませんっ!」


「あらあら愛奈ちゃん恥ずかしがらなくて良いのよ?」


「だからぁ!!!」



「……」


おおう。

斉藤さん大人気だな。

これは斉藤さんのご近所知名度が非常に高いと見受けられる。よくよく考えれば定食屋の可愛い看板娘とか人気が出ない訳が無いというもの。

この天使さんはローカルアイドル的ポジションを確立していらっしゃるのかもしれない。

皆いじって楽しんでいるようにも見えるけど。

ご近所のノリに隣の俺はひたすら苦笑いするしかない。


しかし、斉藤さんの全力否定を聞くたびに何故か胸が疼く。

事実だと分かっていても、そこまで否定されると虚しくなってしまう。

不思議と友達という関係まで否定されている気分だ。


まあ俺の心中は捨て置こう。

何はともあれ学校では見ることが出来ない斉藤さんの新たな一面を見れたので満足である。

最近はラブリーエンジェルの新たな一面を見つけるのが密かな楽しみになっている沢良木であります。


俺は斉藤さんに教えて貰った内容と、斉藤さんの動きを見て覚えながら仕事をこなして行くのだった。










――――――――――――――――――――









「……はぁ」


思わずため息が出てしまいます。

わたしは食事が済んだ方の食器を厨房の流しへと下げました。


只今の時刻は午後1時。

順調に店は回転してピークを少し過ぎた辺り。

入ってくる新規のお客さんも少なくなり、徐々に空席が出来てきました。


「ありがとうございました。またよろしくお願いいたします」


「ええ、ご馳走さま」


その声に視線を向けると帰るお客さんを見送る宗君の背中があった。

今帰られた奥さんもにこやかだったしイケメンに見送られ満足していった事だろう。

宗君がウチの店で働く事1時間とちょっと。既にその接客姿は様になっていた。

最初にした説明や恥ずかしかったわたしの接客のフリを見て基本的な動きは出来ていたし、その後も細かい所は時間が経つにつれて少しも気にならなくなった。


もう流石としか言えないよ。

本当に宗君って凄いですよね。

なんでも出来る人です。

カッコいいです。

自分の好意を寄せる相手がこんなに凄い人だとか誇らしいです。


だけど、もうわたし自身のプライドは粉々です。

ズルいですよ。

宗君に良いところ見せようと張り切っても必ずドジしてしまいますし、その度に宗君が何故かニコっとわたしを見てきます。お水を溢したり、注文の復唱を読み間違えたり他にも色々とやらかしてしまいました。

これじゃどちらが新人か分からないじゃないですか……。

宗君の笑顔が見れて嬉しいけど恥ずかしいし悔しいです。


お客さんがもう一組帰られたので、食器を再び回収して流しに運びます。

ママが洗い物をしていたので、洗いやすいように流しへ置いてホールへ戻ります。

昔から繰り返す動きに無意識でも体が動きますね。

これでも新人じゃないんですからね。


ホールへ戻ると壁際にポジションを落ち着かせ店を眺めます。

とりあえずわたしが動く仕事は無さそうです。


当然わたしの視線は一人の元へ。

宗君は帰るお客さんを見送っていた。



「……はぁ」


再びため息が出てしまう。

その理由は宗君の仕事ぶりに落ち込むからでは無いのです。




――ただのクラスメイトですよ――



……やっぱりそうなのかな。


「……はぁ」


家族や宗君に気付かれないようにため息をもう一度ついた。


先ほど千葉さんとの会話で宗君の口から聞いた言葉がわたしの胸に重くのしかかっていた。

あの時は千葉さんの言葉の意味が分からず、宗君の言葉も理解出来なかったけれど、千葉さんに意味を聞いて気が付いた。


そのあとの宗君の反応や言葉を聞いても、わたしを意識している様子が見られなかった。

それが更に追い討ちを掛けていた。


近所の顔見知りの人達にからかわれていた時は恥ずかしさから必死に否定していたけれど、それと同時に周りから宗君との関係を誤解される事に対して卑しいと思いながらも嬉しさを感じていた。

わたしは舞い上がっていたけれど、隣の宗君を見ると苦笑いしていた。


やっぱりわたしと誤解されると迷惑だったかな。

わたしは否定したから大丈夫、かな。


別に宗君にそう言われた訳でもないし、わたしの想像でしか無いのだけれど、気持ちはどんどんと卑屈に落ち込んで行った。



気を引き締めないとと思いながらも、心ここにあらずといった感じで仕事をしていると、気が付けば時刻は2時を過ぎていた。

悶々と過ごしているうちにずいぶんと時間が経っていたようだ。


「「ありがとうございました」」


宗君と二人でお客さん達を見送る。

店に居たお客さんは今の方達で終わりだ。

一応店は2時半まではやっているけれど、いつもの感じだとおそらくはもう入らないと思われる。


「斉藤さんお疲れ」


そう言うと宗君がわたしに笑みを向けてくれました。

立ちっぱなしだった疲れが癒されるような気さえします。



やっぱり好きだよ。


その笑みに胸がトクンと一つ高鳴ります。

それは卑屈だった心が解れるようで。

彼になんと思われていようとも片道だけの恋心だとしても。

わたしは自分の気持ちを噛み締めるのだった。



「……うん、沢良木君も、お疲れ様」


恥ずかしさに思わず顔を背けてしまいます。

しかし、宗君は何故かわたしの顔を覗き込もうと首を傾げます。


「……斉藤さん、具合悪くない? 仕事中も少し調子悪そうに見えたから心配だったんだよ」


うぅ。

そのカッコ良い顔でそんなこと言われたらキュンと来ちゃうじゃないですか。

に、逃げなければハートが持ちません。


「だ、大丈夫だよ! そ、それより片付けないと!」


わたしは先程帰ったお客さんの食器を片付けるべく踵を返しました。

逃げたとも言います。


「あ、俺がやるよ。斉藤さんは休んでてよ」


しかし、沢良木君はそう言うと逃げたわたしを追って来てくれました。


ああ、もうっ。

好きです。

ほんと好きです。

笑顔が好きです。

気遣いしてくれる所も好きです。

わたしに優しくしてくれる所も好きです。


好き。

大好き。


「……きゃっ!?」「斉藤さんっ」





何が起こったか理解出来ませんでした。


気が付けば。


「……大丈夫?」


「……」


宗君に抱き抱えられているわたしが一人。

目と鼻の先には宗君の顔が。


わたしが足を滑らせ転びそうになった所を宗君が助けてくれたようです。

床を見れば濡れた跡が見える。

わたしが先程水を溢してしまった所です。

わたしの不始末です。

不甲斐ないです。


だけど、また宗君に助けられました。

いつもわたしは宗君に助けられています。

なんでそんなに助けてくれるのでしょうか。

王子様に見えても仕方ないと思いますよ?


「斉藤さん?」


「…………す、き」


「へ?」










あ、あれ?


……ふあっ!?


わたし何言ってんのっ!?

何言ってんのっ!?


な、何か!

何か言って誤魔化さないと!

誤魔化して……!

すき、好きな、好きな!

好きなー!


「す、すす、好きな食べ物は何ですか!?」


「お、おう?……うどん?」


何なんですかー!?

好きな食べ物って!!どういうこと!?

この状況で一体どんな質問ですか!?

でも宗君ってうどん好きなんですね!

一つ宗君のことを知ることが出来てラッキーです!

って、そうじゃなくてー!!


うあー!

どうしようっ!

顔熱いよ!!


「大丈夫!? 顔赤いよ!?」


大丈夫です!知ってますっ。


パニックで宗君から離れることも出来ずに宗君を見つめるばかり。


「だ、大丈――」


宗君へ答えようと何とか言葉を口にしたわたしの声だったけれど。


「愛奈ちゃんどうかし……って何やってんだ宗っ!?」


わたしと宗君の声に様子を見に来たパパの声に遮られた。


「ぱ、パパ、これはっ」「俊夫さん、これはっ」


わたし達二人は声を揃えて言い訳しようとするけれど。

その手を離す事をお互いに思い付かなかった。


「い、いい、いつまでくっついてんだ!!」


「あらあら」


パパの慌てる声とママの呑気な声がわたしの耳に届いた。












お読み頂きありがとうございました。


斉藤さん好き好き回。

斉藤さんがポンコツになってきましままままま。

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